絶対殺してやる
エディルは動かなかった。
呼吸もない。
胸も上下しない。
完全な沈黙。
「あ、死んだ」
レックスがつまらなそうに呟く。
「さすがレックス」
ドレイクが軽く笑う。
レックスは肩をすくめた。
「いや、魔族雑魚すぎ」
大剣を肩に担ぐ。
「炎の悪魔ってなんか強そうだから先に来たけどさ」
周囲を見回す。
崩れた城。
燃え続ける大地。
無数の死体。
「大したことないね」
マリンが杖をくるりと回した。
「次どこ行く?」
「うーん」
レックスは少し考える。
「近くに山あったよな」
「そういやあったな」
ドレイクが頷く。
「ドワーフとか、そのへん?」
「了解」
拳を鳴らす。
「そこにしよ」
アイリーンはジュラの遺体を見下ろしながら、残念そうに言った。
「ドワーフにイケメンっていると思う?」
「……知らないよ」
ノヴァがぼそりと返す。
猫背のまま、弓を背負い直した。
五人はそのまま歩き出す。
誰も振り返らない。
極炎魔族の城。
王。
側近。
住民。
すべてを殺した場所を。
まるで――
ただの狩場だったかのように。
五人は去っていった。
その場には。
燃え続ける城と、
大量の遺体と、
そして――
動かないエディルの体だけが残された。
五人が去った後。
その場には、炎の音だけが残っていた。
崩れた城。
焼け焦げた大地。
無数の死体。
その中心で――
エディルの指が、わずかに動いた。
「……ぐっ」
かすかな息。
喉の奥から血が込み上げる。
エディルはゆっくりと目を開いた。
視界が滲む。
(……生きてる)
だが。
体は、もう動かない。
肋骨は砕け、内臓も潰れている。
魔力もほとんど残っていない。
(ギリ……致命傷は避けたけど)
血を吐く。
(……死ぬ)
本当に、ギリギリで生きている状態だった。
このまま放っておけば、すぐに死ぬ。
エディルは地面に倒れたまま、震える目で周囲を見る。
ジュラの遺体。
父の遺体。
燃え続ける城。
「……ジュラ」
声が震える。
「親父……」
涙が頬を伝う。
「なんで」
拳が震える。
「なんでこんなことに」
視界がぼやける。
「なあ、なんで……」
長い沈黙。
炎の音だけが響く。
そして。
エディルは歯を食いしばった。
目が、憎しみに染まる。
「……絶対」
血を吐きながら、呟く。
「絶対、殺してやる」
絶対に殺す。
その執念だけが、エディルの中に残っていた。
それ以外は何もない。
ただ、その感情だけが日に日に強く、濃くなっていく。
城は崩壊したままだった。
だが、襲撃の後に燃え続けていた炎はすでに消え、
少しずつではあるが、魔界は元の静けさを取り戻しつつあった。
風が吹く。
溶けた大地も、ゆっくりと冷えていく。
だが。
エディルの横に倒れている父の遺体は、
日に日に腐り始めていた。
腐敗臭が周囲に漂う。
皮膚は黒ずみ、
肉は崩れ、
骨が見え始めている。
父だけではない。
ジュラ。
城に仕えていた従者たち。
多数の遺体も同様に腐っていく。
辺りはすでに――
地獄のような光景になっていた。
ハエが集る。
腐臭が充満する。
それでも。
その中で。
一人だけ、動いている存在があった。
エディル。
骨が折れ、
内臓が潰れ、
ほとんど死んでいる体。
それでも。
執念だけで。
少しずつ。
少しずつ。
身体を再生させていた。
指が動く。
肉が戻る。
砕けた骨が、ゆっくりと繋がる。
(こんな惨めな思い……)
血の混じった息を吐く。
(……殺してやる)
その目には、もう涙はなかった。
あるのは――
憎悪だけだった。




