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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
魔界壊滅編
3/78

ふざけんなよ

イフリートの巨体が、地面へと崩れ落ちた。

炎はまだ消えていない。

だが、その体はもう動かない。


「……親父」

震える声で、エディルは呟く。

イフリートには、まだ息があった。

焼け焦げた顔をわずかに動かし、ゆっくりとエディルを見る。


「……にげろ」

血を吐きながら、かすれた声でそう言った。

「エデ――」


最後まで言葉は届かない。

ぐしゃり。

鈍い音が響く。


レックスの大剣が、振り下ろされていた。

まるで虫でも踏み潰すように。

イフリートの頭は、その場で粉々に砕け散った。


「はい、そこまで」

レックスが、作業を終えたかのような声で言う。


何事もなかったように、大剣を肩へ担いだ。

エディルの視界が揺れる。


同族。

城の従者たち。

側近。

父。


すべてを。

何の罪悪感もなく。

ただ、殺した。


その男を見た瞬間。

エディルの中で、何かが完全に切れた。


「……お前」

拳が震える。

歯が軋む。

目の奥が、焼けるように熱い。


「――ふざけんなよ」

こいつらは、ヤバい。

本能で分かる。 


だが――

それでも、引けなかった。

エディルはゆっくりと前へ出る。

拳を握る。

そして、低く呟いた。


「――魔具召喚」

空間が歪む。

黒い裂け目が開き、そこから現れたのは――


巨大な大鎌。

エディルの身長を優に超える長さ。

刃は黒い炎で形作られ、触れれば魂まで焼き尽くしそうな禍々しい気配を放っている。


それは魔族の究極奥義。

魔具。

魔力が一定以上に達した者だけが、生涯で一度だけ具現化できる武器。

創造主の魔力によって強さが決まり、その形は自由。

剣でも、槍でも、弓でも。

本人のルーツや趣味、思想までもが反映される。

だが。

一つだけ、絶対の制約があった。


一度創造したら、二度と変えられない。

それが、その者の「最終武器」となる。


エディルは鎌を握る。

黒炎が揺れる。


「絶対、殺してやるからな」

その目は、もういつもの腑抜けたものではなかった。

本気で殺しに来ている目だった。


だが。

レックスは、まるで面白い玩具でも見つけた子供のように口を開く。


「なにそれ」

少し首を傾げる。

「もしかして、人器と一緒?」


「……は?」

エディルが怪訝そうに眉を寄せる。


レックスは肩をすくめた。

「俺らは人間だから、人器っていうのかな」

「魔族も同じなんだ」


「だから何だ」

エディルが吐き捨てる。


レックスは大剣を軽く掲げた。

光を反射する、巨大な刃。

「俺の人器はこれ」

少し笑う。


「これで勝負しよ」

「上等だ」


エディルは黒炎の大鎌を肩に担ぐ。

「人器だか何だか知らんけど」

ゆっくりと構えた。

「――俺はお前を殺す!!」


地面を蹴る。

爆発のような踏み込み。

黒炎の鎌が一直線に振り下ろされる。


だが。

キンッ。

金属音。

レックスが片手で大剣を持ち、軽く受け止めていた。


「おお」

少し驚いたように、レックスが声を漏らす。

「速いじゃん」


エディルは構わず連撃を叩き込む。

横薙ぎ。

振り上げ。

黒炎が軌跡を描き、地面が裂け、岩が溶ける。

普通の相手なら、それだけで死んでいる。


だがレックスは。

軽く後ろへ跳び、ひらりと回避した。

「おもしろいな」


ドレイクが笑う。

「レックス、遊んでんの?」


「ちょっとだけ」

レックスは軽く答え、再びエディルへ視線を戻す。

エディルは息を荒げながら鎌を構える。


「でもさ」

レックスが大剣を肩に乗せる。

「それ、本気?」


「は?」

エディルが眉をひそめる。


「魔界って、もっと強いと思ってた」

その瞬間だった。

レックスの姿が、エディルの視界から消える。


「――!」

背後。

大剣が振り下ろされる。

咄嗟に鎌で受ける。


ドォン!!

衝撃。

地面が陥没し、そのままエディルの体が叩き込まれる。

「……ぐッ」

骨が軋む。


レックスが覗き込む。

「へえ」

「まだ生きてる」

「魔族って頑丈なんだな」


エディルの目がギラつく。

血を吐きながら、笑う。

「……当然だろ」

「誰に喧嘩売ってると思ってんだ」

黒炎が鎌にさらに燃え上がる。


「お」

レックスが楽しそうに目を細めた。

「いいじゃん」

「もうちょい遊べそう」


しばらく戦いは続いた。

だが、エディルの攻撃は一向に当たらない。

飽きてきたのか、レックスは大剣を肩に担いだまま、つまらなそうに呟いた。


「頑丈なのは、めんどいな」

少し空を見上げる。

「まだ海とか森とか行ってないし」

観光の予定でも考えるような口調だった。


「早く終わらせろよ」

ドレイクが面倒くさそうに言う。


「血が飛ぶと服が汚れる」

マリンが眉を寄せる。


「この堕天使の羽ほしいんだけど」

アイリーンは相変わらず目を輝かせている。


「……早くして」

ノヴァがぼそりと呟く。


「はいはい」

レックスは軽く答えた。


そして。

大剣を構える。

「じゃ、終わりね」


その瞬間。

空気が変わった。

さっきまでの遊びの気配が消える。


エディルの背筋に、初めて本物の寒気が走った。

(……やば)

思考が追いつく前に。

レックスが消える。


次の瞬間。

エディルの視界が真っ白になった。


斬撃。


体が宙を舞う。

地面を転がり、岩に叩きつけられる。

鎌が手から離れた。


「……がッ」

息ができない。

肋骨が折れている。


レックスがゆっくりと歩いてくる。

「魔具だっけ?」

落ちた鎌を拾い上げる。

黒炎が揺れる。

「かっこいいじゃん」

軽く振る。


その瞬間。

鎌の黒炎が暴れ、周囲の岩を焼き裂いた。

「お」

レックスは目を細める。


「でも」

ポイ、と無造作に放り投げた。

「持ち主弱いと意味ないな」


エディルの前で立ち止まる。

「じゃ」

大剣を持ち上げる。

「死んで」

振り下ろされる刃。

エディルは動けない。

骨も、内臓も、壊れている。


目の前には――

父の遺体。

ジュラの遺体。

燃える城。


(……くそ)

(俺)

(まだ)

そこで。

剣が振り下ろされた。

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