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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
魔界壊滅編
2/78

お前らがやったの?

城の外へ出た三人は、言葉を失った。

そこに広がっていたのは――

崩壊した魔界だった。


もともとこの一帯は火山地帯だ。

赤黒い岩山が連なり、溶岩が流れ、炎が絶えず燃え続ける土地。


だが今、目の前に広がっている光景は、そんな自然の荒々しさとはまるで違っていた。


山は崩れ落ち、

地面は大きく裂け、

あちこちで炎が燃え盛っている。


そして――

城に仕えていた魔族たちの遺体が、いくつも重なっていた。

兵士。

侍従。

世話係。

誰も動かない。


静まり返った地面の上で、黒い煙だけがゆらゆらと立ち上っている。


「……なんだこれ」

エディルは呆然と呟いた。


ジュラはすぐに周囲へ視線を巡らせる。

翼がわずかに広がり、警戒態勢に入った。

「ただ事ではありません」

低い声で言う。


イフリートは静かにその光景を見つめていた。

その瞳がわずかに細くなる。


「……まさか」

短く息を吐き、続ける。

「人間界の侵入者か」


ジュラがすぐに反応した。

「ですが……長い歴史の中で、魔界は禁忌とされていたはずでは?」


「だからこそだ」

イフリートは低く返す。

「それが破られたのなら――」


その時だった。

突然、閃光が走る。

辺り一面を覆い尽くすほどの白い光が爆発した。


「っ!」

エディルは思わず目を閉じる。

ジュラもイフリートも、反射的に視界を遮った。

光は一瞬で消えた。


静寂。

ゆっくりと目を開く。


そこに立っていたのは――

見慣れない五人の人影だった。


閃光が消えた後の魔界の大地。

その中心に、五人が立っている。


エディルは目を細めた。

「……人間?」


中央に立つ男。

金髪のショートヘア。

肩幅の広い体格。

その手には、巨大な大剣が握られている。

刃は黒く、重々しい。

――レックス。

その後ろに四人。


赤髪の短髪の男。

武闘家のような格好をし、腕を組んでいる。

――ドレイク。


ピンク色の長い三つ編み。

白い装束を身にまとった女。

口元には不気味な笑み。

――アイリーン。


水色の長いウェーブヘア。

魔道士のローブを纏い、杖を持つ女。

――マリン。


そして最後に。

少し離れた場所に立つ、猫背の男。

緑色の前髪が片目を隠している。

狩人のような装備で、背中には弓。

――ノヴァ。


五人は、まるで散歩でもしているかのように静かにそこに立っていた。


だが。

その足元には、無数の魔族の死体が転がっている。

エディルはゆっくりと周囲を見渡した。

そして再び、五人を見る。


「……お前ら」

喉の奥から、低い声が漏れる。

「これ、全部やったのか?」


ドレイクが鼻で笑う。

「そうだけど?」


マリンは軽く肩をすくめた。

「思ったより弱かったね」


アイリーンは楽しそうに笑う。

「でも楽しかったですよ。悲鳴って素敵です」


ノヴァは弓を軽く持ち直し、つまらなそうに言う。

「魔族ってさ、こんなもん?」


レックスだけが黙っていた。

そして一歩、前に出る。


巨大な大剣が地面に触れ、重い音を立てた。

ゴンッ。

レックスは真っ直ぐイフリートを見つめる。

「見ぃつけた」

楽しそうな声。

「魔界の王」



何の悪びれる様子もない五人。

魔界の大地には無数の遺体。

その中心で、まるで雑談でもしているかのように立っている。


エディルの中で、何かが音を立てて軋んだ。

だが――


先に動いたのはジュラだった。

「ふざけるな!!」

怒声が響く。

「蛮族共が!!」


ジュラの背中から、黒い翼が大きく広がる。

堕天使の翼。

両手には炎が宿り、膨大な魔力が一気に解放された。

いつもの冷静な表情は消え、目は血走っている。

地面を蹴る。

一瞬でレックスとの距離を詰めた。

手を伸ばす。

顔面を掴み、そのまま焼き潰す――

はずだった。


斬撃。

「……は?」


気づいた時には。

巨大な大剣が、ジュラの腹を貫いていた。

刃は背中から突き抜けている。

ジュラの体が、ゆっくりと持ち上がる。

血が滴る。


レックスは無表情のまま、剣を引き抜いた。

ジュラの体が地面に崩れ落ちる。

動かない。

絶命していた。


沈黙。

アイリーンが楽しそうに覗き込む。

「やだぁ。この人? 天使なのかなぁ」

翼を指差し、首を傾げる。


「でも羽が黒いね」

マリンが近づき、ジュラの髪を掴んで持ち上げた。

淡々と観察しながら呟く。

「翼が黒いな。多分、堕天使じゃないのか?」


「きゃー!」

アイリーンは目を輝かせる。

「かっこいい! 欲しい!」


マリンは引きつった顔で振り返る。

「何言ってんの、アンタ……」

そう言いながら、ジュラの体をその場に放り投げた。


ドサッ、と鈍い音。


「ちょっとやめてよ!」

アイリーンが不満そうに声を上げる。


マリンは冷めた目で答えた。

「アンタが興奮するから」


目の前で側近が死んだ。

あっという間に。

何もできずに。

エディルの怒りは頂点に達していた。


だが――

横に立つ父、イフリートは、それ以上に怒っていた。


「お前等……どこの誰か知らないが」

地の底から響くような低い声。

「俺の部下や家族に手を出そうとは、いい度胸だな」

炎が噴き出す。


「――殺してやる」

その瞬間、周囲の温度が跳ね上がった。

イフリートの体から焼き尽くすような炎が噴き上がる。

全身が赤黒く染まり、まるで炎そのものの姿へと変わっていく。

熱波で大地が溶け、空気が歪む。

体は巨大化し、背から悪魔のような翼が広がる。


その姿はまさに――

炎の悪魔。

エディルですら久しく見ていない、極炎魔族の真の姿だった。


レックスが興味深そうに眺める。

「へえ。これが極炎魔族の姿なんだ」


ドレイクは腕を組んだまま、淡々と呟く。

「熱いな」


ノヴァは弓を見やりながら、つまらなそうに言った。

「俺の弓で貫けなさそう」


人間界から侵略してきた五人は、

イフリートの姿を見ても動じない。

どころか、軽口を叩く余裕すらある。


イフリートは構わなかった。

巨大な腕を振り上げる。


「――死ね」

頭上から拳が振り下ろされる。

山をも砕く一撃。

五人まとめて叩き潰すはずだった。


だが。

反撃は――一瞬だった。


エディルの視界が赤く染まる。

何が起きたのか理解できない。

ただ。

父の巨大な体が、ゆっくりと傾いた。


胸。

そこには。

巨大な剣が、深々と突き刺さっていた。

レックスが大剣を振り抜いている。

ドレイクは腕を叩き折り、

マリンの魔法が炎を裂き、

ノヴァの矢が翼を貫き、

アイリーンの鞭が体を拘束していた。


たった一瞬。

連携。

それだけで。

魔界最強の王は――

貫かれていた。


「……親父?」

エディルの声は、ひどく小さかった。

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