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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
弓士 ノヴァ
37/78

お前がぶっちぎり

金属の拘束具が、ユキノへと伸びる。


――その時。

ノヴァの意識が、わずかに揺れた。

(……来る)


気配。

いや――殺気。


次の瞬間。

影が、弾ける。

「――っ!」

ノヴァの顔面へ、鋭い蹴り。


だが――

「……遅い」

わずかに体を傾けるだけで、それを躱す。

風を切る音だけが残った。


「……チッ」

エディルは舌打ちし、そのままユキノの前へ滑り込む。

庇うように、立つ。

ノヴァと、正面から対峙する。

空気が、変わる。


エディルの中で、何かが弾けていた。

魔界の壊滅。

仲間の死。

――だが、それ以上に。


目の前で、ユキノが傷つけられたこと。

そして。

守れなかった、自分。


黒髪が、揺れる。

見開かれた瞳。

オレンジ色の奥で、瞳孔が開く。

わずかに覗く牙。


「……何しやがった」

低く、押し殺した声。


「捕獲途中なんだけど」

ノヴァは、いつも通りの調子で答える。

「ユキノはお尋ね者」

「だから捕まえて、手柄欲しかっただけ」

「跡つけてたら男もいるし」

「一人になったところ狙っただけ」

淡々と。

感情のない説明。


「こういうの、FPSだと常識でしょ?」

空気が、歪む。


「何言ってんだお前、わからんことを‥」

エディルの怒りは、さらに膨れ上がる。


だが――

ふと、ノヴァの視線が止まる。

エディルの顔を、じっと見る。

(……こいつ)

(どっかで見たことある)

ぼんやりと、思考が巡る。


その間に。

エディルはしゃがみ込み、ユキノへと向き直る。

「大丈夫か!?」

「……うん、大丈――」

言い終わる前に。

エディルは、そのままユキノを抱きしめた。


「ちょっ……やめて!」

ユキノが慌てて抵抗する。

だが、力は弱い。


「守ってやれなくて、ごめん……!」

「痛いよな……本当に……ごめん」

強く、抱きしめる。


離さない。

ユキノは顔を赤らめながらも、言葉を失う。


ノヴァは、その様子を見ながら。

「……何してんの」

ぽつりと呟いた。


三人の間に、奇妙な静寂が落ちる。

怒り。

困惑。

羞恥。

それぞれの感情が、噛み合わないまま。


――だが。

その静けさの奥で。

確実に、戦いの火種は燃え始めていた。


異様な空気が、続く。


(……ってか、いつまでしてんの)

ノヴァは、ぼんやりと二人を見る。

(目の前でやられると、普通にムカつくんだけど)

(リア充ってやつ?)

(……死ねばいいのに)

淡々と。

本気で、そう思った。


次の瞬間。

ノヴァの手が、鞄へと伸びる。

取り出すのは――ナイフ。


間を置かず。

一直線に、エディルの背へ。


「――っ!」

ユキノが気づく。

「あ!後ろ!!」


エディルは即座に振り返る。

「チッ――!」

黒炎が、吐き出される。

轟く熱。


だが。

「……それ、見たことある」

ノヴァは、軽く身を逸らすだけで回避する。


炎は空を裂き、森を焦がす。

「てめえ!」

エディルの怒声が響く。

「感動の再会、邪魔してんじゃねえ!!」


「いや」

ノヴァは気怠げに答える。

「普通、目の前でいちゃつかれたらムカつくでしょ」

空気が、また歪む。


「は?」

エディルの眉が跳ねる。

そのまま、吐き捨てるように言う。

「王都の勇者一行ってやつはな」

「一人の女も口説けねえ」

「振られた腹いせに、故郷燃やして」

「挙句、そんな変な拘束具で変なプレイしてんのかよ」

「ほんと終わってんな」

一歩、踏み出す。

睨みつける。


「その中でもお前」

「空気読めねえし、感動の再会も邪魔するし」

「ほんとダメなやつだな」


そして。

決定的に。

「ブサイクには何やらせてもダメだな」


沈黙。

「……ブス?」

ノヴァが、わずかに首を傾げる。


「当たり前だろ」

エディルは鼻で笑う。

「勇者一行、全員ブッサイクだけどな」

「その中でもお前がぶっちぎり」

「喋り方もキモいし、普通に腹立つ」


(クソうぜえ)

ノヴァの思考が、初めて濁る。


だが――

その瞬間。

何かが、繋がる。

声。

風貌。

そして――黒炎。


(……ああ)

(思い出した)


魔界襲撃。

レックスにあっさりやられていた――

あの魔族。


ノヴァの口元が、ゆっくりと歪む。

「……ああ、なるほど」

「お前か」

その一言で。

空気が、完全に変わった。



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