表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
弓士 ノヴァ
36/78

どこに行った

(逃げないと――)

ユキノは反射的に走り出そうとする。

その瞬間。


ドンッ

右足に、衝撃。

「――っ!」


視線を落とす。

刺さっているのは――矢。

先ほどほどの威力はない。

だが、理解する。


(足を……狙ってる)

動きを奪い、体力を削るための一撃。


確実に仕留めるための、手順。

「……っ、く……!」

痛みが遅れて襲ってくる。

血が滲む。


それでも、ユキノは歯を食いしばり――

矢を引き抜いた。

走る。

足を引きずりながら、それでも前へ。


「はぁっ……はっ……」

呼吸が乱れる。

血が地面に落ち、道を刻んでいく。


「……逃がすかよ」

木々の奥から、声。

ノヴァ。

淡々とした声色のまま、距離を詰めてくる。


ヒュンッ

ユキノのすぐ横。

地面に矢が突き刺さる。

威嚇。


だが、その軌道は正確だった。

逃げ道を、少しずつ削っていく。

ヒュンッ

また一本。

前方の木に突き刺さる。

進路が、狭まる。

追い詰められている。

確実に。




その頃――

「あー……」

エディルは孤児院の扉を出た。

「なんも情報得られんかった」

「疲れたんだけど」

悪態をつきながら、歩き出す。

ユキノが待っているはずの場所へ戻る。

だが――


「……いない?」

足を止める。

辺りを見回す。

気配がない。

(どこ行った……?)


その時。

視界の端に、違和感。

一本の木が――倒れている。

エディルは近づく。

視線を落とす。

地面。

そこにあったのは――

血。


「……」

一瞬で、空気が変わる。

軽さが消える。

点々と続く、血痕。

森の奥へと、伸びている。


「……ユキノか」

低く、呟く。

その声に、迷いはない。

次の瞬間。

エディルは駆け出していた。

血の跡を辿り――

ユキノを、探すために。



「はぁ……っ、はぁ……!」

ユキノは、ただひたすら走っていた。

右足が痛む。

刺さった矢を引き抜いたはずなのに、

そこから熱を持つような違和感が広がっていく。

ヒュンッ

木の幹に、矢が突き刺さる。

逃げ道を塞ぐように。

誘導されている。

森の奥へ、奥へと――


(……おかしい)

息が荒い。

それだけじゃない。

(刺された……だけなのに)

足に、力が入らない。

「っ……!」


一歩踏み出す。

ぐらり、と体が揺れる。

(なんで……)

(こんなに、動かないの……?)

じわり、と。

足先から、何かが這い上がってくる。

鈍い痺れ。

感覚が、薄れていく。

(……痺れ?)

違和感が、確信に変わりかける。


だが、答えに辿り着く前に。

ヒュンッ

また一矢。

すぐ横をかすめ、地面に突き刺さる。

「っ……!」

考える余裕もない。

ただ、逃げるしかない。



ユキノに撃ち込まれた矢には――毒が塗られていた。

神経を蝕み、徐々に身体の自由を奪う毒。

致死量ではない。

だが、確実に。

動きを奪うためのもの。

そんなことを、ユキノは知らない。

ただひたすらに。

迫る死から逃れるように、走り続けるしかなかった。



気づけば――

ユキノは、少し開けた場所へと出ていた。

木々が途切れ、逃げ場がない。

(どこか……隠れる場所……)

視線を走らせる。


だが――

ヒュンッ

「……っ!」

今度は、確実に。

左足へ、矢が突き刺さった。


「……いっ!」

声にならない悲鳴。

力が抜ける。

そのまま、地面へと崩れ落ちた。

両足を、奪われた。

呼吸は荒く、視界も揺れる。

逃げ場はない。


そして――

「……ユキノ・ヒマツリか?」

背後から、声。

振り返る。


そこにいたのは――

一人の男。

猫背気味の姿勢。

緑の前髪が片目を隠し、表情は読み取れない。

だが、その奥の視線だけは――

確実に、“獲物”を捉えていた。

弓を片手に持ち、気怠そうに立っている。

ノヴァ。


「……だったら、何」

ユキノは歯を食いしばり、言い返す。

だが、ノヴァは聞いているのかいないのか。

淡々と、言葉を続けた。


「写真で見るより可愛いな」

「てか、なんでこんなとこにいんの」

「お前の山に行かせた兵、殺したのやっぱお前?」

「隣にいたデカい男、誰?」


矢継ぎ早の言葉。

質問なのか、ただの独り言なのか。

温度がない。


「……まあ、いいや」

ノヴァは小さく息を吐く。

その一瞬で――空気が変わる。


「これからお前、拘束する」

「レックスのとこに連れてくから」

腰の鞄から、金属の拘束具を取り出す。

ゆっくりと、近づいてくる。

逃げる余地はない。


(……動けない)

体が言うことをきかない。

力が入らない。

視界が、滲む。


(ここで……終わり……?)


ノヴァの手が、伸びる。

ユキノへと――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ