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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
弓士 ノヴァ
35/78

クズの交渉術、再び

「やっと着いた……」

エディルは肩で息をしながら呟いた。

早朝に宿を出てから、ひたすら歩き続けた。

途中で何度もぐずりながらも、

昼過ぎには――

アルマ地区にある街、エグニスへと辿り着いた。


豊かな自然に囲まれながらも、人の往来は多い。

労働者の掛け声、商人の呼び込み。

活気のある街の音が、辺りに満ちていた。


「長かった……ここまで来るのに……」

少し涙ぐむエディル。


その横で、ユキノは冷めた目を向ける。

「少し歩いただけでこの程度?」

鼻で笑う。


「おい、ニートにとって外出は一世一代の大イベントなんだぞ」

「良かったじゃん。外に出るきっかけできて」

「ぐぬぬ……」

言い返せない。

歯ぎしりだけが響く。


そんなエディルを置いて、ユキノは歩き出す。

が――

ぴたり、と足を止めた。


「……おい、何してんだ」

「こ、これ……」


ユキノの指先。

その先にあったのは――

壁に貼られた、一枚の紙。


手配書。

そこに写っていたのは、自分の顔。


二人はすぐに路地裏へと身を滑り込ませる。

「どうすんの!?こんなとこまで私の顔貼られてんの!?」

ユキノの声が焦る。


だが、エディルはいつも通りだった。

「別に、今フード被ってるし大丈夫だろ」

「服変えてても怪しまれる可能性あるでしょ!」

「じゃあ――こうしとけよ」


そう言って、エディルは自然にユキノの腕を引いた。

そのまま、自分の腕へ絡ませる。


「ちょっ、なにこれ!?」

ユキノの頬がわずかに赤くなる。

エディルは気にした様子もなく言った。

「少し下向いてもいいけどさ」

「堂々としてない方が怪しいんだよ」

「そんなこと言っても……」

ユキノは視線を泳がせる。


だが。

エディルは一歩、距離を詰めて。

真っ直ぐ目を見る。

「ヤバくなったら、俺が守るから」


その声は、軽くない。

いつもの調子じゃない。

ユキノは一瞬、言葉を失う。

(……なんなの、この人)

調子を狂わされながらも――

小さく息を吐く。


「……わかった」

観念したように呟いた。

二人はそのまま、街の中へと足を踏み出す。

向かう先は――孤児院。

人混みの中へ紛れながら、

寄り添うように、歩き出した。



エグニスの端。

木々に囲まれたその一角に、孤児院はあった。

建物自体はやや古びている。


だが――

中から聞こえてくるのは、子どもたちの楽しそうな声。

それに混じる、職員たちの明るい声。

どこか、温かい空気が漂っていた。


「……着いたな」

エディルがぽつりと呟く。


その隣で、ユキノがじっと腕を見る。

「……いつまでこのつもり?」

「え?ずっと!」

エディルは即答する。

ユキノはため息をつき、強引に腕を外した。


「そんなぁ?!」

エディルは心底残念そうに肩を落とす。


「まあ、冗談はいいとして」

エディルは軽く咳払いをする。

「お前は隠れて待ってろ」

「……なんで?」

「顔割れてる犯罪者が孤児院行ったら大問題だろ」

「ああ……それはそうか」

ユキノは納得し、近くの木々の陰へと身を潜める。


「じゃ、行ってくる」

エディルは軽く手を振り、そのまま孤児院へ向かった。


入口の前で、一度足を止める。

(ここで、あいつらの一人が育ってたのか)

ほんの一瞬だけ、表情が変わる。

だがすぐにいつもの顔に戻り、扉をくぐった。


中に入ると、玄関口で掃除をしている年配の女性がいた。

女性は顔を上げ、エディルを見る。

「……どちらさまですか?」

わずかに警戒した視線。


(あ、怪しんでるな)

エディルはすぐに察する。


だが――

この男にとって、それは問題にならない。

若い女はもちろん、年配の女性ですら落とす。生粋の女好き。

その本領が、今発揮される。

「ちょっと、お伺いしたいことがありまして……」

柔らかい声色に変わる。

距離を詰め、自然な動きで女性の手を取る。




「えー?ほんとに?俺そんな若く見える?」

「みんなのほうが若いじゃん!綺麗な人多いし」

「俺もういい歳だけど、ここ住んでみんなに世話してもらおうかな」

「やだもう〜!」

「困っちゃうわねえ」


気づけば――

職員用の控室。

テーブルにはお茶と菓子。

そしてその周りを囲むように、女性職員たち。

年齢問わず、全員がエディルに笑顔を向けている。

まるで、どこかのキャバクラのような光景だった。


エディルの持ち前の

・軽口

・人懐っこさ

・顔の良さ

すべてが噛み合っていた。


(やっぱ俺、こういうのだけは得意だな)

内心でほくそ笑む。


そして。

場が十分に温まったところで――

エディルは自然な流れで、本題へと入る。


「んで、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「勇者一行にいる……ノヴァって奴」

「どんなやつだった?」


「ノヴァ様?」

「弓の名士になった子よね」

「昔から無口っていうか……あんまりおしゃべりな子じゃなかったかな」

口々に語られる。


だが、その中で。

一人、年配の女性職員が懐かしむように口を開いた。

「ノヴァ様ねえ……」

「何年か前だったかしら」

「ある日ね、この孤児院の前で、ふらふらしてたのよ」


エディルの目が、わずかに細くなる。

「どうしたの?って声をかけたらね」

「ここはどこだ、って聞いてきたの」

「それで、とりあえずご飯食べさせて……」

「親もいないし、出身地も分からないって」

「なんだか、訳ありな子でねぇ」


静かに語られる過去。

「そこから、この孤児院で育って」

「気づいたら、勇者様一行に選ばれて……」

「ほんと、懐かしいねぇ」


エディルはすぐに口を挟む。

「その時さ」

「ノヴァ‥様って、どんな感じだった?」

「性格とか、あと……力とか」


「性格はねえ……」


年配の女性は少し考える。

「やっぱり、あまりおしゃべりな子じゃなかったね」

「人と関わるのも、上手とは言えなかったかな」

「時々ね、他の子と喧嘩してたよ」

「魔法は……どうだったかしら」


少し首を傾げる。

「属性の魔法っていうより――」

「弓、ね」

「とにかく弓が上手だった」

「大きくなってからは、猟友会の人たちと一緒に狩りに出て」

「どんどん腕を上げていって……」

「王都兵の護衛なんかも任されるようになって」

「それで、勇者様一行に選ばれたのよ」


最後に。

年配の女性は、穏やかに微笑む。

「本当にね」

「誇りある子に育ってくれて、嬉しいわ」


エディルは最後まで話を聞いた。

だが――


(結局ただの昔話かよ)

確信に至る情報は、得られない。

胸の奥に、もやが残る。


「……ま、ありがとな」

軽く礼を言い、席を立つ。



その頃――ユキノ。

「遅い」

木にもたれながら、エディルを待っていた。


(どうせあいつのことだから……)

(女性職員とかに色目使ってんだろうな……)

ため息をつく。

――実際、その通りである。


ふと、足元に目を落とす。

そこに咲いていたのは――

鮮やかな赤い花。

この土地の光を浴びて、静かに揺れている。


(……綺麗)

ユキノは、少しだけ目を細めた。

これまでの人生のほとんどを、アルディス山で過ごしてきた。

麓へ降りることはあっても――

王都や、こんな遠い街に来ることはなかった。


(こんなの……見たことない)

自然と、体が動く。


「ちょっと……近くで」

しゃがみ込む。


その瞬間。

――音は、なかった。

ただ、空気が裂ける気配。

次の瞬間。


ドンッ

ユキノの頭上、わずか数センチ。

矢が木に突き刺さる。

衝撃で、幹が軋み――

そのまま、折れた。


「……っ!?」

言葉が出ない。

何が起きたのか、理解が追いつかない。

ただ、本能だけが告げていた。

(……今、死ぬところだった)



「うわ、普通そこでしゃがむ?」

どこからか、声。

軽い。

だが――

温度がない。


「……まあいいや」

「殺すより、生け捕りのほうがいいかな」

木々の奥。

姿は見えない。

だが確実に――“そこにいる”。


一人の男。

弓を構え、静かに狙いを定めている。

ノヴァ。

「次は、足でいいか」

淡々とした声。

迷いはない。

弦が、引かれる。

狙いは正確に――ユキノの足。





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