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わかりません

「神?そんなのいねえよ」

エディルは吐き捨てるように言った。


「神に選ばれるなら、俺みたいに善良で優しくてイケメンで女子供に好かれる奴だろ」

「こんなブ――」


グシャッ

「――――ッッ!!?」

言い終わる前に、ユキノの足が炸裂した。

エディル、悶絶。


男はその光景を見て、苦笑いを浮かべる。

空気を立て直すように、ユキノが口を開いた。

「その、“神に選ばれた”って……どういうことですか?」

「何か根拠があるんですか?」


男は、胸を張って答えた。

「ないよ!」

「ないんですか!?」

即答すぎる。

ユキノは一気に脱力した。


その横で復活したエディルが口を挟む。

「ほら見ろ。やっぱ神なんていねえじゃねえか」

エディルが騒ぐ中、男は一度咳払いをして話を続けた。


「ごめんね、確かに根拠はないんだ」

「でもさ、僕……空想とかファンタジーが大好きでね」

「だろうな、その見た目だし」

即刺すエディル。

だが男は気にしない。

むしろ目を輝かせる。


「最近ね、“異文化交流”ってやつで、他の地域の小説を借りたんだ」

「そしたら――これがもうすごくてさ!!」

身を乗り出す。

「異世界から来た人間が!」

「神に選ばれて力をもらって!」

「無双して!!」

「世界を救って!!!」

「最終的にハーレム!!!!」

「いやもう最高でさ!!!」

止まらない。

完全にスイッチが入っている。


エディルとユキノは、ただ黙ってそれを見ていた。

(……なにこれ)

(うるさい)

男はなおも語り続ける。


一通り語り終え、満足したのか――

ふぅ、と息を吐いた。

そして。


「……これで、勇者様一行のこと、わかったかい?」

自信満々に言い放つ。

間。

「わかりません!」

ユキノの即答。

静まり返る空間。

なんとも言えない空気だけが、その場に残った。



あの後。

どこか気まずい空気のまま、二人は店を後にした。

とりあえずプロフィール表だけは、しっかり持って。


「……なんか変な人だったね」

「だな」


短いやり取り。

人目を避けるように、二人は路地の奥へと移動する。

そこで改めて、紙を広げた。


「まあ、とりあえず――」

ユキノが口を開く。

「この出身地から当たって、勇者一行の情報集めるしかないね」

「だな。で、どこが一番近い?」


ユキノは酒場に置いてあった地図を広げる。

「王都がここで……」

指でなぞる。

「この位置からだと――ノヴァっていう弓士の地区かな」

「というと?」

「アルマ地区。行ったことないけど、王都からは比較的近いはず」

「どんくらいかかる?」

「知らないよ。行ったことないし」

「おい無能」

「誰が無能だ、このクソニート」

いつものやり取り。


だが――

一拍、間を置いて。

エディルは小さく息を吐いた。

「……ま、とりあえず旅ってことで」

気怠そうに立ち上がる。

「頑張りますか」

ユキノもそれに頷く。

「そうだね。地図を頼りに行こう」

二人は視線を交わし。

そして――歩き出した。

西。アルマ地区へ。




――その夜。

王都、勇者一行の広間。

「さあみんな!」

レックスが酒を掲げる。

「麻薬組織壊滅、おめでとう!!」

陽気な声。

酒が注がれ、笑いが広がる。


「おいおい、まだ飲むのかよ」

ドレイクが呆れたように言う。

「さっき大広間で宴会したばっかだろ」

「流石にもう寝ろって」


「まあまあ、いいじゃないか」

レックスは気にせず酒を配る。

結局、誰も断らない。


――そんな中。

レックスはふと、一枚の紙に目を落とした。

「あーあ……」

軽く肩をすくめる。

「こんな可愛い子だったんだ。本当に残念」


そこに写っているのは――

ユキノ・ヒマツリ。

手配書。


「本当に可愛い子ですねぇ」

アイリーンが微笑む。

「銀髪に、この目の色……綺麗」


「べつに普通じゃねえの?」

ノヴァは酒をあおりながら、素っ気なく言う。


だが。

ドレイクがふと思い出したように口を開いた。

「そういやよ」

「このユキノってやつの村、壊滅させた兵士達」

「連絡来てねえらしいぞ」


「え?」

レックスが眉をひそめる。

「有能な奴ら行かせたんじゃなかったのか?」

「でも目的は達成してるでしょ」

マリンが冷たく言い放つ。

「村は壊滅したんだから」


「まあそうだけどさ」

レックスは軽く笑う。

「誰が兵士達を殺したか分からないのは、ちょっと気持ち悪いよね」

「もしかして、この子がやったとか?」

「そんなわけないか」

くすくすと笑いが漏れる。


「辺鄙な山の集落でしょ?」

「そんなとこに強い奴がいるわけないって」


――その時。

ノヴァが、ぽつりと呟いた。

「……王都で、銀髪の女見た気がする」


空気が一瞬だけ、止まる。

「一瞬だったから、確信はねえけど」


「銀髪なんてそこら中にいるだろ」

ドレイクがすぐに流す。


「まあまあ」

レックスが笑う。

「まだこの子って決まったわけじゃないし」

「もしかしたら、もう死んでるかもしれないよ?」

再び笑いが広がる。

誰も深く気にしない。

酒を飲み、話は流れていく。


――ただ一人を除いて。

(もし、この女見つけたら……)

ノヴァはグラスを傾けながら、目を細める。

(手柄、全部俺のもんじゃね?)

その瞳の奥に。

静かに、野心が灯っていた。



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