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神に選ばれた人達

勇者一行はそのまま王都の城へと戻っていった。

人集りも、熱気も、徐々に引いていく。

二人はそれを、ただ静かに見届けていた。


――そして。

その後、二人はフードを深く被り。

王都の外れにある路地裏の酒場へと入った。

薄暗い店内。

酒と油の匂いが混じる、雑多な空気。

簡素な食事を前に、二人は向かい合う。


「で、ここからどうする?」

エディルはパンをかじりながら言った。

「城に突っ込むのは論外だな」

「その前に――情報がなさすぎる」


ユキノも静かに頷く。

「勇者一行の事、顔しかわからないもんね」

「わかったのは俺よりブサイクってことくらいか」

「それしか言えないの?」

「事実だろ?」

軽口を叩き合う。

だが、その奥には確かな緊張があった。


――その時。

「勇者様一行のこと、知りたいの?」

不意に、背後から声がかかる。


「は?」

二人は同時に振り返った。

そこに立っていたのは――


勇者のレプリカ衣装。

胸には缶バッジがいくつも付いている。

目を輝かせた、いかにもな男。

――熱狂的ファンだった。


エディルはその姿を見て、引きつった顔で呟く。

「うわ、趣味わ――」

その瞬間。

ユキノの手がエディルの口を塞いだ。


「勇者様一行のファン、なんですか?」

にこやかに問いかける。

その裏で。

グシャッ

エディルの足を容赦なく踏み抜く。

「――――ッッ!!?」

声にならない悲鳴。

だがユキノは一切気にしない。


男は一瞬きょとんとするも、すぐに顔を輝かせた。

「そう!そうなんだよ!!」

「僕は勇者様一行の大ファンでね!」

「知りたいことがあったら、なんでも聞いていいよ!!」


ユキノは即座に乗る。

「実は私、田舎出身で……」

「勇者様のこと、全然知らなくて」

「よかったら、教えてもらえませんか?」

柔らかな笑顔。

完璧な“善良な一般人”。


一方その頃、エディル。

足を押さえて静かに悶絶中。

「もちろん!!」

男は嬉しそうに頷き、紙を取り出した。

「これ、勇者様一行のプロフィール!」

テーブルの上に広げる。


そこに記されていたのは――

勇者 レックス 26歳

出身:バドラ地区

孤児院育ち


武闘家 ドレイク 28歳

出身:ウズベク地区

孤児院育ち


弓士 ノヴァ 23歳

出身:アルマ地区

孤児院育ち


魔道士 マリン 25歳

出身:フルマニア地区

孤児院育ち


聖職者 アイリーン 24歳

出身:テンガン地区

孤児院育ち

後は顔写真と簡単な経歴が記されていた。


「すごいでしょ!」

「みんな孤児院出身でさ、そこから這い上がって――」

「今や世界を救う英雄だよ!!」

男は興奮気味に語る。


だが。

ユキノは、テーブルの上の紙から目を離さない。

(……孤児院?)

一人。

また一人。

――全員。

同じ出自。

(偶然……?)

あり得る。

だが――出来すぎている。

胸の奥に、小さな棘のような違和感が刺さる。


その頃、エディル。

(なんて書いてあるこれ……)

読めていない。

相変わらず字が読めない。

つまらなそうに舌打ちし、煙草に火をつける。

紫煙を吐きながら――

その単語だけが、妙に引っかかっていた。


「なぁ」

「孤児院って、なんだ?」

男は少し驚いた顔をするが、すぐに答える。

「孤児院?」

「親がいない子供たちを引き取る施設だよ」

「生活とか教育とか、全部面倒見てくれるんだ」

「……へぇ」

エディルは短く返す。


(親がいない、ね)

一人二人なら、珍しくもない。

だが。

(全員ってのは……どうなんだ)

煙をゆっくり吐き出す。


「親がいないって、死んだのか?」

「さぁね」

「亡くなったのかもしれないし、捨てられたのかもしれない」

男は肩をすくめる。

だがすぐに、また目を輝かせた。


「でもさ!」

「そんな境遇から這い上がって、世界を救う英雄になったんだよ?」

「すごくない?」

熱のこもった声。

純粋な、憧れ。


――けれど。

その熱とは裏腹に。

二人の間には、静かな違和感が残っていた。


「僕ね」

男が、少しだけ声のトーンを落とす。

「この勇者様一行には、“何か”あると思ってるんだ」

「何か?」

エディルが問い返す。


男はゆっくりと笑った。

そして。

「神に選ばれた人たち――ってやつだよ」

その目は、狂気にも似た輝きを帯びていた。



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