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クズの交渉術

二人は村をあとにし、アルディス山を下っていた。

しばらく歩いたところで、ユキノが口を開く。


「そういえば、これからどうするの?」

エディルは当然のように答えた。

「王都に行く」

「え?ほんとに?!」

ユキノは思わず声を上げた。


王都。

勇者一行の本拠地。

そして自分はお尋ね者。

捕まれば、それで終わりだ。

そんな場所へ向かうなど、あまりにも危険すぎる。


だがエディルは平然と続けた。

「別に今すぐカチコミに行くわけじゃねえよ」

「まずは敵を調べることが大事だろ」

「それに旅の準備。色々必要なもんもある」

「……あんた、珍しくまともなこと言うんだね」

「俺いつもまともですけど?!」

「穀潰しのニートなのに?」

「それは否定できない」

軽口を交わしながら、二人は王都へ向かって歩き出した。



やがて王都の近くまで辿り着く。

遠くからでも分かる巨大な城壁。

高くそびえる城。

そして、行き交う人々の姿。

ユキノは少し不安そうに言う。

「……本当に行くんだよね?」

「もちろん」

エディルはあっさり答えた。


「でも正面からじゃない」

「というと?」

エディルは少し笑う。

「俺に考えがある」

ついてこい、と言わんばかりに歩き出すエディル。

ユキノは半ば諦めたように、その後を追った。



辿り着いたのは王都の地下水路だった。

城の地下を通る排水路。

湿った空気と、水の匂いが漂っている。

人の気配はない。


「確かにここなら誰も来ないけど……」

ユキノは周囲を見渡しながら言う。

エディルは頷いたあと、ふと思い出したように言った。


「あとさ、ずっと思ってたんだけど」

「俺らのこの……なんだ、着物って言ってたな」

「これ目立ちすぎなんだよ」

「私の村では普通」

「そりゃ村ではいいかもしれないけど、ここだと浮きまくりだろ」

「しかもお前、お尋ね者だし」


ユキノは少し困った顔をする。

「……じゃあどうすればいいの?」

「俺がとりあえず服買ってくる」

「本当に言ってる?」

ユキノはエディルを見た。

「今のあんたも十分目立つよ?」

エディルは自信満々に答える。

「俺はカッコいいからセーフ」

「これはこれで味が出るの」

「どこがよ」


ユキノが呆れている間に、エディルは地下水路の出口へ向かう。

そして振り返り、片手をひらひらさせながら言った。

「ここで大人しく待ってろよ」

そう言い残し、エディルは王都の中心部へ向かって歩いていった。

ユキノは小さくため息をつく。

「……ほんと、変な人」

そう呟きながらも、どこか安心したような表情で、地下水路の壁にもたれかかったのだった。



王都の市場に到着したエディル。

市場は人で溢れていた。

露店が並び、服や食べ物、雑貨など様々な品が売られている。


(人多いな)

(やっぱこんな服着てる奴おらんな)

人々とすれ違いながら、エディルは思う。

身なりを多少整えたとはいえ、エディルは見慣れない着物姿。

それだけで少し目立っていた。


だが本人は気にしない。

むしろ女性にだけ軽く愛想を振りまき、

目が合えば小さく手を振る。

魔界にいた頃と変わらない軽薄さだった。


ふと、一つの露店が目に入る。

服屋だ。

フード付きのスウェットや、

オーバーサイズのズボン。

今どきの若者が好みそうな服が並んでいる。

現代で言うストリート系の服だ。

露店にはそれなりに人もいる。

(なら行くしかない)

エディルは迷わず店へ入った。


(魔界にいた時もこんな感じの服着てたな)

(ユキノこれ似合いそうじゃね?)

(俺はやっぱこれかな)

そんなことを考えながら服を手に取る。

すると若い女性の店員が声をかけてきた。


「お客様、それお似合いだと思いますよー」

「ほんと?じゃあ着てみる!」

エディルは勧められた服を着てみる。

上下黒のスウェットのセットアップ。

フード付き。


「どう?似合う?」

「……めっちゃ似合うー!」

店員は目を輝かせていた。

(チョロ)

エディルは内心そう思う。


次はユキノの服を選ぶ。

あれこれ悩んだ末、

自分と同じデザインで色違い。

グレーのスウェット。


(彼女とお揃いみたいでいいな)

そんなことを考えながら会計をしようとした――

その時。


(俺、金ないわ)

思い出す。

職なし。

金なし。

家なし。

そして魔界から来たため、

人間界の通貨など持っているはずもない。


(なんかこれ前にもあったな)

そう思いながら、エディルは店員の手を取った。


「え、なんですか?」

エディルは優しく微笑む。

「……お姉さん可愛いね」

「も、もう!なんですかお兄さん!」

照れる店員。


エディルはさらに続ける。

「俺さ、病気の妹いてさ」

「治療費とかにお金、だいぶ使っちゃって……」

「やっと医者から、少し散歩していいって言われて」

「でもさ、いつも古い服しか着せてあげられなくて」

「だからせめて、オシャレな服買ってあげたくてさ……」


ちらりと店員を見る。

――涙目。

(効いてる)

エディルは確信する。


「……だから妹とお揃いの服、買ってあげたいんだけど」

握る手に、少し力を込める。

「……金なかったら、ダメだよな」

「でもさ、いつかお金返しに来るから」

「その時、お姉さんとも散歩とか行けたら嬉しいな」


全身全霊の口説き術だった。

普段は働かない男。

ぐうたらの極み。

だがこの瞬間だけは違う。

声色。

表情。

距離。

全て計算している。

まさにクズ。

そして――

店員は完全に落ちた。


「お兄さん!妹さんと仲良くね!」

「だからこれ持っていって!」

「ほんと?お姉さん、大好き」

耳元で囁くエディル。

店員は完全に赤面していた。


「……なによそれ」

「これも欲しいなぁ」

エディルは靴を二足指さす。

「……しょうがないなぁ」

靴も手に入れた。

この男、本当にしょうもない。


だがエディルは最後に店員を抱きしめた。

「ありがとう」

感謝だけは忘れない。

店員が完全にのぼせているその時。

エディルの目に、

店員のポケットが映る。

タバコの箱。

(これも貰うね)

音もなく懐へ滑り込ませる。

やはりクズだった。

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