本当にむちゃくちゃ
二人で笑い合っていると、ふとエディルの腹が鳴った。
「腹減った」
ユキノは少し笑いながら言う。
「ご飯作るけど……先にお風呂入る?身体は拭いたけど、やっぱりお風呂のほうが汚れ落ちるし」
エディルは期待を込めて聞いた。
「……一緒に?」
「その口引き裂いてやろうか」
「もう言いません」
謝罪はしたものの、どこか納得のいかないエディル。
筋肉痛でまともに立ち上がることすら困難だが、ユキノの手を借りながらなんとか立ち上がり、浴室へ向かった。
浴室には古い木の湯船。
石が敷き詰められた床。
すべて見慣れないものだったが、風呂は風呂。
どの世界でも、入浴で疲れや汚れを落とすのは同じだった。
エディルは湯船に浸かりながら思う。
(……手が痛くて本当に頭が洗えない)
墓を掘ったせいで、両手の皮はめくれ、物を握ることもできない。
風呂桶どころか、石鹸すら使えない。
困った、と悩んでいると脱衣所からユキノの声が聞こえた。
「なんか静かだけど、生きてる?」
「生きてるっつうの」
「というよりその手で頭洗えるの?」
バレていた。
「……洗えません」
「じゃあ手伝うね」
そう言ってユキノは浴室へ入ってきた。
「ちょ、積極的なのは嬉しいけど……まだ早いって俺たち……!」
「変なこと想像したら風呂凍らせるぞ」
「二度と喋りません」
ユキノは着物の袖をまくり、風呂桶で湯を汲みながらエディルの頭を洗う。
少し乱暴な手つきだったが、久しぶりに頭を洗う感覚。
誰かに優しくしてもらう感覚。
エディルは静かに目を閉じた。
やがて洗い終わると、ユキノは言った。
「じゃあ私は先に出るから。ゆっくり入ってて」
「……あぁ」
エディルは自分の頭を触りながら、さっきの感触を思い出していた。
その後、風呂から出たエディルはダイニングへ向かう。
どこからか良い匂いがしてきて、足取りが少し軽くなる。
筋肉痛すら忘れそうなほどだった。
ダイニングには低い木のテーブルがあり、食事は床に座って食べるらしい。
(人間界もいろんな文化があるんだな)
そんなことを考えていると、ユキノが料理を運んできた。
米。
漬物。
野菜の炒め物。
そしてまた漬物。
「葉っぱばっかじゃん」
「文句ある?」
「あります」
「じゃあ食うな」
「二度と文句言いません」
エディルは本来、魔族の王子。
しかもかなりのワガママで、美食家。
城の料理人を困らせたり、ワガママを言いすぎて側近兼執事のデュラに鉄拳を食らったこともあった。
そんなことを思い出しながら、異界の食べ物を口に運ぶ。
一口、恐る恐る食べてみる。
「……意外とうまい」
「意外ってなんだ」
「めちゃくちゃ美味しいです」
二口目、三口目と箸が止まらない。
あっという間に完食した。
「おかわりは?」
「人に物を頼む態度か」
「おかわりを……下さい」
「はいはい」
ユキノは笑いながらおかわりを渡す。
エディルはそれを美味しい美味しいと言いながら食べ続けた。
ふと、ユキノはエディルを見る。
出会った時は浮浪者。
その後は命を懸けて戦い、疲労困憊の中で村人の墓を掘った。
かと思えば、家に着くなり子供のような寝顔で爆睡。
今は風呂に入り、身なりも整っている。
元々整った顔立ちも、よりはっきりして見える。
着物は着慣れていないのかぐちゃぐちゃ。
それでも、食べ方だけは妙に綺麗だった。
(この人、本当にむちゃくちゃだなぁ)
そう思いながらも、
美味しそうに食べるエディルを見て、ユキノは少しだけ微笑んだのだった。




