これ蕁麻疹
エディルは目を覚ました。
(ここ、どこだっけ)
見慣れない天井。
落ち着いた内装の部屋。
隙間から入り込む、冷たい風の匂い。
(……ユキノの家か)
王都兵との戦いを思い出す。
壊された村。
殺された村人たち。
そして、勇者一行。
胸の奥に、どろりとした憎悪が蘇る。
寝ても覚めても、現実は何も変わらない。
エディルは小さく息を吐き、身体を起こそうとした。
が。
(……なにこれ、痛い)
全身が悲鳴を上げた。
経験したことのない筋肉痛。
重い疲労感。
身体が思うように動かない。
(まあ……焦っても仕方ないよなぁ)
ため息をつきながら、エディルは改めて周囲を見渡す。
自分が寝ている寝具。
魔界では天蓋付きのベッドだったが、今は初めて見る敷き布団。
そして、自分の服装。
魔界から持ってきたダルダルのスウェットのような服。
人間界に降りてからのサバイバル生活。
王都兵との戦い。
見るからに浮浪者のような格好だったはずだが——
今、エディルは東洋風の着物を着ていた。
(ユキノがやったのか?)
腕や手のひらにも手当てがされている。
包帯が丁寧に巻かれていた。
「……礼くらい言わないとな」
エディルは起き上がれない身体のまま、這いずるように布団から出て部屋を出た。
すると、隣の部屋にユキノがいた。
エディルの姿を見て、驚いたように目を見開く。
「……起きたの?」
「今起きた。もう昼?」
「丸一日半くらい寝てたよ。今、夕方」
「ほんとか?!」
エディルは窓の方を見る。
そこには夕焼け空が広がっていた。
ユキノが静かに口を開く。
「……ありがとう。色々」
「大丈夫だって。それより服とか寝るとこ、ありがとな」
「だってあんたボロボロだったし」
「まあ、職なし金なし家なしの浮浪者ですから」
「……まあ、それはそうかもしれないけど」
ユキノはエディルの手を見る。
「手、すごく痛そうだった。血も滲んでたし」
それは、墓を掘ったときの傷だった。
ユキノはしゃがみ込み、エディルの手をそっと握る。
「……ありがとう」
涙を浮かべながら、もう一度そう言った。
エディルは困った。
まさか、ここまで感謝されるとは思っていなかった。
魔界での出来事を思い出す。
父や仲間たちに、さよならも言えなかった。
墓を作って弔うことも出来なかった。
だから——
ユキノには同じ思いをさせたくなかった。
それだけだった。
だが、ユキノは泣きながら感謝している。
エディルは少し照れくさそうに頭をかいた。
「泣くなって」
「だって……」
「俺さ、まともに働いたことないから。これ蕁麻疹」
「なにそれ」
「特にさっきみたいな体力仕事のときは潰瘍もできる体質だから大丈夫!」
「もっとダメじゃん」
ユキノは思わず笑った。
その笑顔を見て、エディルは少しだけ安心するのだった。




