大丈夫だから
ユキノは村で亡骸となった両親を見つけ、そっと手を取り、静かに別れの挨拶をした。
先ほどの光景を思い出す。
エディルは、まだ一心不乱に墓穴を掘り続けていた。
ユキノはしばらくその様子を見ていたが、あまりにもエディルが辛そうだったため声をかける。
「……私も手伝うよ」
「いい。お前は皆にさよならって言え」
そう言って、エディルは断った。
ユキノが背を向けて歩き出そうとしたとき、エディルがふと思い出したように口を開く。
「……そういやここって、何人くらいいるの?」
「確か、五十人前後かな」
一瞬、エディルはギョッとしたような顔をした。
だがすぐに、
「わかった」
とだけ言い、文句一つ言わずに作業を再開した。
(なんで、あんなに必死に……)
出会って間もない二人。
成り行きでついてきただけの村。
縁もゆかりもない、浮浪者のような男。
(……ありがとう)
理由はユキノにもわからない。
それでも感謝の気持ちを胸に、両親、友人、そして村の人々を見つけては、ひとりずつ別れの言葉をかけていった。
やがて、辺りはすっかり闇夜に染まる。
寒さも依然として厳しく、空気は凍りつくようだった。
「……できた」
エディルが小さく呟く。
「埋葬しないとな」
そう言うと、先ほど掘ったばかりだというのに、再び動き出す。
村人たちの亡骸を抱え、墓へと運び始めた。
それを見たユキノは慌てて声をかける。
「待って!もう夜中だよ?ちょっと休憩して、朝にしようよ」
ユキノは必死に止める。
エディルは先ほどから必死の形相で地面を掘り続け、全身は泥まみれ。
汗が滴り落ち、両手には潰れた血豆の跡が残り、血もにじんでいた。
絶対に痛いはずだった。
それでもエディルは構わず、
「大丈夫だから」
それだけ言って、黙々と埋葬を続けた。
――そして。
朝日が昇る頃。
すべての埋葬が終わった。
エディルは肩で息をしている。
本当に体力の限界が近いようだった。
「……本当にありがとう」
「別にいいって」
エディルはぶっきらぼうに答える。
二人は墓の前で手を合わせ、しばらく黙祷した。
やがて、エディルが沈黙を破る。
「だー!もう寒い!死ぬ!死にます!」
地面に転がり、子供のように駄々をこね始めた。
その様子を見て、ユキノは思わず笑う。
「私の家、所々ボロボロになったけど、まだ一応住める状態だったよ」
エディルはすぐに起き上がる。
「まじっすか?行きます」
一瞬で上機嫌になった。
少し歩き、ユキノの家へ。
東洋風の平屋の家屋だった。
襲撃は受けていたが、村の奥にあったため、奇跡的に被害は少なく済んでいた。
「なんか2人で家って‥新婚さんみたいだね」
「黙らないと追い出すよ?」
「二度と喋りません」
そう言って室内に入る。
だがエディルは極度の疲労のため、
「……ちょっと寝させて」
そのまま室内に倒れ込んでしまった。
ユキノは驚く。
だがその寝顔は、安心した子供のように無防備で、どこか優しい表情だった。
「……」
エディルは完全に眠っている。
その寝顔を見つめながら、ユキノはそっと横にしてやろうと思ったのだった。




