うるさい男は嫌いなんだよ
戦いが終わった。
束の間の静寂。
エディルは周囲を見渡す。
「……一人いない」
倒れているのは絶命した兵士ばかり。
だが、雪の上にははっきりとした足跡が残っていた。
村から外へ続く、逃げた痕跡。
ユキノが呟く。
「逃げたの……?」
追いかけようとする。
だが身体は限界だった。
エディルがそれを制する。
「お前は休んでろ」
そう言い残し、一人で足跡を追った。
雪山を下る途中。
王都兵がヨロヨロと逃げている。
エディルは声をかけた。
「おい、待てよ」
「うわっ!」
兵士は驚き、その場に尻もちをついた。
先ほどまでの威勢はもうない。
「命だけは……命だけは勘弁してください」
エディルはそれを見て、心底軽蔑した。
ユキノの村の人たちも、きっとこうして懇願したのだろう。
それでもこいつらは平気で殺した。
今、自分が同じ立場になっていることにすら気づいていない。
虫唾が走る。
エディルはゆっくり口を開いた。
「……命は助けてやる」
兵士の顔が一瞬明るくなる。
「本当ですか!」
「その代わり一つ聞きたい」
「なんでも答えます!」
エディルは問う。
「勇者一行は何者なんだ」
兵士は戸惑う。
「勇者様……ですか?」
「何者って聞いたんだ」
エディルの声は低かった。
「なんであんな年端もいかない奴らがあそこまで強い」
「どれだけ鍛えても普通はああはならねえ」
エディルの脳裏に蘇る。
魔界の王、イフリート。
あの王が、あっさりと倒された光景。
そして、たった五人で壊滅した魔界。
人間の寿命で考えておかしい。
何か裏がある。
だが――
兵士は首を振った。
「わ、わかりません……」
「ある日、各地で名を上げて王都に招集されたんです」
「本当に才能がある方々なんです」
「へえ……」
エディルは小さく呟いた。
しばらく沈黙が続く。
やがて兵士が口を開く。
「……もういいでしょう?」
「約束ですよね」
「俺を見逃してくれ」
エディルは頷いた。
「ああ」
手に魔力を込める。
兵士が気づく。
「おい……約束が違――」
エディルは笑った。
「うるさい男は嫌いなんだよ、俺」
次の瞬間。
拳が振り下ろされる。
王都兵の顔面が潰れた。
雪に血が広がる。
エディルは無言で立っていた。
返り血が頬を伝う。
だが、拭おうともしない。
胸の奥で、黒い感情が膨れ上がっていく。
勇者一行。
あいつらを殺す。
その思いだけが、エディルの中で強くなっていった。




