触らないで
エディルとユキノは、その場に立ち尽くしていた。
焼けた家。
崩れた村。
焦げた匂い。
そして――
目の前で、一人の青年が命を奪われた。
現実が、理解できない。
受け止められない。
沈黙を破ったのは、王都兵だった。
兵士の一人が、倒れた青年の髪を掴み上げる。
「ったく……手こずらせやがって」
別の兵士も笑いながら続ける。
「こいつだけ本当に厄介だったな」
「このハンマー、マジで痛かったわ」
地面に転がった巨大なハンマーを、兵士が足で蹴る。
乾いた笑い声が、燃え残る村に響いた。
その瞬間。
ユキノが叫んだ。
「触んないで!!」
ユキノは走り出す。
一直線に、王都兵の方へ。
王都兵が振り返る。
「なんだ?おま――」
言葉は最後まで続かなかった。
氷柱が落ちる。
鈍い衝撃音。
次の瞬間、王都兵の身体が押し潰され、
周囲に血が飛び散った。
それを見た別の兵士が叫ぶ。
「お前は誰だ!」
ユキノは静かに答える。
「‥ハルキに触らないで」
いつもの明るく、ややお転婆なユキノではない。
冷たい。
氷のように鋭い視線。
青みが混じったグレーの瞳が、大きく見開かれている。
「お前等……全員許さない!!」
怒りと共に、ユキノは王都兵へ突っ込む。
氷の魔法で兵士を吹き飛ばし、
氷柱を叩きつける。
だが周囲から王都兵が次々と集まり、
気がつけば――
十対一。
それでもユキノは退かない。
静かに呟く。
「――人器召喚」
次の瞬間、ユキノの手の中に現れた武器。
それは――
御札がびっしりと貼られた、ボロボロの日本刀だった。
鞘に収まったまま。
封と書かれた札が、何重にも貼られている。
刀身は見えない。
むしろ、封じられているようにすら見える。
エディルは思わず眉をひそめた。
(人器か……?)
(いや、それ何だよ)
一目でわかる。
どう見ても、まともに使える武器ではない。
ユキノはその刀を握りしめる。
そして言った。
「これが――私の切り札」
ユキノは、王都兵へと踏み込んだ。




