俺の信条に反する
森の道を歩きながら、二人。
エディルが口を開く。
「これからどうする?」
ユキノは少し間を置く。
「……もう家に帰る」
「え?!帰るの?」
「当たり前でしょ!」
少し声を強める。
「もうこんなところコリゴリ!二度と来るか!」
エディルは肩をすくめる。
「まあ、食い逃げしたしな」
「それ以外もあります!」
憤慨しながらも、足は止めない。
「アルディス山。ここから三日くらいかかるけど……まあ頑張って帰るよ」
「お前、一人でか」
「当たり前でしょ」
その言葉に。
エディルは、ほんの少しだけ寂しさを覚える。
本来の目的は復讐。
ユキノとの出会いは偶然。
関係もない、ただの人間。
ここで別れるのが自然。
それなのに。
「……そっか」
ぽつりと呟く。
「寂しくなるな」
ユキノは少し笑う。
「まあね。エディルみたいな人、初めて会ったし」
「かっこいいもんね、俺」
「違いますけど……」
軽く笑って返す。
やがて森を抜け、平地へ出る。
ユキノが立ち止まる。
「じゃあ私、とりあえず帰るね」
「道中長いけど」
「……わかった」
ユキノは歩き出す。
背中が遠ざかる。
理屈では分かっている。
ここで別れるのが自然だと。
でも。
どうしても。
一緒にいたい。
気づけば、口が動いていた。
「待てよ!」
ユキノが振り返る。
「……え?」
エディルは少し照れながら。
「……送る」
「いや、いいって」
「送りたい!」
「なんで?」
胸を張る。
「女の子を送らないのは俺の信条に反する」
「変な信条」
呆れながらも。
少し笑う。
「まあ、一人じゃ寂しいしね」
エディルの目が輝く。
「ってことは?」
ユキノは肩をすくめる。
「一緒にくる?」
「行きますとも!」
即答。
こうして二人は、アルディス山へ向かうことになった。
一方その頃――
勇者一行。
別地区の酒場。
酒と笑い声に満ちた空間。
その一角で。
勇者レックス、武闘家ドレイク、聖職者アイリーン、魔道士マリン、弓士ノヴァ。
五人は酒と料理を楽しんでいた。
「これで仕事は終わりか?」
レックスがグラスを傾ける。
「麻薬組織潰すのは楽勝だったな」
ドレイクが肉をかじりながら笑う。
「お二人強かったから助かったよー」
アイリーンが嬉しそうに頷く。
「なあ、俺は?」
ノヴァが不満そうに言う。
「後ろから芋ってただけ」
マリンが淡々と返す。
「は?」
ノヴァがムッとする。
軽口が飛び交う。
その中で。
ドレイクがふと思い出したように言う。
「そういや、部下から連絡来たぞ」
「お前の婚約相手、逃げたらしい」
「えー、そうなの?」
レックスが目を丸くする。
「顔見たことないけど、可愛い子連れてこいって言ったからさ」
「帰ったらすぐ見たかったのに」
ノヴァが鼻で笑う。
「逃げたら速攻捕まえろって命令したのに、使えねえな」
レックスは肩をすくめる。
「そうだねぇ、残念だなあ」
まるで玩具を逃した子供のような口調。
「まあまあ!」
アイリーンが明るく言う。
「レックスならすぐ見つかるって!愛は勝つよ?」
「なにそれ」
レックスが笑う。
そのやり取りを聞いていたマリンが、静かに口を開く。
「逃げたの?」
「そう。残念」
マリンはグラスを揺らしながら。
興味なさそうに言う。
「なら、その子の村焼き払えば?」
空気が止まる。
「なんで!?」
レックスが目を瞬かせる。
「……別に」
マリンは淡々と続ける。
「王都に反する犯罪者ってことにすればいいじゃない」
レックスは苦笑する。
「そんな趣味ないんだけどなぁ……」
だが。
その口元が、ゆっくり歪む。
「でも」
一拍。
「それ、面白そうだね」
エディルとユキノは、まだ知らない。
この先、自分たちに訪れる悲劇を。




