食い逃げ犯
食事を終えた二人。
だが。
店の空気が、どこかおかしい。
店員たちが、何度もこちらを見ている。
視線が、やけに多い。
「……ねえ」
ユキノが小声で言う。
「店員さんたち、こっち見てない?」
エディルは爪楊枝で歯をいじりながら、気にした様子もなく。
「そう?」
軽く肩をすくめる。
「俺がかっこいいからじゃない?」
「馬鹿でしょ」
呆れた顔で返す。
そのまま席を立とうとした。
会計を済ませて出ようとした、その時。
一人の店員が、ゆっくり近づいてくる。
「……ユキノ・ヒマツリ様、ですか?」
空気が止まる。
「……え?」
ユキノが固まる。
なんで、名前を。
店員は感情のない声で続ける。
「王都より連絡がありました」
一拍。
「ユキノ・ヒマツリを確保せよ、と」
背筋に冷たいものが走る。
(なんで……!?)
その瞬間。
「行くぞ」
エディルが立ち上がる。
迷いがない。
ユキノの手を掴む。
そのまま。
店を飛び出した。
走る。
とにかく走る。
村の中を抜けて。
人のいない方へ。
しばらくして。
ようやく足を止める。
「……はぁ」
エディルが息を吐く。
「まあ、とりあえずここまで来れば大丈夫だろ」
ユキノはまだ混乱している。
「え、なんで? え、え?」
状況が追いつかない。
エディルは肩をすくめる。
「王都兵ボコしたからじゃない?」
「それはあんたも一緒!」
即ツッコミ。
「いや俺、ただの通りすがりの浮浪者だし」
「なにそれ!」
言い返しながら。
ふと気づく。
自分は。
勇者一行の婚約相手として、連れてこられた。
なら。
名前くらい、出回っていてもおかしくない。
ユキノは頭を抱える。
「うわー……もう都会怖い!」
エディルも頷く。
「ほんとおっかないところだなぁ」
「……本当にどうかしてるよ」
ユキノが小さく呟く。
その横で。
エディルがふっと笑う。
「まあ俺も共犯だから」
その一言に。
ユキノは思わず、少しだけ笑ってしまう。
空気が、少し緩む。
そして。
「あと一個言っていい?」
「なに?」
エディルは満面の笑みで言う。
「本当に食い逃げしたな!」
一瞬の沈黙。
ユキノは頭を抱えた。
「もういや!!」
叫ぶ。
だが。
その声とは裏腹に。
二人の足は止まらない。
人目を避けるように。
そのまま、さらに奥へと逃げていくのだった。




