どんな顔か聞いてるんだよ
食事をすることに決めた二人。
「で、飯屋ってどこにあるんだ?」
「一番近いのは……王都だけど」
「王都?さっきのデカい城のことか」
「そう。でも……私は逃げてきたから」
「食い逃げか?」
「違う!」
むっとした顔で睨む。
少し間を置いて。
「……まあ、王都は嫌だから」
「外れに小さな村があるって聞いたことあるの。そこなら多分、ご飯屋くらいはあると思う」
「よし!」
軽く手を叩く。
「まあ何でもいいや。そこにしよ!」
行き先も決まり。
二人は王都を避けるように、外れの村へ歩き出した。
しばらく歩いたあと。
「……でさ」
エディルがふと思い出したように口を開く。
「食い逃げじゃないなら」
ちらっと横を見る。
「なんで逃げてたんだ?」
「まだ食い逃げ擦るの?」
呆れた顔。
だが、そのあと。
少し視線を落とす。
「その……」
言いづらそうに、口ごもる。
やがて。
意を決したように。
「実は、勇者様一行から婚約を申し込まれたの」
「……は?」
エディルの眉が動く。
「私、アルディス山っていう雪山に住んでるの」
「ここからはかなり離れてる田舎で、ずっと雪ばっかりの場所」
「そこに急に王都の兵が来てね」
「私を指差して、“勇者様一行から婚約がある”って言われて……そのまま連れてこられたの」
話を聞きながら。
エディルの頭には、疑問しか浮かばない。
「なんだそいつら」
鼻で笑う。
「物騒すぎだろ」
肩をすくめる。
「女口説くなら直接来いっての」
「兵使って連れてくるとか意味わからん」
少し苛立ったように言う。
それを聞いて。
ユキノは思わず笑った。
「……ってかさ」
エディルが続ける。
「勇者って何?」
「有名人かなんか?」
「勇者様はね」
ユキノは少し考えてから話し始める。
「すごい力とか才能があって、それを王都に認められて」
「国王直々に招集された人たちなんだって」
「国全体を守る、勇敢で偉大な人たち……らしいよ」
「らしいよ?」
少し間。
「お前もよく知らんのかい」
「うーん、田舎者だからね」
苦笑する。
「活躍は聞くけど、実際に見たことないし会ったこともないから」
「はぁ」
エディルは適当に相槌を打つ。
「色々やってるみたいだよ」
ユキノは続ける。
「遠い国の犯罪組織を潰したり、自国の治安を守ったり」
「ほーん」
ほとんど聞いていない。
だが。
次の一言で。
空気が変わる。
「五年前くらいかな」
「魔界を壊滅させたんだって」
「……は?」
エディルの動きが止まる。
さっきまでの軽さが消える。
ただ、その一言だけで。
空気が変わった。
だがユキノは気づかず続ける。
「でも急に魔界壊滅とか」
「自国の治安のための強引な政策とか」
「私みたいな田舎の女に急に婚約申し込むなんて……ちょっと変わってるよね」
「……エディル?」
そこで。
ようやく気づいた。
さっきまでの、ヘラヘラした顔が。
消えている。
そこにあったのは――
憎悪。
「どんな奴ら?」
低い声。
「え?」
「どんな顔してる」
「知らないって言ったでしょ。田舎者だか――」
その言葉を遮るように。
「だから!!」
怒号。
「命を物ともせず!」
「平気な顔で踏みにじる奴らの顔だよ!!」
瞳孔が開く。
呼吸が荒い。
感情が、抑えきれていない。
――魔界壊滅。
その言葉と同時に。
エディルの脳裏に蘇る。
焼き尽くされた大地。
転がる同族の死体。
崩れ落ちた城。
執事の死。
父の最期。
朽ちていく遺体。
地獄のような光景。
何も出来なかった自分。
屈辱。
怒り。
すべてが一気に込み上げる。
「ちょっと……エディル」
ユキノが声をかける。
「顔、怖いよ」
その言葉で。
ようやく我に返る。
しばらく黙る。
そして。
視線を逸らしながら。
小さく。
「……ごめん」




