お姉さん、名前何ていうの?
二人はしばらく言い争っていた。
途中から取っ組み合いになり――
最終的に。
エディルが地面に押さえつけられていた。
「ちょ、待て!降参!降参!」
「最初から黙ってればいいのよ!」
数十分後。
二人とも、完全に疲れきっていた。
「はぁ……はぁ……」
「もう……疲れた……」
しばらく沈黙。
やがて。
「お前、なかなかやるな」
エディルがぽつりと言う。
女は少し驚いた顔をして――
「あんたもね」
短く返した。
顔を見合わせる。
思わず。
二人同時に笑った。
少し空気が軽くなる。
「……そういえばさ」
エディルが思い出したように言う。
「なに?」
「お姉さん、いくつ?」
「ここで年齢聞くの?」
少し呆れながら。
「二十歳だよ」
「は?!」
エディルが目を見開く。
「たったの二十歳?」
「若くない?」
「いや、あんたもそんなもんでしょ」
「ちょっと歳上っぽいけど」
その瞬間。
(……ああ、そうか)
エディルは理解する。
人間と魔族では、寿命が違う。
魔族は千年近く生きる種族。
エディル自身も、すでに四百歳。
だが、見た目は――
人間で言えば二十代半ば程度。
「……子供じゃん」
思わず呟く。
「えー?」
「成人してるけど?」
(いや赤ちゃんだろ……)
内心で思う。
だが。
魔族であることは、まだ伏せておきたい。
それ以上は何も言わなかった。
少しして。
「そういや、名前は?」
女は呆れたように言う。
「普通は名前から聞くよね」
「まずは年齢確認してから手を出すか考える派なの」
「……最低」
呆れながらも。
さっきほどの冷たさはない。
どうやら、この男のノリには慣れてきたらしい。
「私の名前はユキノ」
「ユキノ?」
エディルの顔が明るくなる。
「めっちゃ可愛いじゃん!」
「顔が可愛い子って名前も可愛いな!」
一拍。
「……殴ってくるけど」
「アンタが変なこと言うからでしょ」
ユキノが軽く返す。
また少し笑う。
「じゃあ、アンタの名前は?」
「俺?エディル!」
「……ふーん」
「なんか言えや」
「変……じゃなかった」
少し考えて。
「変わった名前だね」
「変って言ったよな今」
納得いかない顔をするエディル。
ユキノは気にせず続ける。
「じゃあ私も聞くけど」
「年齢は?」
「俺?」
一瞬、言いかける。
「4――」
(やば)
(400とか言ったらドン引きされる)
(というか魔族バレる)
「……じゃなくて」
少し咳払い。
「26歳かなぁ」
「年齢に疑問形ってあるの?」
ユキノがくすっと笑う。
どうやら深くは突っ込まないらしい。
(助かった)
エディルは内心で安堵する。
その時――
ぐぅぅぅ……
腹の音。
「今のエディル?」
「うん」
素直に頷く。
「お腹すいたの?」
「色々頑張ったら疲れた」
「じゃあ、どっか食べに行こうか」
「是非!!お願いします!」
即答。
こうして二人は――
とりあえず食事へ向かうことになった。




