嬉しくないの?
先ほどまで笑顔で感謝していた女の表情は、一瞬で変わった。
無表情。
冷めた目。
だが。
そんなことはお構いなしに、エディルは続ける。
「いやー、ほんとお姉さん可愛いってマジで」
軽く身を乗り出す。
「これ、一目惚れってやつ?」
さらに距離を詰める。
「本当に運命感じるんだけど」
にやっと笑う。
「俺さ、今まで運命とか信じないタイプだったんだけど」
少し声を落とす。
「お姉さん見てたら、それもアリかなって思えてきた」
一拍。
「……良かったら、俺と付き合――」
最高の決め顔。
低い声。
完璧なタイミング。
だが。
言い切る前に――
ドゴッ。
顔面に衝撃。
女の拳が、容赦なくめり込んだ。
「ってぇなぁ!?」
思わず顔を押さえる。
女は冷めた目のまま言い放つ。
「黙って聞いてれば、なんですかそれ」
一歩も引かない。
「ブスなら助けない?」
眉がわずかに動く。
「その上、いきなり告白?」
そして。
「あなた、本当に最低ですね」
エディルは固まる。
自分の容姿には、絶対の自信があった。
ボサボサの髪も計算のうち。
気怠い雰囲気。
無駄のない体。
そして顔。
生意気な目つき。
それすら魅力と言われてきた。
今まで。
ナンパして断られたことはない。
(その後振られることはあるが)
だが。
目の前の女は違う。
落ちない。
それどころか――殴ってきた。
「……嬉しくないの?」
思わず聞く。
「なにが?」
即答。
「俺、イケメンだし」
「は?」
「今まで最初から邪険に扱われたことないんだけどなぁ……」
女は大きくため息をつく。
「今、はっきりわかりました」
冷たく。
「あなたは最低です」
くるりと背を向ける。
「助けてくれたことには感謝します。さようなら」
そのまま歩き出す。
エディルは呆然と立ち尽くす。
だが。
じわじわと。
怒りが込み上げてくる。
「おい!」
声を張る。
「ふざけんな!」
一歩踏み出す。
「助けてやったのにそれはないだろ!」
女は振り返らない。
「うるさいな、このろくでなし浮浪者!」
「うるせえ!」
即座に言い返す。
「誰がろくでなしだ!」
「命の恩人だぞ!」
「こんな人だと知ってたら助けなんて求めなかった!」
「黙って聞いてりゃこのクソアマ!」
一気にヒートアップ。
「お前なんか助けなければよかった!」
指をさす。
「ちょっと顔が可愛くて乳がデカいからって調子のんなボケ!」
女が振り返る。
「どこ見てんの、この色ボケ!!」
静かな森。
その中で。
二人の怒鳴り声だけが響く。
ギャーギャーと。
止まらない。
そのまま。
大喧嘩が始まった。
その声は、森の奥までこだましていた。




