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三人で並んでむしゃむしゃと肉を堪能しておりました。
「どうして我慢が出来ないのかしら?狩りは駄目だって言ったじゃない。あぁ……美味しい」
「パウラだって食ってるじゃないか。しかも何もしないで」
「ロータルそっちの肉を寄こせ」
「何言ってるのよ。私が黙っているお陰で今肉にありつけているのよ。ネーポムク駄目よ、これはエアハルトのぶん」
「アイツは肉いらないって言ってた」
「いらないんじゃなくて、規律を守ろうとしただけよ。見張りをしてくれているんだからお腹減ってるに決まってるでしょ」
隠蔽をかけていたにも関わらずパウラは私達の居場所を突き止めるとか恐ろし過ぎです。絶対に狩りに出ると踏んでいたのでしょう。
「はぁ、お腹いっぱい。もう良いでしょう?早く戻りましょう」
パウラが口を拭いエアハルトの分の肉を包むと立ち上り消えかけていた焚き火を魔法で消しました。
「"つけ"」
威力弱目に調整された氷魔法は最早詠唱を必要としていないと思うのですが本人にはまだ知らせないほうが良いでしょう。調子に乗るでしょうからね。
「やっと落ち着いた。さぁ帰る……かぁ?」
三人で広場の方へ視線を向けた瞬間、何かがザワッとうなじを撫でたような気がして振り返りました。
そこには闇に紛れた黒い物体の輪郭が音もなく浮かび上がっています。反射的に最大級の盾の防御を展開し叫びました。
「走れっ!!」
と、同時に盾にズッシリと重い衝撃が与えられミシッとヒビが入る音がしました。
「ネーポムク急げ!」
「わかっておる!パウラ行くぞ!」
状況が把握できず立ち尽くす彼女の腕を掴みネーポムクが走り出します。
「待って!ロータルがっ」
「俺はいい!」
逃げる彼等に魔法防御と物理防御の魔法をかけ、再び攻撃してきた敵を見上げました。灯りで周辺を照らしその全貌を明らかにします。
「なるほど、お前が噂の『魔王』か」
闇夜に浮かび上がったそれはじゅるりと口から涎を垂らし私を見下ろしています。情報通りの雄牛の頭部に毒々しい赤い目がギラリと光っています。
「グルルル……」
獣らしい唸り声をあげ振り上げた腕をまた盾に振り下ろしてきました。
ビシッ、バリバリッ!
ガラスが砕け散るように盾は二度目の攻撃であっさりと壊されました。
「ちょっとヤバいか」
直ぐにまた盾を展開しそれで時間を稼ぐと私も広場に向かって走り出しました。
「ロータル早く!」
前方で振り返るパウラが叫びます。
「いいから行け!」
もたつく彼らに身体強化をかけ少しでも早くここから遠ざかるようにしました。しかししょせん女と老人。エアハルトのようには早く走れません。
バリンッ!
二重にかけた盾があっさり壊れる音がし振り返るとオークとゴブリンを引き連れた『魔王』がこちらへ向かって来ます。
予想外過ぎますね。大変気に食わないです。
私は自身にも身体強化をかけて走っていますが計算ミスです。うっかりしていましたがロータルの体も女と老人に負けず劣らずの軟弱者でした。もう少しで追いつかれそうです。
今度は三重にしオークやゴブリンも防ぐ為に幅広く盾を展開しました。そして念の為拘束魔法を魔王へぶつけてみました。
やっぱり効きませんね。拘束魔法は弱い奴にしか通じませんから。
仕方無くゴブリンの一部に拘束魔法をかけ時間稼ぎをしてみましたが……数が多すぎますね。魔力の無駄です。
走って走って漸くパウラとネーポムクが広場に差し掛かった所で最後の盾が壊された音が聞こえました。
振り返りもう一度盾を作ろうとして迫る魔王の黒い体が目に飛び込みました。振り下ろされる野太い腕。
「クソッ!」
多少の怪我を覚悟したその時!
「ロータル!!」
私を突き飛ばしてそれをガッシリと受け止めるエアハルトの背中が見えました。
「もうちょっと優しく突き飛ばせよ」
「すまん……余裕なかった!」
私は素早くエアハルトに諸々の補助魔法をかけました。
魔法防御と物理防御、攻撃力向上、身体強化、それから毒防御。
魔王の口からはダラリと涎が垂れて今にもエアハルトにかかりそうです。
「毒だぞ!」
「わかってる!」
受け止めていた腕を何とか弾きエアハルトが飛び退りました。少し体を泳がせた魔王へ火魔法が撃たれます。やっと騒ぎに気づいた魔法師が放ったものでした。
「今のうちだロータル!」
兎に角一度距離を置こうと隙を縫って広場に戻りましたがそこは既に魔物だらけでした。
「一旦山道から山を下れ!」
魔法師が休んでいた場所の奥地からの魔物の襲来だと思っていましたが、剣士達の方へも別働隊がいたのか向こうでも戦いが始まっていました。山道への道は剣士達が戦っている脇を通り抜けなければ出られません。
「ロータル、パウラとネーポムクを!」
エアハルトが私達を背に叫びます。
「駄目よ、エアハルトも一緒に!私だって戦える、"つけ"!」
パウラが叫ぶなり攻撃を開始しました。狙いはつけなくとも大量に魔物がいます。並んだ三体のゴブリンに攻撃が当たるとそいつらは足を凍らせて倒れそれにつまずき後ろにいた五体も巻き込まれて転んで倒れました。
「"えろ"」
一塊になった魔物へネーポムクが攻撃を追加しますが、燃え上るゴブリンを避けてその後ろからも次々と魔物がやって来ます。
「後退しつつ山道へ向かおう。エアハルト、殿を頼む!」
「任せろ!」
盾の魔法をドーム状に展開してパウラとネーポムクを守りつつ、それごとジリジリと下がりながら移動し、二人が攻撃を加えて行きます。
エアハルトは素早い動きで突っ込んで来るオークをかわし、新しい剣でぶった斬っていきます。
「最高だなこの剣!すっかり手に馴染んでいる」
試し斬りも順調なようです。
周りの魔法師達も流石はA級と思わせる攻撃力はあるのですが、魔力を使うまでの待機時間がかかる者が多く詠唱途中に攻撃を受けるものがチラホラ見受けられました。こういう時に剣士と連携が取れていれば上手くいくものを。
「マスター!ご無事ですか!?」
良いタイミングでカールハインツが現れました。
「おい、お前。壁作れ!」
「黙れ小僧!お前の指示など……」
「カールハインツ、ロータルの指示通り、壁だ」
「畏まりました」
面倒くさいやり取りですが壁は必要です。
カールハインツは地面を抉るとその向こうへそこそこ高い壁を作り、私はそれへ物質強化をかけました。
「これでひと息つける」
エアハルトがふぅと息をついた所へパウラが素早く肉を差し出しました。
「お腹すいてる?」
「なっ……すいてる!しょうがない奴等だな」
言葉とは裏腹に嬉しそうに肉に齧り付くエアハルト。
「パウラ、仕事だ」
エアハルトは一旦休憩ですが、魔法師は違います。
カールハインツが作った壁はゴブリンが乗り越えて飛び降りるとそこに深く掘られた溝があります。次々と溝に落ちていく魔物が一定数たまると纏めて魔法攻撃です。
「"のひ"」
燎原の火ですね。
「"さび"」
氷の楔です。共に中級魔法ですが威力的には上級くらいでしょう。
周りは混乱中で二人の略式詠唱に気づいていませんがカールハインツは近くにいすぎました。
「マスター……その詠唱は一体……」
何となく聞き覚えのある言葉に認めたくても認められない複雑な気持がしているようです。
「これは修行の成果だ」
中級の詠唱で上級の威力を発揮している二人にカールハインツの目が釘付けです。
「あんな小娘まで……」
カールハインツが事態を飲み込めていませんが魔物は待ってくれません。
「油断するなぁ!サイドへまわれー!」
ある程度の長さの壁ですが、全てを遮れるわけではありません。魔物は壁沿いに移動し剣士達の方へなだれ込んでいきます。
魔法師がいた方角に最初に魔王が出現したため、彼等は気づくのに遅れたようで陣形も取れずに個々での戦いが始まっています。
「行くぞ、剣士達を失うわけにはいかん」
固まって反応が鈍っているカールハインツに蹴りをいれて私達は剣士達が戦う場所へと向かいました。




