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フンッと鼻を鳴らしてネーポムクがエルマーの去った方を見ています。彼がそう簡単にあんな弱い奴にやり込められるとは思っていませんでしたが何だかホッとしました。
「面倒だから側についておれ」
とっくに私達に気づいていたのかいつもの様に偉そうに言いました。
「本当にあんなに弱っちぃのに負けたのか?」
「ロータルっ!」
パウラが慌てて私の口を塞いできます。
「止めろよパウラ。ちょっと聞いただけじゃないか」
「そういう事はもっと遠回しに聞くものなのよ。ネーポムクが負けた事を気にしていたら可哀想でしょ?」
パウラがそう言ってから「あっ」と言ってネーポムクを見ました。
「えへへ、ごめんなさい」
「構わん、事実だ。三年前まで儂は数人の弟子を持っておった。中でもエルマーは一番良く出来た弟子であったが、その実、師団長の座を奪おうと企んでいたのだ。戦いを挑まれエルマーに追い詰められたのは確かだ。奴が子供の頃より顔を合わせて共に訓練に明け暮れていた。そのような者を相手に本気で攻撃ができず躊躇している間にやられてしまった儂の甘さだ。だがエルマーの強さも本物であった。あの時、油断していなくとも負けていたであろ……」
ネーポムクが少し遠い目をしました。お前そんな感傷的な奴じゃないですよね。
「それで?」
私は馬上の爺さまを見上げてニヤっと笑います。向こうも私を見下ろし口角を上げます。
「だが今の儂はこれ迄とは違うからの」
笑んでいるのに黒さを含むネーポムクはいつもの調子を取り戻したようです。
エルマーという面倒な奴はいますが、ネーポムク自身は概ね冒険者からは尊敬されているようで、彼等に囲まれる様なかたちでいよいよアスカム山脈へ向けて出発しました。
以前から魔法師としても優秀だったらしく、一緒に魔物を討伐した冒険者もいました。
「マスターは本当に凄いよ。昔一緒にオーガの討伐に行った時、想定外にワイバーンが現れて隊が大混乱に陥ったことがあったんだ。だけどマスターは全く揺るがず火魔法の"煉獄の爆炎禍"を連発して見事奴らを撃ち落としていったんだ」
確かにワイバーン程度なら詠唱魔法の上級で十分ですね。そんなに感動する場面でも無いと思いますけどね。
今のネーポムクとパウラの魔法実力は完全に詠唱していた時の三倍から五倍の強さが確認されています。
パウラの"凍てつけ"ですら最初は小さな矢じり程度だったのが今や人の足元を凍らせ足止め出来るほどです。
初級が中級くらいになっていますからその流れで当然中級は上級、上級は超上級へと破壊力を高めています。それ以上は本人の能力しだいなのでなんと呼べばいいのかわかりませんですけどね。
兎に角、ネーポムクは三年前とは別人だと言えるほど強くなったはずです。
街から出発して数時間後、アスカム山脈の麓にたどり着きました。
アスカム山脈を通る街道は岩を切り崩し馬車がすれ違える程の広さに道が整備されていますが勾配がキツく、馬車での山越えには早くて三日はかかるため必ず山中で夜を過ごさなくてはいけません。少しでも勾配を緩やかにするために曲がりくねった街道は進み具合によっては四日かかる時もある為、山中の何ヶ所かに宿泊できるよう広場が設置されています。
魔王の目撃情報はその中でも山頂に近い付近に集中しているそうなのですが、移動してるため正確にはわからないそうです。
「ここからは気を引き締めて行け!何処から魔王が現れるかわからぬからな!」
号令が響き皆は少しピリッとした雰囲気の中、山を登り始めました。
街を出るときから気になっていたのですが、この隊を仕切っているのは騎士団の者らしく、剣を帯びた騎士とマントを羽織った魔法師が二人ずついるようです。
魔法師団からは副師団長のエルマー、中隊長のカールハインツ。
剣士の方は副騎士団長とその側近だそうです。
彼等は二手に分かれそれぞれ騎士と魔法師を纏めているようで、部外者の私から見ても連携が取れているとは言い難い感じです。
ネーポムクにそう言うと昔から騎士団と魔法師団はあまり仲が良くなかったと言いました。
彼がいる時は騎士団長と話し合い、少しずつ騎士と魔法師との連携が取りやすくなっていたそうですが今はそれもなくなり元通りになってしまっているそうです。
「副師団長のエルマーは騎士団との連携や魔法師団の訓練もそこそこに自らの地位を固めるためにこの三年を費やしていたそうだ。それを見ていた騎士団長も呆れ一度も話し合いすらしていないようだ」
ネーポムクは師団長を辞めた後もそれなりに城の情報を集め魔法師団の表向きの事はわかっていたそうですが、カールハインツが三年間の裏話を昨日教えてくれたそうです。
この国はここ数年、他国とそれほど揉める事もなく、問題といえば時折起こる弱い魔物討伐くらいで平和だったそうです。
魔王もまだ本格的に活動出来る状態ではありませんでしたからね。
そこへ降って湧いた魔王出現の噂。
副師団長で足踏みしていたエルマーにとって最大のチャンスが訪れたと張り切ってアスカム山脈へ来てみればかつての師匠ネーポムクがいて動揺しているそうです。
自分が魔王を打ち取り手柄を立てて今度こそ師団長へと企んでいたので邪魔されないか心配しているそうです。
正直凄く面倒くさい奴です。私的には魔王がどんな奴か確認し、問題無ければそのまま帰ってもいい位の気持ちなので出来るだけ巻き込まれたく無いものです。
山道を登り始めて二時間ほど経ち、昼休憩になりました。
山道の途中ですが、魔王騒ぎで人通りも無いため皆それぞれ食事の配給を受け取り好きな場所で休憩し始めています。
私達も皆と同じ様に食事を受け取りゆっくり出来そうな場所を探しているとウザい声が山に響きました。
「マスター!こちらに食事をご用意しております」
休憩に入った瞬間に直ぐに何処かに消えたからホッとしていたのは私だけでは無いです。パウラもエアハルトもため息をついていますから。
「チッ」
ネーポムクがあからさまに舌打ちしました。にも関わらずまるで気にしていないカールハインツがグイグイネーポムクの背中を押して連れて行こうとしています。
「儂はここで良い。エルマーがいるであろ?」
食事くらいゆっくりさせろとネーポムクが言っているのにそれをまぁまぁと宥めるカールハインツに段々とイライラして来ました。
「嫌がっている爺さんを連れて行くな」
「誰が爺さんだ!」
ネーポムクが抗議の声をあげて爺さん呼ばわりしたことを怒っているようです。もちろんワザと言ってやりました。そもそもネーポムクのせいで面倒くさくなっているのです。
「マスターを爺さんと言うな。いくら本当の事でもマスターは気にするんだぞ」
「誰が本当の事だ!」
カールハインツもやっぱり爺さんだと思っているようです。
「爺さんだから判断力が鈍ってあのエルマーってやつをまだ殺してないんだ」
「誰が鈍っておるか!それに儂は別にあやつを殺そうなどと思っておらんわ」
その言葉にカールハインツが心の底から驚いたような顔をしました。
「殺さないのですか!?」
「本当に!?」
パウラも一緒になって驚いています。カールハインツと彼女はお互いに頷き合うと気持ちを確かめあったようです。
「あれ程侮辱されたのにですか?」
「師団長の地位を追われたって事はお給料がもらえなくなったって事なんでしょう?それをそんな簡単に……駄目駄目信じられない。絶対に赦しちゃ駄目よ」
体面と金銭。人類の大切な物の二大巨頭ではないですか。ほらほらネーポムクいいのですかぁ?
「儂はそのどちらにも執着しとらん。儂が求めるのは強さだ。魔法師としてどれほど強くなれるかだけを追求して生きたいのだ」
あらあらまあまあ、真っ当な人類らしいお言葉に二人が黙り込みました。




