たとえ、聲が枯れても。
僕達の聲に限りがあるとしたら——貴方は大切な人に最後に何を伝えたいですか?
2025年。日本では聲の制限(ヴォレスト)という身体症状が存在するということがある科学者により発見された。
ヴォレストとは簡単に言えば【一生の内に喋れる言葉に制限がある】というもの。
例えば普通の人間は一生の内に喋れる言葉に制限があるなどとは考えないだろう。その為何も考えずに言葉を喋り続けるはずだ。
しかし、ヴォレストという身体症状が発見されてからは、世界中の人々が自らの言葉の重みに気づくようになった。
そして極端にヴォレストが少ない人物のことを世間は終わりが近い者(ロスト)と呼ぶようになった。
この物語の主人公である【黒崎繋(くろさきかさね)】はどこにでもいる平凡なサラリーマンだった。
容姿も並。特に給料が良いわけでもなく。ただ繰り返すだけの平凡な毎日に退屈していた。
何かが変わると思い期待までしたヴォレストの検査結果ですら彼は平均値だった。
その日は泣きだしたような大雨が降っていた。
彼が仕事を終えてアパートに帰宅すると玄関の前でずぶ濡れの女が座っていることに気づく。事情を聞くと雨宿りをしていたらしく、彼女の名前は【音無結希(おとなしゆき)】と言うらしい。
詳しい話しを聞くと彼女は自らの記憶を無くしているらしく、自分の名前以外には住んでいた場所。自分の仕事先。家族の名前も分からないと繋は告げられた。
また驚くことに結希は一般的な人間よりヴォレストが少ないロストであった。
警察に行きたがらない彼女を不憫に思った繋は当分の間結希を自分のアパートに住ませることを決意する。
その日から繋は結希の記憶を取り戻すために平凡な毎日から抜け出すことを決意するが……?
これは俺が彼女と歩み始めた――苦くて切ない、物語だ。