憎悪、あるいは逆恨み
「本当に調子が狂う。……いや?ふ。あんた今おもしろいこと言ってたな。あんたの親父はあんたを見捨てるってさー」
「なに?武士なら当然のことよ」
「それってぇ、あんたはやっぱ厄介ものってことじゃないのぉ!?」
上ずった声で龍月丸ちゃんはささやく。とても小さな声なのに、その声は耳の裏でガンガンと鳴り響いた。なんてこと言うんだ。十年もの間、忠盛公から爪弾きにされてきた清にそれを言うか!最近ようやくわだかまりも薄らいできたというのに。
ただ彼女をいらだたせるためだけの、言葉!
心のないなどという問題ではない。非道極まりない!この女は一体清にどんな恨みがあるって言うんだ。
「言ったよなぁ、あんたは平忠盛が出世のために利用しているに過ぎないって!あの野郎はもう殿上人になったんだってさぁ!すごいじゃん!そんなに出世したら、あれれ?あんたの存在いらなくねぇー?そりゃぁ、見捨てるわ。だって、もう邪魔者だもの!」
「言わせておけば!、あんたあたしの父上になんの恨みがあんのよ!親でも殺されたわけ?」
「ああ、そうだよ」
唐突に龍月丸ちゃんの声音は低くなり、彼女の顔色が変わった。額に青筋が走り、下から食い入るように清を睨んだ。
「あんたの親父は十八年前、オレの親父を殺しやがった。院の院宣なんていうクソを詰め直したようなもんでねぇ!」
言うも憎らしい、と龍月丸ちゃんは歯ぎしりをし、カチカチと歯を臼のようにすり減らしていく。
「オレの親父は白鱗丸って言ってなぁ、都で義賊をやってたんだよ。でも、あんたの親父にぶっ殺された。オレが生まれてもいないでおふくろの腹の中だったけど、許せないよなぁ?オレは父親の仏頂面も拝めねーんだよ!てめぇの、親父の、せいで!」
「なによそれ!だからって娘のあんたまで八つ当たりに海賊ぅ?ばっかじゃないの!?それに義賊だとか言うけど結局は盗人でしょ?殺されても文句言えないじゃん」
清も負けじと相手の神経を逆なでするような事を言う。自分の親族を殺されて当然だ、などと言われれば龍月丸ちゃんは激しく牢屋を蹴りつけた。
「じゃぁ、あんたの親父が殺されるのも、いやぁ?上皇様とやらがオレに殺されるのにも文句は言えないってことだろ?ぶち殺してやる。
都を叩き潰し、この国はオレのものになる。この海賊王、龍月丸が千の海を制覇し、真の強者は誰かを教えてやる!この国を執ってやる!」
上皇を殺す?都を叩き潰す?国を私物化する?
なにを言っているんだ、龍月丸ちゃん。そんなこの時代の人間がいいそうにないことを言うなんて、天罰が落ちるぞ。
時代によって天皇を排そうという人間はいくつもいた。蘇我蝦夷、入鹿。藤原純友や平将門なんかもそうだ。そいつらは例外なく時代の理不尽、あるいは王家の人間によって弑されている。
彼女もまたその一員になってしまうというのか?
それはあってはならないことだ。
ナカ・トガなんていう理不尽ゲロ袋仮面野郎に会ってしまったせいで『理不尽な運命』なんてものがあるんじゃないか、とすら思ってしまう。ひょっとしたら日本の王家に『反抗』する人間はすべて平らげられてしまうのではないか、と。
「海賊王がこの国を執る?馬鹿をいってんじゃないわよ。海のフカが陸のシシにどうやって牙を剥くわけ。まさか海岸にわざわざ来てもらうって?」
「言う必要はない。このオレの計画を邪魔されたくないからねぇ」
また中国語。グーグル翻訳が使えないのを悔いるばかりだ。それにしてもなんて顔だ。チートファンタジーのゲス敵キャラみたいな笑みを浮かべやがって。
「まぁ、ご覧ずれ。あんたの親父の顔も、なにもかもここに並べてあげるからさぁ」
「やれるものならね。あんたじゃ親父殿に勝てるわけがないんだから」
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