誰が上か
龍月丸は清盛の最後の挑戦的な言い分を一笑すると、甲板へと上がっていった。
彼女たちの船、隻龍丸は瀬戸内海に点在している小島の一つに停泊していた。あいにくと周囲の水深が浅いため、船は島から少し離れた位置にいかりを降ろしていた。
島の方を見ると、彼女の部下である海賊たちが酒樽を飲みながら馬鹿笑いをしていた。平家との戦での大勝に心浮かれているのだろう、と思いながら龍月丸は懐からすじ肉を引っ張り出し、噛みちぎった。
まったく、あの平家の御曹司が。
ああも開き直られては必死に貶めようとする自分が小物のようではないか。このオレが小物?ふざけるな。あんな都で太っていく豚みたいな連中とあたしは違う!
親父を殺し、オレのおふくろを飢餓の中放置したあのゴミどもがオレに何を偉そうに語る。このオレに!
「首領……。どうしたんで?」
気がつけば龍月丸は強く、甲板で地団駄を踏んでいた。部下に言われるまで気づきもしなかった。
「いや、なんでもない。――それより、明日にでも船を出すことはできるな?」
「当たり前でさぁ。今日当たっただけでも武士なんてなぁ見掛け倒しってのがまるわかりで」
「さもあらん。我らが奥の手出すまでもなしとはこのことよ」
軽く笑う龍月丸に誘われて彼女の部下もまた小さく笑いをこぼした。しかし、龍月丸は笑ってなどいなかった。静かに彼女の頭上で笑う月を見て、虫酸が走る思いだった。
いくら部下と話して、調子のいいことを言っていても怒りはまるで収まらない。それどころかむしろより顕著にすらなっていった。このイライラをどこに向ければいい?
何よりそのイライラの矛先を向ける相手が見つからない。清盛にしろ忠盛にしろ、それでは自分が小物であり、ただ黙らせるために暴力に訴えたと思われてしまう。他を思わなくてもオレがそう思ってしまうんだ。このイライラを精算するにはもうなにをすればいい。
あの金髪女……!
龍月丸は心中で思いつく限り、清盛を罵倒した。おおよそ、彼女が口にできるすべての罵詈雑言を清盛に浴びせかけた。いっそ、このままみっともなく口に出して罵りたいとすら思った。
あの女は、どうやったら嗚咽を漏らす?部下が死ねば?親父が死ねば?平家が滅べば、あるいは帰る場所がなくなったら?どれをとれば苦しむ?
あの女、あの女の親父。
あれが一番邪魔だ。あれがいなければ自分の前に立つのはその他雑多な有象無象。
知らず知らずに認めていた。
自分よりもあいつらが上だと。
それが許せなかった。
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