船上で……
「うp……」
「gぇぇぇぇぇええええええええ」
口内ですっぱいものがこみ上げてきたと思ったら、すぐさまそれは海の中へ吐瀉物として吐き出された。海に広がり、その色は見るも汚いったらありゃしない。それに口の中にはまだ形容し難い感触が残っていた。いそいで水をすくって……ぐぎゃああああああ!!!
「しょっぱぁああああ!!!喉がぁあああ!!いてぇぇぇ!!」
そうだった、海って塩水じゃん。あまりに水を飲みたくて忘れてた。ああ、これはひどい。こんなことで状況判断能力が低下するとかお笑いにもならないぞ。
「うわ、バカがいる」
「茜ちゃん?年上にその発言は失礼なんじゃないかしら?」
「年上(笑)……」ボソ
ひどい。
俺は今すごく傷ついた。俺はこれでも高3だぞ?中2にバカにされる高3って哀れにも……。
なーんて悲愴感に浸りながら、視線を左右へと流すと無数の和船が浮いていた。それぞれの船には十人くらいの武装した武士が乗っており、皆威風堂々という言葉が当てはまるほどいい顔をしている。
都を出て6日。平家の船団は嵐や変な海流に邪魔されることなく、順調に博多へと進んでいた。船団の中央には忠盛公とその脇を固める複数の重臣が乗り込んでいる船が位置していて、その後尾にはこの船団のための兵糧なんかが積んでいたりする。もちろん、行きの分だけだ。
そもそも兵糧がどれほど重要か、というのが日本で理解され始めたのは戦国時代から、らしい。それまでは短期決戦、あるいは長期にしても本拠からほとんど動かず、時々大規模衝突をする、といった戦い方をしていたため、米が足りない、というのはなかったそうだ。
今回も忠盛公他平家のお歴々は海賊をさっさと討伐できる、と考えているのだろう。
片道分の兵糧しか持っていかないのも海賊を打ち破ったあとに大宰府とか国司から出させればいい、と考えているからだ。
現地調達という言葉を聞くとかなり頭が痛くなるが、なるほど間近で見ると愚か極まりない。こんなことなら戦史も学んでおくべきだったかな。芸術系とか戦史は底なし沼にはまると思ってまったく憶えてこなかったからな。
「つーか、ずっと同じよーな景色なんだけど。これほんとにきゅーしゅーに行くわけ?」
「たぶんね。てか、そうでないと俺らはあと4日で飯がなくて釣りする羽目になるぜ」
ボヤく茜に真面目に答えてやると、ひ、という息を詰める音が彼女から聞こえた。やばいじゃん、としきりに連呼していた。
「安心しなさいよ。父上も馬鹿じゃないわ。もし本当に食い物がなくなってきたら近くの港に入港するわよ。平家の財力をなめないことね」
若干怯える茜に声をかける清はほこるように胸をはる。彼女はこれから戦場に行くというのにかなり軽装だ。せいぜいが急所を守るために胴当てをつけているくらいだ。
それに服装が服装だ。彼女が着ているのは茜と同じなんかちょっと巫女っぽいスタイルの制服だ。似たように制服の上に胴当てしか付けていない俺が言うのもなんだが、色々とむき出しにしすぎではないか?
多分茜が作ったんだろうけど、戦場にまで着てくることはないだろう。甲冑巫女制服金髪少女とかこの時代で需要ねーぞ?
「清っち、もずいぶん様になったじゃん。やっぱプロがいいから似合うねぇ。あー、あたしももうちょい足細くなんないかなー」
「ぶ・ろ?なんのことかはわからないけど、ま、喜んどいてあげるわ。そうそう。このすずらんの色以外も作れない?他にもこの服欲しいんだけど」
「生地がたりませーん。スカートつくんのってきついのよ?この時代じゃ生地がthin、thin。何枚も重ねて織ってんだから」
そういえば、スカートって見た目に反して以外と分厚いんだよな。一ミリよりちょっと上くらい?どれどれ。あ、ほんとだ。すごくぶあつぅぅぅーーー!!
「なにしてんの!おなごにぶしつけいな!」
ちょっとスカート触っただけじゃん!それなのに顎蹴るか!?やば、意識が。ドタリ。




