平家の金蔓
「え?なんで?」
「おい、最初の最初でそれはちょっと胸が痛くなるからやめてもらえませんかね」
家貞さんにことわって清に忠盛公の下知を伝えた直後、彼女は辟易した表情で真っ向からその下知を否定した。さすがに呆れてしまう。ちなみに茜はぐーすか寝ている。家貞さんが怒っていた。
「お前さー。これはお前の親父さんの下知だぞ?」
「それでもなんであたしが海賊征伐……。磯臭くなるだけじゃん。それにあたしがいなくても問題はないでしょ?父上も家貞も叔父上も強いし」
確かに。
だけどこの海賊討伐はいわば、清の支持回復のためのもの。ついでに忠盛公の院への株価も上げよう、という一石二鳥の計略のようなものだ。
なのに当の清はまったくの体たらくさ。果たして三ヶ月前に忠盛公を若干認めていたあのときの清はどこへ行ってしまったのだろうか?
「……でも……それってあたしのせいなんでしょ?だからやっぱいくよ」
「ツンデレ?」
「なにそれ?また未来語?」
その返しは初めてだな。普通はツンデレと言われたら、ツンデレじゃねーし、というテンプレートな返しがくるものだろう。
とはいえ、清が行こうという気持ちを持っていたのは重畳だ。無理に連れていてふてくされるのも困るし、責任を感じてくれているようで何よりだ。
「それで?その海賊ってのはどこに出たわけ?瀬戸内?」
「九州らしいぞ?博多の港だとか」
評定の席で忠盛公から聞かされた話では、そのあたりに巨船を操る海賊の集団がいるらしい。高価な品を持って中国や朝鮮、南蛮の国々から帰ってくる商船を襲い、すでにいくつもの商船が沈められている、との話だ。
本当だとすれば由々しき事態だ。
菅原道真によって遣唐使が廃止されたせいで海外の情報はめっぽう入りにくくなっているのが平安時代後期というやつだ。商人らはこの時代では雑学や各国の世情に限れば、学者よりも詳しいくらいだ。
さらに、平家もまたそのパイプを利用して利益を得ている。西国に本拠を置くという立地上、そういった革新的な情報、技術はいち早く平家棟梁の耳に入るようになっているのだ。
つまり、これは博多の港だけの問題ではなく、平家にとっても大問題である、ということだ。平家しか頼れる海賊専門の荒事屋はいないとはいえ、鳥羽上皇が間違って源氏とか太宰府とかに命令しなくて本当によかった。
下手をすればあいつらにつけ入るスキを与えてしまう。
「夕霧?なんか悪いかたちになってるんだけど?」
「そうか?……そうだな。安堵しているからだろうな」
俺の返しに清は頭をかしげるが、そうかまってもいられない。忠盛公いわく、出陣は四日後。博多に向け、船で十日、といったところか。
この海賊征伐はいわば清、俺、それから茜にとっての初陣だ。この世界で初めて体験するマジものの人同士の殺し合い。
恐ろしくもあり、また心が少し踊っていたりもする。
一体どんな戦いになるか。
楽しみだ。
*




