評定
平忠盛公は巌のような感情の読めない表情で俺を見据えていた。さらに他にもいくつかの視線が俺を貫いていた。
清の叔父であり、平家でも随一の発言権を持つ平忠正。豪腕剛力で知られる平家一の強者、伊藤忠清。この中では比較的若いが、凛々しい顔つきをしている美青年、妹尾兼康。そしてつい先日元服し、名を改めた清盛の弟、平家盛だ。
彼ら四人の視線も然ることながら、やはり忠盛公の視線が今は一番俺の心臓に悪い。失望したぞ、と、手綱を握らずなにをしておるか、という2つの意味での責める視線に俺は肩が落ちながらも背筋を正すという奇怪なポーズになっていた。
「して、夕霧よ。清とその家人が起こした此度の一件、其の方前だって止めることはできなかったのか?」
「兄上、さようなことは言わずとしれたこと。こやつは頭こそ回り、武もまた家貞の日々の鍛錬でそこそこにはなって参りましたが、あの二人のじゃじゃ馬を御し得る馬主にあらず」
「忠正殿、控えられよ。今は、殿がお聞きになられています。庇い立て無用」
忠正さんは兼康に言われて、じろりと彼を睨む。どうやら、忠正さんは俺の側に立ってくれるみたいで、安心した。
「私が参上した時、ことはすでに。また、あくまで我が主清盛は盗人を捕らえんがためにしたこと。ご容赦を……」
「許せ、と?それでは内外への示しがつかん、と言えばどうする?」
数秒間、言葉の意図を察せずに俺は沈黙した。回りの平家有力者たちも小首をかしげる。しかし、やがてその真意がなんとなくだが察せられた。だから俺はこう言ってやったのだ。
「その失態上塗りするほどの大功かかげそれを御印といたすがよろしい、と愚考いたします」
とね!
つまりは征韓論の模倣。
なんかちょっと内部で不満がつのってるなー。外もちょっと疑り深いぞ?よっしゃ、生贄にちょっくら外から功績持ってきてごまかそー、ということだ。
「ふむ、その通りだ」
いよっしゃー!!これで間違ってたら何されていたかわかんねーわ。最悪、不敬無粋で切られていたかも。今の俺を褒めてやりたい。
「であれば、大功とはなんぞや?そのあたりに転びあそぶものにあらず」
「はやくに思い浮かびますは、海賊の征討あるいは山賊の征討でしょうか。誰の目にもよく見え、また内外に示すには適しております」
「さよう。特に頭の固い者共にはな」
忠盛公は頬の筋肉を緩め、柔和な笑みを浮かべた。だが、それは一瞬だ。すぐさま忠正さんに向き直ると、極めて真剣な語気で、
「忠正、すぐさま平家郎党の者共に集うよう下知をくだせ。院宣により、我らは九州へと行く。海賊征伐じゃ」
「ははぁ!直ちに!」
「それから夕霧よ。清盛にも伝えよ。貴様も連れて行く、とな」
「は!」
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