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源平活況物語  作者: 賀田 希道
かつて天を目指したものたち
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鳥羽院での宴

 鳥羽の院は平安京よりも東にある豪勢な屋敷だ。まわりには寺社や院近臣の屋敷があり、特に財力のある坊主や貴族などはここに屋敷を構えて鳥羽上皇の日々の暮らしぶりなどをこまめに観察、チェックすることで自分たちの今後の身の振り方を決めたりするのだ。彼らは全員己の保身、野心を考え、より鳥羽上皇に気に入られ、それでいてまわりには妬まれないようにするのだ。


 これは現代日本の社会でも言えることで、上司に気に入られることでまわりからの不況を買うということはままあることだ。特にドラマなどでは女性の間で男の取り合いみたいな形で似たようなことが描かれることが多い。主に、お局様が好きなイケメン君と後輩ちゃんが恋に落ちて、後輩ちゃんはお局様にいじめられる、みたいな展開だ。


 今も昔も思うのだが、それならなぜ上司なりイケメン君になり泣きつかないのだろうか?絶対的権勢を誇っている人が、いじめている人を裁けない道理は存在しない。もちろん、王家にも貴族との良好な関係というのはあるだろうが、それを抜きにしてもいじめるのをやめよ、くらいは言えるのでは、と世間を知らない俺は思う。特に源氏物語などはその典型的な例と言える。


 「家貞、馬をくくりつけよ」

 院の前に到着すると忠盛公は馬から降り、家貞さんに馬をまかせ、門前へと向かった。それに清が続き、俺も続く。ただし、茜には院の中に忍び込んでもらうため、北面の武士が警備しているなか、(へい)をよじ登ってもらった。これを気づかれないようにするんだから茜の身体能力は恐るべきものだ。ほぼ助走なしで二メートルを超える塀をひとっ飛びとか規格外にもほどがある。


 「平忠盛様ですな。お手数ではございますが、院に入られる際は刀はお預かり致します」

 門前で敬語していた北面の武士が歩み寄ると、忠盛公の飾り刀を受け取ろうと両手に布を持って手を差し出してきた。これは自分の手汗などが刀につかないようにするためだ。しかし、忠盛公は飾り刀だ、と言って木刀の刀身の一部を見せて北面の武士の納得させた。それを見た北面の武士は失礼しました、と一礼して代わりに清の剣と俺の脇差しを預かった。


 院の中に入り、すぐに俺と忠盛公は主人と従者に別れさせ、別々の幕へと案内された。案内の男は時々俺へと視線を向ける。服と冠をつけていない頭の二つが珍しいのだろう。あと、俺はどの時代でも美丈夫とは言い難いしな。昔から不幸顔、とよく呼ばれることはあるし、この時代でもきっと不幸顔なんだろう。ナカ=トガもひどい不幸顔だねー、とか言っていたし。


 案内され、ようやく開けたところに出た、と思ったら太鼓がドンドン、笛がピーヒャラととても愉快な音が聞こえてきた。幕を抜けると院の中の小さな庭に舞を舞う白拍子たちの踊り場があり、それを囲む形で色鮮やかな直衣を着た貴族たちが互いに酒を呑んだり、語ったりしていた。


 「こちらでございます」

 そう言われて俺たちが案内されたのは宴の席の後ろも後ろ。ほぼ塀の近くだ。しかも、塀の影のせいで布を敷いてあっても地面はじめじめしているし、尻が濡れてしまう。なるほど、最初から平家の人間はたとえ従者であってもお呼びではない、ということか。


 その仮説を補足するかのように時折俺たちを見て嫌味な笑みを浮かべるのだ。片眉をあげて反応してみせると、おお怖いなどと薄ら笑いを浮かべて言うのだ。ちょうど、学校なんかでからかわれて少しエキサイティングな反応をして見せた時にクラスメートが見せる反応に似ている。その時、その反応をされた人間は当然面白くないから怒る、怒るはいかなくても不快にはなる。


 「おう、これはこれは。また随分と珍しい顔ぶれだな」

 ほんといつの時代も、と嘆く俺を他所に背後で声がした。振り向けばそこには深緑色の直衣を着た佐藤義清(のりきよ)が立っていた。その姿から彼がここに招かれた客の従者として参上したことが伺える。髭を剃り、その白い肌を露わにした義清はより一層の美形に見えた。


 「佐藤、義清様……。一体なぜ……?」

 しかし、とっさのことだったので俺の口は頭に追いつけず、反射的に佐藤義清の存在があるのが不思議だ、と言ってしまった。義清はやれやれとでも言わんばかりに盛大に鼻で笑い、俺の隣に腰掛けた。


 「私の主、徳大寺藤原の御方々がこちらの宴に参上する、ということで従者として参ったのだ。ほれ、あの庭先におる紅色のお召し物の方のお隣におわすのが我が主、徳大寺実定様だ」

 見れば紅色の頬を赤くしている貴族の隣にひっそりとまだ俺や清よりも年は下かもしれない少年がそこにはいた。


 肌の色は温かみのある肌色で、着ている直衣は群青色だ。まだ貴族社会というものが理解できるかできないかの年頃だというのに、この場に立たされているその姿はとても小さく哀れに見えた。顔つきからしてとても謀略の伏魔殿を生き抜けるような屈強さもない。とても気弱そうで、見ているだけで保護欲をわかせるその少年が義清の主だと言うのだから驚きだ。


 「その隣、紅色のお召し物の方がこの宴の主催者、高階通憲様だ」

 言われて視線をずらすとそこにはふっくらとした顔つきで、頬の赤い男が笑いながらお隣の実定に話しかけていた。彼は時折、ほほほ、と笑いながら酒を口に入れる。人物像を思い浮かべるのなら夢の国の黄色いくまが徳川家康と合体したような見た目で、とても人懐っこい笑みを浮かべるのにどこか信用できない匂いを漂わせているのだ。


 「あの御方がはいt……」

 「ねぇ、のりきよー!あんたこんなとこ来ていていいわけ?一応検非違使でしょ?」

 退屈でしびれを切らしたのか、俺が質問するよりも先に清は割り込んできた。彼女は俺と義清の間に割って入ると、ちょいちょいと義清の袖を引っ張った。


 「あのなぁ、清。これは公務なんだ。検非違使としての仕事はちゃんと休みをもらっている決して……」

 直後、おぉぉ、という歓声が上がり、踊り場の白拍子たちは踊りをやめ、太鼓と笛の音は止んでしまった。そして貴族たちの視線は奥の殿へと注がれた。俺もそれに追従する。


 そして出てきたのは老齢の男と、まだ二十そこらの親子貴族だった。

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