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源平活況物語  作者: 賀田 希道
かつて天を目指したものたち
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ひざまくら

 突然のことなので、俺はすぐには言葉がでなかった。剣の柄頭の紋章が気になって清のことをすっかり忘れていた。気がつけば清の顔はどんどん目元と眉間にシワが寄っていき、俺を睨んでいた。

 「ねぇ、あたしは質問してるの。何あたしの顔を見つめてんの?ひょっとして欲情した?欲情しちゃった?あんたは節操のない猿なの?あたしが無防備に……痛っ……」


 頭痛を覚えたのか清は頭に左手を添えた。そしてその時初めて自分の頭に包帯代わりの布が巻かれていることに気がついた。そして何かを考える素振りを見せ、俺に聞いてきた。

 「なんであたし寝てんの?義朝は?」

 「えっと……義朝ちゃんなら勝負は私の勝ちヒャッハーとか言いながら自分の家に帰っちゃいましたよ?」


 「義朝ちゃん?あんた、どんだけ無礼なのよ。仮にも武家の棟梁の嫡子をちゃん付けとか。ま、あたしのことあだ名で呼んでる時点でもうねっていう……。あ、つかさ。なんであたしさっきからあんたの顔しか、てか空しか見えないわけ?」

 不思議そうに清は小首をかしげる。


 「そりゃ、俺が膝枕してるからな。寝てたりゃそら上しか見えないだろ。つっぷして寝れば下しか見えないだろうけどな」

 その俺の一言に清はガバッと跳ね起き、改めて地面に正座して清を介抱していた俺を睨んだ。その目つきは険しく、そして何よりどこか羞恥を感じさせた。


 「ひざまくらってアレよね?よく成金親父が義母上(ははうえ)に耳かきをしてもらう時にしてもらってるアレよね?なんで、あたしがあんたにそんなことされなきゃいけないわけ?ねぇ、ねぇ!」

 「言っとくけど、俺が膝枕してなかったらお前、死んでたかもしれないよ?」

 「それって言い訳?それとも命乞い?あのさ、そういうのするならもうちょっとマシな言い訳してくんない?あ、そうか。言い訳も命乞いもする脳みそも残っていないくらいテンパってるってことか。それじゃぁ仕方ないよね」


 清は俺の手から剣を取り上げると、鞘から引き抜いた。

 「いやいやいや!これマジ……えっと、そう!あのままにしてると血が逆流してお前の頭の中に変な血溜まりを生むの、そして血管がダイナマイトでパーティーして、脳溢血になっちゃうの。そしたら、死ぬぞ?そもそも馬から落ちて頭打って生きてるだけでも拾い物なんだからもうちょっと喜べよ!」


 自分でも何を言ってんのかわからなかった。ていうか、言っていることが真実なの?ぼく完全な文系だからわからない。こういう時にクトゥルフTRPGで言いくるめに振っときゃうまくいくのに。あーキーパーキーパー!助けて。マジで助けて。

 このままだと殺される!殺すまではいかなくても折檻される!


 必死でキーパー、もといナカ=トガに祈る俺に、清は哀れみとも侮蔑とも取れるへっ、というゴミを見るような目を向けた。それがまた恐ろしく、俺がひれ伏して、神様仏様清盛様とつぶやきながら念仏を唱えてもいいと思うくらいだった。それくらいに錯乱していた。


 その俺を哀れに思ったのか、彼女は剣を鞘に戻し大きくため息をついた。

 「別に殺しゃしないけどさ。その、なに?もう少し考えて行動すればよかったんじゃない?石でも拾ってきて枕にするとか色々あったじゃん」

 「おっしゃる通りです!」


 河原が近くにあったんだからそれくらい考えろよ、俺!なに無駄に誤解されるようなこと増やしてんの。

 「あーもう興が削がれた。帰ろ帰ろ。あ、茜は?」

 「まだ河原でブレザー乾かしてるんじゃね?」

 「そのブラザーってなに?あんたらが着てる黒い着物よね?それって高級品なの?」


 どうだろう?一般的にブレザーの価格なんてまちまちだしな。二万くらいのもあれば一万以下のもあるし。この時間軸で言えば間違いなく価値はあるだろうけど。

 「うーん、わからん。この時代の相場がわからないしな」

 「そうば?なんかまたよくわかんない未来語しゃべってるわね」


 相場の概念もないのか。貨幣制度があって、経済が回っているように見えるのに、そういうところではまだちょっと色々と問題があるのかな。そういえば清が貨幣制度が導入されたのは六年前だとか言っていたっけ。普通は貨幣制度が導入されれば相場ぐらいわかりそう……いや、あのまずい粥出す店でもちゃんと一銭で一杯ね、みたいな感じだったから概念としては存在してるのかもな。言葉としてないだけで。


 「ねぇ、ちょっと聞いてる?」

 「ん?なに?」

 どうやら俺が考え込んでる間に清が何かを言ったらしい。俺がまるで聞いていないと知ると顔を歪めて不満げに鼻を鳴らした。


 「だーかーらー。あんたの生きてた時代のことを歩いてる間暇だから教えなさいよ。どうせここからあの河原まで少し遠いんだから」

 あ、はい。

 なるべく清が先の歴史を知らないように注意して俺は現代日本のことを話し始めた。


 ――なにそれ。じゃぁ、あんたの生きてる時代じゃあたしたちぐらいの子はみんなその格好なの?

 「まぁ、男と女で服装は違うけどな」

 ――しかも……がっ……こう?みんな文字が書けるとか、すごくない?文字ってすごく憶えるの難しいのに!


 たしかにそうだな。特に漢字とか、英語とか憶えるのがたるい。

 ――未来の日の本は明るいわね。いまみたいな差別もないんでしょ?

 ――あ、やっぱりあるんだ。うーん、そういう問題は解決できないのかなー。

 ――國なんてあんまり変わらないよね。あ、でもさ。あたしが今を変えれば少しはその未来も変えられるのかな?


 俺はその問いに、ああ、とだけ答えた。飯屋では人一人に変えられる程度の歴史には価値はない、とか言ったけど、今更になって不安になってきていた。

 特にこれから殺し合うことになるあの二人を見た後では、ね。



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