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源平活況物語  作者: 賀田 希道
かつて天を目指したものたち
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源義朝

 突然のことに俺と清は目を見張った。今この馬は俺と清を飛び越えて降り立った。下手をすれば俺と清は馬に蹴り殺されていた。こんなことするなんて一体どんなバカだ!いや、どんなバカも何もないな。明らかに自分はできる、とか勘違いしているバカだ。失敗しても「わたし知らない、わたし悪くない」とか言う類の人間だ。


 そんな危ないヤツが俺みたいな平和に生きている人間の平穏を侵害するとはいい度胸だ。ここは現代日本のマナーというものを教えて……やろう……。

 見ればその馬はやたら矢避け用の防具で武装されていて、身長もかなり高い。明らかに軍用馬として育てられた血統書付きと言ってもいい名馬だと、思う。


 「ふははははは。こんなところにいたか、平氏の御曹司!今日こそはこの私と決着をつけろぉ!」

 馬上からひときわ甲高い声が漏れた。見上げれば馬の首に隠れてちょこん、と黒髪を後ろで縛った女性の人影があった。


 その人影は麻色の直垂を着ていて、腰には日本刀を下げている。体つきはかなりよくこの時代の人間にしては胸もあった。Bカップか、Cカップくらい?顔つくりもよく、目玉が大きく、濡羽色の髪も相まってもし豪華な着物でも着ようものならかなりの美人に見えたことだろう。それに何より清とは対照的に上品そうだ、あくまでも上品そう、というだけで別に本当に上品というわけではないだろうが。


 「えーと、どっかで会ったことあったっけなー?」

 威勢よく清に決着をつけろぉ、とか言っておきながら清はとぼけてみせていた。多分しらばっくれているんだろうが、そう言われた当の本人は口を曲げて憤慨していた。


 「き、貴様ぁ!この私を、源氏が棟梁が長女!(みなもとの)義朝(よしとも)を忘れただとぉ!今でも貴様が私の追っていた青鹿(しか)を横取りしたことは忘れていないぞ?しかも、貴様はそのあとその鹿の足だけ傷つけて子鹿のところまで逃げさせたあと、子鹿もろとも食ったじゃないか!それまで忘れたか!」


 「あ、そんなこともあったかもね。山になんか面白いものでも落ちてないかな−とか思ってたら急に私の目の前に青鹿が飛び出してくるんだもん、そりゃぁ、びっくりするって!」

 そんなことしたこともあるのかよ。親鹿に傷を負わせて子鹿のところまで案内させて一網打尽にする、なんていう猟法もあるにはあるけどさ、仏教倫理に基づけばただの外道のヤリ方だ。


 「しかも、食いきれぬから猪にでも食わせてしまえ、と言った時はこの畜生め、とも思った。どうだ、ここまで言ってもまだしらを切るか!」

 「あー、あー。思い出した。思い出した。武者助でしょ。お前は男として生きろ、とか言われた男装武者助!あんたいつの間に元服したの?」


 その話題を言われた瞬間、目の前の美人の顔が割れた。具体的に言えば馬上で身体をよじらして絶叫し始めた。ギャーギャーと喚きながら、その話題を振るな−とか、殺せ−、とか意味のわからない言葉を時々吐き出す。その光景は見ていてうわー、と思うもので、軽く引いてしまうほどだった。


 特に彼女が源義朝だと言うのがまたなんとも言えない残念感だった。源義朝と言えば平清盛と覇権を求めて争った英傑。武に優れ、しかしまた一方では繊細な心の武将だという話を聞いたことがある。それが目の前のアレです、とか言われたらがっかり感はマックスだ。


 「で、武者助。あんたがあたしになんの用?元服しました、祝いの品をください、とでも言いに来たの?ほんと厚かましわね」

 「うるさい、そんなわけがあるか。貴様は私をなんだと思っているんだ。というか、最初に言っただろ?」

 「ねぇ、夕霧。最初にそこの女あたしになんか言ったっけ?」


 俺に問いかける清は口元だけが笑っていて、目はまるで笑っていなかった。むしろ、「お前あたしの望む答え方しろよ」と言っていた。ここで逆らったら斬られる、と俺の直感的なものが言っていたので俺は仕方なく、

 「うん、なんも……言っていなかったと思うよ」

 と明後日の方向を見ながら言った。


 「はぁ?おい貴様ら、主君と……ん?ねぇ、その変な格好のやつ誰だ?清盛、貴様の家人か?」

 義朝――うん義朝ちゃんでいいな、多分俺と同じくらいだろうし――は俺を指差しながら清に訪ねた。ていうか、この服そんなに変ですかね?俺の生きていた時代じゃこんな服着てる君たちぐらいの人いくらでもいるんですけど。


 「ねぇ、あんたは人にものを尋ねる常識もないわけ?まずは馬から降りるのが筋じゃないの?」

 常識とか通じなさそうな清に常識を説かれるのは心外だ、と顔で義朝ちゃんは言っていたが、反論もできなかったので渋々馬から降りた。馬から降りればその身長は思ったほど高くなくて、清よりも少し高いくらいかな、といったくらいだったちなみに俺とは頭半分くらいの身長差だった。


 「で、この男は何だ?見たところ顔つくりはこの國の人間のそれだが、着ている服がなんというか……これは麻じゃないのか?……肌ざわりが違う?」

 不躾にも義朝ちゃんは俺に近づいてくると俺のブレザーを触ってきた。そして毛50%、ポリエステル50%の表面を触りながらポツリ、ポツリとこぼした。


 「宋、いやもっと遠い異国の服か?九州とかから来た、のか?」

 「あの、あんまり触らないでもらえません?不躾に触られても困るんで」

 「お、そうか。それは済まないことをしたな」

 俺がちょっと注意というか、不満を口にするとすぐに義朝ちゃんは手を離した。そして済まなそうに軽く頭を下げた。


 「こいつは……あたしが拾ってきた家人よ。向こうの河原にもう一人いるんだけど……ねぇ、茜!ちょっと来てくんない?」

 遠くでまだブレザーを洗っている茜を呼びながら、再び清は義朝ちゃんに視線を戻した。

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