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最終決戦(前半)

……あと一話の予定なんですが……ちょっと長くなるかもしれません。

 その日 人類は夜空を覆い尽くす無数の流星を確認することになった。


 米国PHA(Potentially Hazardous Asteroid) の連絡は大衆のパニックを防ぐため、各国首脳部内に留まり、一般には公表され無かった。

 このため第343増強航空隊も事情を知ることなく「デススター作戦(仮称)」の計画推進に邁進していた。

 第1段階のロケット打ち上げは、民間の人工衛星打上企業の仮装情報を使うことで内密に打ち上げることに成功した。

 静止衛星軌道上に到着したチックとアリス01は無事に予定軌道へ到達した。

 そのまま、天宮への衝突ドッキング軌道を計算しながら静かに近寄って行った。


 宇宙ステーションとのドッキングなんて難しくないように聞こえるが、双方がドッキングを望まない限りは衝突しか起こせないのが基本であり相対速度0で連結するのは不可能である。

 何しろ近づいてきたら推進ガスを噴かして逃げれば、高度も相対位置も一瞬で変わる、追従しても速度差があれば衛星の性質上、高度が変わる。

 単純に推力だけでは位置取りが決まらない双方自動落下中の物体が人工衛星というものなのである。

 それに相対速度が小さいということはそれだけ接近に時間が掛かるということで敵に見つかる可能性も高くなるということである。

 急速に接近すれば衝突の衝撃が大きくなって衛星を破壊する可能性が高くなる。

 それを考慮して高高度軌道から急激な減速で高度を下げながら目標前方より時速100km程度で衝突。

 衝突エネルギーは特大のエアーバックで吸収するという作戦が取られている。

 時速100kmは速そうだが衛星間の位置が1000km離れていれば10時間必要であり、急激な加速・減速は燃料消費が激しく、その後の運用期間に直結するため、消費を最小限で済ませ、かつ目標に判断する時間をゆっくり与えないために作戦軌道は決定された。

 「こちらチック、人工衛星アリランとのレーザー回線安定しました。高橋へ、これよりミッションを開始します。」

 「こちら高橋、発見を防ぐため通信電波はアリラン発信を徹底せよ。あと演算サポートは京が請け負ってくれた。軌道演算は丸投げしても大丈夫だぞ。うららへアリスの様子はどうだ?」

 「こちらうらら、アリスは今不思議の世界で興味津々中。まだ周辺状況の観察で手がいっぱいみたい。チック、サポートお願い。」

 「こちらチック、アリスに有線接続した。現状を把握した。」

 「こちら高橋、現時点で目標まで1200km。若干減速して1.5度右に25秒減速。相対速度を250km/hに上げる。推力指示は京からの通信を優先して行え、あと安全第一、デブリを注意して進んでくれ。」

 「こちらチック、指示了解。京からの通信確認しました。指示に従い推力操作行います。……噴出完了。現状維持のまま14400秒待機。変更無ければ、その後に予定された操作で相対速度を減速、18000秒後に相対速度30m/sで接触予定。」

 「こちらうらら了解、指揮権はチックに移行。12000秒後に指揮権返還の予定。」

 「チック了解。指揮権受領しました。」


 チックとの短い交信の後カプセルの蓋が開く。

 隣のカプセルからはうららが出てきたところだった。

 相変わらず扇情的なスーツだ。

 カプセル内の生理食塩水のせいで濡れた髪が一層の色気を放っている。

 しかし、本当に外観上はローティーンにしか見えない……

 それが無ければ特殊スーツの特徴からして前かがみで歩くことになりそうだった。

 「高橋、小休止に入るから、お茶でもどう?」

 「ああ、付き合うよ。」

 俺達は部屋の角に設置された喫茶スペースでコーヒーとクッキーで休憩する。

 ひとしきりコーヒーを飲んでささくれ立った神経が治まった時点でうららが話始めた。

 「それにしてもアリスが混乱状態なのは予想外だったわ」

 「それに関しては俺は意外ではないんだけどな」

 うららが疑問顔で続きを促してくる。

 「もともと、アリスは戦術判断用のコンピュータだ。周辺状況を集めて判断するのは本能に近い。

そして、今回の周辺状況はまったく新しい状況だ。全ての状況を収集しようとすればオーバーヒートするのは当たり前さ」

 「それだとチックがそうならないのはなぜ?CPUの差?」

 「いや、基本が違う。あいつはチャランポランに作った。確定よりは速度優先ということでデジタルアニール技術を使っている。」

 「デジタルアニールって?」

 「簡単に言えば一次解のときに出てきた数値を全部演算せずに、乱数に基づき選んで2次以降の演算を減少させる方式さ。これを使って4コアCPUで独立して未来と過去の可能性を演算してるから周辺状況の変化に疎いところがある。それが今回は長所として出た感じかな」

 「まあ、わかったようなわからないようなだけど、これが作戦の入り口ってハードよねー」

 「まったくだ。天宮奪取は作戦時間が読めないから臨機応変になるしかないし、最悪月単位での作戦になるかもしれない」

 「気長に行きましょう。なるべく休憩をうまく使って」

 うららと話したようにAI同士の意識疎通は時間がまったくよめない。

 その経験自体がAI教育に大きな進歩をもたらすと判断されたため、決行された作戦であるため終末点の見極めをするのがこの作戦での人間の役割である。

 チックとアリスの余剰演算能力で他のバルーンを作成・配置しながら進めるため、作戦が長期間にわたるのは仕方ないと判断されていた。


 5時間後


 「天宮にバルーン接触開始。カウンタースラスト噴出します。」

 「バルーン変形想定内。内部圧力微増中。」


 ディスプレイに映し出された加工映像は、透明なくらげが魚を飲み込むような形になっていた。

 透明なくらげがバルーン。魚が天宮である。

 衝突の衝撃でひしゃげたバルーンは天宮を包み込むように変形して運動エネルギーを移していた。

 時速180km、直径1kmとはいえ質量1gのバルーンである。コアモジュールの重量20kgを接触後相殺するようにガス噴射したことで天宮へのダメージは0で済ませることが出来た。

 これからターキー01が宇宙空間を漂い、天宮の点検用ハッチからのUSB接続でチックとアリスが侵入する予定だ。

 俺の体を包む全身タイツが締め付けをやめ、食塩水中に浮かぶ俺の体がフワフワと浮く感じがフィードバックしてきた。

 手を握るとターキー01が手を握った抵抗がフィードバックする。

 ディスプレイの天宮の映像に重ねて、ターキー01のカメラの情報が表示される。

 俺が主役メインの作戦時間が始まった。

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