コンバト**V
「運用試験の結果ですが……ウラジオストク港が流失しました。」
いったい何が起きた?
「事前警報のおかげで人員の被害は極めて軽微、ですが20mを超える津波で港湾設備は壊滅しました。」
いったいどこの戦略兵器の話かと思うが、これがただの開発中の安全装置のテスト結果というところに恐怖を感じる。
社長御前会議から1週間、真田さんはいい具合に暴走していた。
エアーバック性能確認試験に5トンの液化水素をかき集めた時点で、暴走に気付けばよかったのだが、実際に1000mの球が作れるかをテストするといわれたときは当然だと思っていた。
海底で液化水素を注入、浮上にあわせて膨張させるといわれたときも、空中で邪魔されるのは面倒だと思ったせいで無意識に許可してしまった。
しかしその後に起きた結果から見ると、最初からこれを狙っていたんではないかと言う気がする。
ウラジオストク沖60kmの日本海盆、水深2500mの地点で始まったエアーバック膨張試験は安価な水素ガスで膨らませた風船を海底から浮上させ、樹脂の強度を確認する試験だったはずだ。
そして水深2500mは気圧250気圧、海底で膨らんだ風船は直径わずか4mにすぎなかった。
そこで水中カメラで成功を確認した後に、水面に浮上させることにした。
実際に1000mの風船を見てみたかったのである。
そして風船は速やかに変形しながら浮上してきた。
当たり前のことだが、水圧は深いほど高い。
その結果水圧の低い部分は早く広がり、上昇時の猛烈な速度による水の抵抗を受けまるで漏斗のような形に変形しながら直径1kmの物体が浮上してきたのである。
しかもなぜか水深500m付近でコア部分が水素ガスの噴出試験を再開、噴出方向である日本に向かって伸びた足が向いた形で浮上してきた。
つまり水面に到達したときは横に倒れた漏斗が浮上しており、そのとき広い口を向けていたのはユーラシア大陸であった。
海面到着後速やかにエアーバックは速やかに球体に変形、凹んだ部分にたまっていた海水を時速200km高さ500mで噴出した。その方向にあったのはウラジオストクであり、奥に窄まった地形の効果もあって高さ20m以上の津波が押し寄せた。
後に残ったのは瓦礫と泥である。
しかもほぼピンポイントで狙い打っている。
ウラジオストクの横の町のナホトカやスラブヤンカの町は50cm未満の津波だったそうなので、明確に制御しているといえるだろう。
「なんでエアーバックのテストで戦略兵器作るやつがいるんだよ。」
「日本への被害を最小限に考えて制御したんだが、何か問題はあったのかな?」
俺は何事も無かったような顔で観測データを纏めている開発部長にむかってぼやくしかない。
「実験データはちゃんと保管してくださいよ。この実験2度目は許可出せないですから」
そうは言ったものの自衛隊から要求があれば再現試験になるのだろうなと思う。
「大丈夫だ。現時点でも計測中だが、樹脂の強度は想定どおりだ。」
現時点でも計測中?
「現在、高度15000m通過、気圧134hpa 気温-65℃、バルーン直径は2000m、内部気圧150hpaガス漏れなし。上々だ。」
そうか、海面を離れた後も上昇していたんだった。
15000mだともう成層圏まで行ったのか……エイ型飛行母艦の高度20000mまでもうすぐだな。
それこそ、エイ型飛行母艦の駐留用に浮かべてもいいかも知れない。
思わず、現実放棄したくなったが、それほどにこのエアーバックの汎用性が広すぎる。
対ミサイル防衛の核であり、敵衛星捕獲用具であり、対無人兵器兼発電所、全地球監視システムの要、おまけで戦略破壊兵器……その正体がゴム風船て悪い冗談だよな。
もう見えなくなった風船の存在を示しているのはディスプレイ上で刻々変わる観測数値だけだ。
「このバルーンだが超電○ヨーヨーと名付けようと思う。」
「好きにしてくださいって何でヨーヨー?」
「縁日の水風船を連想させたからだ」
キリリとした表情で真田さんは断定した。
きっと「超○磁竜巻」とか「○電磁スピン」とかの技も出てくるに違いない。
ともあれ、後は実際に打ち上げて宇宙空間での実験だけになるだろう。
やっと目処が立ってきたな。
「うん? 成層圏偏西風で時速150kmでてるな。もう太平洋上か。半日もあるとアメリカ上空だな。対空ミサイルに打ち落とされないといいが……」
最後の一言が不安です。
あと一話(の予定)




