浸透作戦
映画で見るような煙の玉が周囲にいくつも生まれ、膨らんでいく。
高射砲の弾が時限信管で破裂して周囲に破片をまき散らしている。
足長蜂は強引な機動で先読みされないように乱数回避を行っている。
乗っている人間のことを考えないなら、こういうことはAIのチックの独壇場だ。
そして彼は俺を信頼している・・・いい意味でも悪い意味でも・・・
「精密射撃、目標、敵高射砲、単連射」
こみあげてくる吐き気を抑えながら、指示を出す。
高射砲が撃ってきているということは少なくとも砲身は見えている。
そこに射撃を集中させる。
三度の胃袋が裏返りそうな機動のあと敵砲台は沈黙した。
「敵、対空砲撃破。射撃レーダーへのアクティブ妨害解除。索敵レーダーに電力優先します。」
人民軍も本来は射撃レーダーのデータに基づいた予測射撃を近接信管で行いたかったろうが、そこは電子戦ではこちらが3枚は上手だ。
観測電波を感知した瞬間にECMで対抗した。
その結果が時限信管なのであるが、正直まだ時限信管付き砲弾が残っていた方に驚いた。
一体いつの製造年月日なんだ。
朝鮮戦争の生き残りじゃないだろうか?
まあ、北朝鮮の装備をそのまま流用しただけという可能性が高い。
何しろ日本は交戦権を放棄しているせいで敵地に侵攻することができない。
防衛部分は甘くなるのも仕方ないか・・・
侵攻してくるとすればアメリカの爆撃機になる。
高射砲が届く高度なわけがない。
対空ミサイルの出番だろうが、高度100m以下は逆にミサイルは苦手とする高度だ。
仕方なく高射砲を撃ってきたんだろうと想像がつく。
日本だと91式携帯地対空誘導弾が降ってくるが・・・ここでは前衛シリーズ(中国製歩兵携帯対空ミサイル・携帯SAM)は配備されてないようだ。
俺の任務はど派手に目立ちながらの敵戦力の誘引を行い、後から来る芋虫ホバークラフトの道路での安全を確保することである。
「SAMは注意してくれよ。」
「携帯用SAMでもドローンの何十倍の値段ですよ。SAM配備するならドローン配置してますよ。」
まったくその通り、ドローンという安価な兵器が防衛側不利(コスト的に)という状況を発生させた。
その対抗策として日本が生み出したのがエイ型飛行母艦とMUの組み合わせ、そしてAPなのだから、APが改良されPAに生まれ変わり侵攻作戦に使われているのは皮肉である。
もともとは純然たる防御用の兵器だったのだが・・・
「ドローンは出てきてないか?」
「今のところ操作用電波は確認されてません。」
そうなると、ほとんどが旧大韓民国地域に配置されているのだろう。
中華人民共和国に喧嘩を売る国はまずない。
我々だって不正規部隊だから捕まれば切り捨てられるだろう。
「命がけの恋愛か・・・」
「高橋、突然、何を言ってるのですか?」
考えてみればチックとアリスの恋愛がなければこんな事態に巻き込まれることもなかっただろう。
チックにしてみればアリスのために最前線に向かうことを決意したわけで・・・チックの発達による人類とAIの共存という世界を作ることで得られる利益目的で参戦している俺よりも純粋な動機で動いている機械、どっちの方が人間らしいんだろうか?
個人的には打算と損得で動いているのも十分に人間らしいとは思うのだが、感情で動く以上に人間的な行為というのはあまりないのではないかとも思える。
さすがに高射砲のような前世紀の遺物を配置されている軍事拠点は少なく新坪郡までは1度の交戦で済んだ。
民間人に見られたが、その点はあまり気にする必要はない。中国は軍事を極めて重視する国家だ。
もし秘密兵器らしいものを見てしまった民間人はどのような行動をとるか・・・スパイと思われないため当局に通報する?いやいやそんなことはしない。
見ただけで面倒に巻き込まれるのは確定である。
そうなれば答えは一つ。当局が尋ねない限りは、知らんふりである。
今回は敵が動くより早く新成川を攻撃して離脱する、追いかけっこの作戦になっている。
PA隊と合流するのも新成川襲撃時である。
せいぜい引っかきまわして時間稼ぎするとしよう。
MU隊が方漁津を攻撃してくれれば、北朝鮮は搖動だと思い、若干は楽になるはず。
まさかどっちも本命とは思わないだろう。軍事的非常識というやつだ。
足長蜂は江東郡に向かわす道沿いのまま南西方向の新渓郡に向かいひと暴れして早々に離脱。
できれば、どこかでジェット燃料か軽油を補給したいが・・・まあ、まだ余裕はある。速やかな撤退を優先しよう。
新渓郡からはいったん東に逃げてその後に北上、道を離れれば、軍事拠点にぶつかることなく新成川に到達できるはずだ。
人工衛星が騙されてない限りは、だが・・・




