表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/30

第7話 魔力値一の再試験



 探索者試験の前夜。


 俺の右手には、針の先ほどの白い光が浮かんでいた。


「初級火球、一・二発分です!」


 ラヴィが俺の手首を支えながら、金橙色の瞳を輝かせる。


「昨日より減ったな」


「はい! あと〇・二発分だけ削れば、完璧な普通です!」


「普通にするのが大変すぎないか?」


「マスターが普通ではありませんから!」


 悪意なく言い切られた。


 俺の左側では、セラが外部中継核へ両手を添えている。


 銀白色の髪の毛先が淡青色に光り、余分な魔力を中継核へ逃がしていた。


「ラヴィ。術式の外殻を、あと三パーセント薄くしてください」


「これ以上薄くすると、色を赤くする余裕が完全になくなります」


「色は諦めます。威力を優先してください」


「最初から諦めてます!」


 針の先ほどだった白い光が、さらに小さくなる。


 俺には、もう光っているのかどうかも分からない。


「出力を確認します」


 セラの瞳に青い六角形の魔法陣が浮かぶ。


「初級火球、一・〇四発分」


「できた!」


 ラヴィが勢いよく両手を上げた。


 その拍子に赤いポニーテールが照明のひもへ絡まる。


「いたたたっ!」


「動くな。今外すから」


「敵の拘束です!」


「うちの照明だよ」


「日常には敵が多いですね!」


 髪を外してやると、ラヴィは何事もなかったように胸を張った。


「これなら試験に合格できます!」


「まだ撃ってないけどな」


「撃てば合格です!」


「試験会場では、わたしの指示を待ってください」


 セラが念を押す。


「特に、直人様へ追加射撃を勧めてはいけません」


「一発だけでは、マスターの魔力圧はほとんど下がりません」


「試験は魔力を消費する場所ではありません」


「でも、あと九十九発くらいは――」


「認めません」


 明日の試験よりも、二人を止められるかの方が不安になってきた。


     ◇


 翌朝。


 俺たちは、電車で四十分ほど離れた探索者協会支部へ向かった。


 セラとラヴィを部屋へ残す案も考えた。


 しかし遠隔制御では負担が増えるうえ、初めて実際に魔法を放つなら、二人が近くにいた方が安全らしい。


 外見だけなら、小学生くらいの少女を二人連れて歩いているようにしか見えない。


 それでも、胸元や手首に浮かぶ魔導回路を見れば、魔道人形だと分かるようだった。


 駅までの道で何度か視線を向けられたが、呼び止められることはなかった。


「直人様。歩行速度を三パーセント落としてください」


「そんなに速いか?」


「わたしではなく、ラヴィが遅れています」


 振り返る。


 ラヴィは少し離れた場所で、道沿いの魔導広告を見上げていた。


『初心者向け火炎術式講習。一日で初級火球を習得!』


「マスター! あれ、わたしなら三分で教えられます!」


「今日は試験に遅れないことを優先してくれ」


「一分でもできます!」


「張り合わなくていい」


 ラヴィの手を引いて駅へ向かう。


 その様子を見たセラが、少しだけ目を細めた。


「セラも手をつなぐか?」


「不要です。第一制御機には、自律歩行機能があります」


「昨日、机の脚につまずいてたけど」


「室内地形の再確認です」


 そう言いながら、セラは俺の反対側へ移動した。


 手はつながなかったが、ジャケットの袖が時折こちらの腕へ触れていた。


     ◇


 探索者協会支部は、駅前の大きな複合施設に入っていた。


 一階が受付と素材買取所。


 地下には魔法試験場と訓練場がある。


 受付で名前を伝えると、職員が端末を確認した。


「白石直人さん。探索者登録の再試験ですね」


「はい」


「前回の受験は五年前……魔力測定値一。点火術式の発動に失敗しています」


 声に嘲笑はなかった。


 ただ事実を確認しているだけだ。


 それでも、以前の記録を読み上げられると胸の奥が少し重くなる。


「今回は魔導補助機を使用します」


 俺が後ろの二人を示すと、受付職員は少し驚いた顔をした。


「こちらのお二人ですか?」


第一制御機セラです」


第二術式機ラヴィです! マスターの火球は、わたしたちに任せてください!」


「ラヴィ。余計な説明は不要です」


「重要な説明です!」


 職員が困ったように俺を見る。


「魔道人形を使った術式補助は、規則上認められています。ただし、補助機を含めて魔法使いの装備として登録する必要があります」


「今からできますか?」


「所有権を証明できる書類はありますか?」


 俺は会社から渡された譲渡契約書の写しを提出した。


 職員は内容を確認し、六機合計百八十万円という部分で一瞬だけ手を止めた。


「六機すべて、白石さんの所有物で間違いありませんか?」


「給料から毎月三万円ずつ払う予定です」


「……故障品として譲渡されたようですが、二機は動いていますね」


「直人様の魔力によって修復しました」


 セラが答える。


「修理業者を通していない場合、安全性の確認が必要です」


「わたしたちは安全です!」


 ラヴィが両手を机へついた。


「普通の初級火球まで出力を落とせます!」


「落とす?」


「ラヴィ」


 セラが名前を呼ぶ。


 ラヴィは口を閉じた。


 受付職員は何かを聞きたそうにしていたが、先に二人の機体検査が行われることになった。


 簡易測定器がセラの胸元へ向けられる。


『出力測定不能』


『規格不一致』


 次にラヴィ。


『出力測定不能』


『規格不一致』


 職員が測定器を何度か振った。


「機械の調子が悪いようですね」


「機械は正常です」


 セラが静かに訂正する。


「わたしたちが、現代規格に対応していないだけです」


「登録できないんですか?」


「いえ。古代遺物の場合は、機能を限定して仮登録できます」


 端末へ新しい項目が入力される。


 第一制御機セラ


 第二術式機ラヴィ


 用途は、魔力制御および術式構築補助。


「試験に合格した場合、当面はこの二機を装備した状態でのみ、攻撃魔法の使用が認められます」


「二人なしでは使わない方がいいので、それで構いません」


「正しい判断です、直人様」


「わたしがいれば百発でも安全です!」


「一発です」


 セラの訂正は早かった。


     ◇


 地下試験場は、学校の体育館ほどの広さがあった。


 壁と天井は厚い防護素材に覆われている。


 正面には、人の上半身ほどの大きさをした試験用標的が置かれていた。


 試験官は、四十代くらいの男性だった。


「白石直人さん。再試験ですね」


「よろしくお願いします」


「補助機を二機使用。試験内容は、初級火球を二十メートル先の標的へ一発命中させることです」


「はい」


「威力が基準を大幅に超えた場合は、制御不能として不合格になります」


 俺は横の二人を見る。


「大丈夫だよな?」


「任せてください、マスター!」


「ラヴィだけに任せると危険です。わたしも制御します」


「聞こえてますよ、セラ!」


 試験官が眉をひそめる。


「何か問題がありますか?」


「ありません」


「問題ありません!」


 二人の声が重なった。


 不安しかない。


 射撃位置へ立ち、右手を標的へ向ける。


 セラが俺の左側。


 ラヴィが右側へ立った。


「直人様。魔力経路を開きます」


「マスター、わたしが引き出します。抵抗しないでください!」


 胸の奥にある重いものが動き始める。


 セラの銀白色の髪が広がり、毛先が淡青色に輝く。


 ラヴィの金橙色の瞳には、複数の赤い魔法陣が浮かんでいた。


「魔力圧、減圧開始」


「術式外殻、構築!」


 右腕が熱くなる。


 手のひらの前へ、白い光が生まれた。


 試験官が息を呑む。


「白い火球……?」


 火球の大きさは、訓練用の見本とほとんど変わらない。


 だが炎は赤くない。


 中心まで白熱し、周囲の空気を細かく震わせている。


「現在、初級火球一・〇七発分です」


「あと少し落とします!」


 白い火球がわずかに縮む。


「一・〇二」


「もう少し!」


「一・〇〇。規定値です」


 セラが俺を見上げる。


「直人様。発射してください」


「マスター、真ん中です!」


 俺は標的を見た。


 五年前、何も起きなかった右手。


 何度やっても火花一つ出せず、試験官に不合格を告げられた。


 今は、その手の前に確かな火球が浮かんでいる。


「行け」


 右手を前へ押し出す。


 白い火球が一直線に飛んだ。


 標的の中央へ命中する。


 乾いた破裂音とともに、表面の判定板が赤く光った。


『命中』


『術式区分、初級火球』


『威力、規定範囲内』


 静かになった試験場で、試験官が測定結果を二度見した。


「……本当に、規定範囲内だ」


「当然です!」


 ラヴィが両手を腰へ当てる。


「普通の火球にできたんです。もっと褒めてください!」


「ラヴィが色を通常仕様へ調整できなかったことは、伏せてください」


「セラ!」


 試験官は二人を見比べたあと、俺へ向き直った。


「白石直人さん」


「はい」


「探索者登録試験、合格です」


 五年前には使えなかった初級魔法。


 それを一発撃っただけで、胸の奥にあった重苦しさが、はっきりと軽くなっていた。


 隣では、セラが何もない場所で転ぶことなく立っている。


 ラヴィは俺の腕へ抱きつき、目を輝かせた。


「マスター! これでダンジョンへ行けます!」


「ああ」


「残りの魔力を安全にするため、今日はあと九十九発撃ちましょう!」


「それは試験内容に入っていません」


 セラが即座に止める。


 試験官の表情が引きつった。


 俺の探索者としての初日は。


 火球を一発撃ったところからではなく、残り九十九発をどこで消費するか考えるところから始まった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になる、面白かったと思っていただけましたら、ページ下部からブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。


皆さまの応援が、今後の更新の大きな励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ