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第28話 産廃を直したら、産廃から商品が出てきた



『第一資源加工区画』


『自動精製設備――停止』


『保管中資源――劣化進行』


 中層へ入って早々。


 臨時整備責任者にされた俺の前へ、緊急障害が表示されていた。


「コレット」


「はい」


「会社員を続ける意味が薄くなるって、どのくらい?」


「まだ分かりません」


「さっきかなり反応してたけど」


「だからこそ、確認するまで計算に入れません」


 コレットは珍しく慎重だった。


「保管量が多くても、現代で価値があるとは限りません。加工設備が直らなければ売れませんし、そもそも所有権の整理も必要です」


「なるほど」


「ですが」


 琥珀色の瞳が再び光る。


「確認はしたいです」


「すごくしたそうだな」


「はい」


 隠す気はないらしい。


「イリス」


 俺は一番小さな少女を見る。


「第一資源加工区画って、ここから遠い?」


「近い」


「どのくらい?」


「……歩いて五分」


「それなら確認だけ行くか」


 三枝さんも頷いた。


「現場を見るだけなら問題ないでしょう。ただし、修理を始める場合は一度相談してください」


「分かりました」


 ラヴィが勢いよく手を挙げる。


「壊れているなら、わたしの出番ですね!」


「なぜ?」


「壊れたところをもっと壊して、交換しやすくします!」


「その発想は禁止します」


 セラが即答した。


     ◇


 第一資源加工区画は。


 本当に五分ほど先にあった。


 ただし。


「これ、加工区画?」


 三枝さんが呆然とする。


 広い。


 学校の体育館が二つ入りそうな空間。


 そこに何十本もの配管。


 巨大な六角柱。


 天井まで届く加工槽。


 床には、黒い砂のような物が大量に散らばっている。


『第一資源加工区画』


『稼働設備――〇/十二』


「全部止まってるな」


「緊急度Aなのは、その中の一系統です」


 シエルが指を差す。


 一番手前。


 比較的小さな加工装置。


 それでも俺の身長よりずっと大きい。


「故障原因を解析」


 シエルの瞳に数字が流れる。


 数秒。


「主魔力経路断裂三か所。熱変換術式欠損。資源選別部固着。制御核は正常」


「直せる?」


「わたしだけでは不可能」


 次にコレットが近づく。


「選別部は修復できます」


「お」


「ただし、交換材料が必要です」


「どんな材料?」


「高魔力伝導性を持つ金属板。耐熱魔導線。低純度でも構いません」


 三枝さんが周囲を見る。


「持ち込んでないですね」


「現代品なら後日――」


「ある」


 イリスが呟いた。


「どこ?」


 小さな指が。


 部屋の隅を指す。


 そこには。


 錆びた金属片。


 折れた板。


 黒ずんだ棒。


 どう見てもゴミの山が積まれていた。


「廃材?」


 俺が聞く。


「うん」


 コレットが一瞬でそちらへ向かった。


「待ってください」


 しゃがむ。


 一枚拾う。


 捨てる。


 二枚目。


 拾う。


「使えます」


「それ?」


「はい」


 今度は細い金属線。


「これも」


 小さな板。


「これもです」


「本当にゴミから直すのか」


 コレットが振り返る。


「白石さん」


「ん?」


「価値がない物と、価値を使い切った物は違います」


 どこかで聞いたような話だった。


 会社から産廃扱いされた六機。


 廃棄箱に入っていた中継核。


 処分センターへ送られた最後の一基。


 全部。


 使えないと思われていただけだった。


「修復を試します」


 三枝さんが念を押す。


「安全は?」


「直人さんには近づいていただきません」


 フィオナが笑顔で言った。


「俺も作業すると思うんだけど」


「必要になったら呼びます」


「整備責任者なのに」


「責任者が毎回手を入れる必要はありませんよ」


 妙に正論だった。


     ◇


 六機が。


 初めて、一つの設備を直すために同時に動いた。


「シエル。破損位置を共有してください」


「共有」


 空中へ青い立体図が出る。


「コレット。交換部材の形状は?」


「切断位置を表示します」


「ラヴィ」


「はい!」


「熱変換術式の再構築を」


「任せてください!」


 ラヴィの指先へ、赤い魔法陣が浮かぶ。


「焼き切らないでください」


「分かってます!」


「過去の失敗率――」


「シエルは今それ言わなくていいです!」


 フィオナは加工装置の周囲へ薄い結界を張る。


「万一の破裂に備えます」


「破裂する可能性あるの?」


「一・二パーセントです」


 シエルが答える。


「低いな」


「ですので三重結界にしました」


「フィオナ?」


「念のためです」


 三重だった。


 セラは俺の隣へ立つ。


「最後に直人様の魔力を供給します」


「そこだけ俺か」


「はい」


「なおと」


 イリスが袖を引く。


「私もいる」


「何する?」


「権限」


「それだけ?」


「大事」


「確かに」


 イリスが装置へ手を向ける。


『第六中枢機――整備権限を付与』


『第一資源加工設備――手動修復を許可』


「ほら」


「大事だった」


「うん」


 満足したのか。


 イリスはその場でしゃがんだ。


「何してる?」


「待つ」


「寝る気じゃないよな?」


「……寝ない」


 ちょっと怪しい。


     ◇


 修理開始から二十八分。


「資源選別部、復旧しました」


 コレットが立ち上がる。


 交換に使ったのは。


 さっきまで床の隅に積まれていた廃材だけだった。


「熱変換術式も完成です!」


 ラヴィが胸を張る。


 赤い光が、切れていた術式部分へ細く走っている。


「主経路接続、正常」


 シエル。


「設備損傷の拡大なし」


 フィオナ。


「直人様」


 セラが俺を見る。


「最後に起動用魔力を供給してください」


「ああ」


 装置の前へ立つ。


 右手をかざす。


 胸の奥から魔力が引き出された。


 セラが減圧。


 ラヴィが設備用の形式へ変換。


 シエルが供給量を監視。


 イリスが権限を維持する。


『契約者魔力を確認』


『供給規格――適合』


『第一精製設備』


『再起動します』


 低い駆動音。


 何百年止まっていたのかも分からない設備へ。


 一つずつ。


 光が戻っていく。


「動いた……」


 葛城さんが呟いた。


『暫定稼働率――三十一パーセント』


「三割だけ?」


「応急修理ですので」


 コレットが答える。


「本格修復には新しい部材が必要です」


「でも使える?」


「試験運転は可能です」


 その瞬間。


 加工装置が勝手に床の黒い砂を吸い込み始めた。


「何だこれ?」


「待って」


 コレットの顔が変わる。


「この砂」


 琥珀色の瞳が強く光った。


「資源です」


「ずっと踏んでたやつ?」


「はい」


 三枝さんが足元を見る。


「これ、協会の簡易鑑定だと魔力反応なしでしたよ」


「低品位の残滓です」


 コレットが答える。


「通常なら廃棄物扱いで正しいです」


「じゃあ何に使える?」


「見ていてください」


 黒い砂が加工槽へ入る。


 内部から低い振動音。


 紫。


 青。


 白。


 何度も光が切り替わる。


 五分後。


 装置の反対側から。


 小さな銀白色の塊が出てきた。


「……これだけ?」


 ラヴィが首を傾げる。


 手のひらに乗る程度。


 黒い砂は、かなり大量に吸い込まれていた。


「コレット」


 俺が声をかける。


 返事がない。


「コレット?」


「……査定中です」


 珍しく。


 二秒。


 三秒。


 琥珀色の瞳の中で、数字が高速に流れている。


「現代名との照合完了」


「何だった?」


「高純度魔力伝導銀です」


 三枝さんが反応した。


「魔導銀?」


「現代品より純度が高いです」


「どのくらい?」


「測定可能範囲で九十九・九八パーセント」


 三枝さんが固まった。


「そんな純度、研究用でも滅多に……」


「高いの?」


 俺が聞く。


 コレットが重量を測る。


「百八十六グラム」


 現代価格を照合。


「暫定査定額」


 空中に数字が表示された。


『二万七千九百円』


「これ一個で?」


「はい」


 ラヴィが床を見る。


「じゃあ、この黒い砂を全部入れたら……」


「待ってください」


 コレットが即座に止めた。


「加工設備への負荷、電力ではなく魔力消費量、保管資源の権利、売却時の市場影響、すべて未確認です」


「でも儲かりますよね?」


「可能性はあります」


「いっぱい作りましょう!」


「だから待ってください」


「コレットが、お金になる物を止めた……」


「持続できない利益は利益ではありません!」


 珍しく声が大きかった。


 イリスが床に座ったまま呟く。


「コレット、正しい」


「ありがとうございます」


「全部動かしたら」


 イリスが加工区画を見回す。


「壊れる」


「え?」


 十二基ある設備。


 そのうち。


 一基だけが今、弱々しく光っている。


「供給路、死んでる」


「どこが?」


「深いところ」


 紫色の線が床へ伸びた。


 中層のさらに下。


 赤く表示された緊急度Aの二件目へ接続する。


『第二魔力循環路――遮断』


『中層主要設備への供給不能』


「つまり?」


「一台ずつなら、なおとで動く」


 イリスが俺を見る。


「でも全部は無理」


「俺の魔力でも?」


「量は足りる」


「じゃあ何が問題?」


「道が壊れてる」


 魔力を届けるための施設側の経路。


 そこが死んでいる。


「直せば?」


 イリスは少し考え。


「加工区画、だいたい動く」


「だいたいって何台?」


「十台くらい」


 ラヴィが目を輝かせた。


 コレットは。


 逆に頭を抱えた。


「白石さん」


「何?」


「困りました」


「何が?」


「会社を辞める条件を、見直す必要が出てきました」


「早くなる?」


「可能性があります」


 そこで。


 コレットは俺を真っ直ぐ見た。


「ですが、まだ辞めません」


「やっぱり?」


「加工設備を一台直しただけです」


 空中へ、新しい条件が追加される。


『第二魔力循環路の復旧』


『資源所有権の確定』


『継続生産可能量の確認』


『販売先の確保』


『三か月分の安定利益』


「これを全部確認してからです」


「増えてない?」


「事業になる可能性が出たので、確認項目も増えました」


「退職が遠ざかってる気がする」


「安全に近づいています」


 コレットはそう言って。


 銀白色の小さな塊を見た。


 会社なら。


 床に落ちた黒い砂を見ても。


 きっとゴミだと判断しただろう。


 俺だって。


 今日まではそう思っていた。


 けれど。


 産廃扱いされた六機が直した。


 壊れた古代設備は。


 産廃にしか見えない黒い砂から。


 二万七千九百円の商品を作り出した。


 そして臨時整備責任者になった俺の端末には。


 もう次の仕事が表示されていた。


『緊急度A――二件目』


『第二魔力循環路』


『復旧推奨』


 どうやら。


 会社を辞める前に。


 俺は地下にある巨大施設を、少しずつ直すことになりそうだった。


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