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第27話 初心者ダンジョンの調査で、月額契約を提示された



 東第七ダンジョンが。


『古代大規模施設型ダンジョン――暫定調査対象』


 へ指定変更されて、三日後。


 俺たちは再び探索者協会の会議室にいた。


「白石さん」


 支部長が一枚の契約書をこちらへ向ける。


「今後の調査について、正式な継続契約をお願いしたいと考えています」


「継続契約?」


「はい」


 横に座っていたコレットの琥珀色の瞳が光った。


 もう完全に仕事の顔だ。


「内容を確認します」


 俺より先に契約書を読む。


「月額の協力基本料。それとは別に、調査一回ごとの参加報酬。危険度に応じた追加手当」


「そういう形です」


「装備損傷時の補償は?」


「協会指定区域での調査中なら対象です」


「六機も?」


「もちろんです」


「未知の古代技術を発見した場合の権利は?」


「前回と同じく、所有権を保留した上で貢献度に応じて協議します」


 支部長が答えるたび。


 コレットが小さく頷く。


「悪くありません」


「よかった」


 支部長が少し安心した顔をした。


「ですが、一点」


 やっぱり来た。


「基本協力料が低いです」


「……そうですか」


「白石さんと六機がいなければ、現状では封鎖区画より先へ進めません」


「それは理解しています」


「つまり、単なる調査員ではなく」


 コレットが契約書を指す。


「古代設備への接続手段そのものを提供しています」


「なるほど……」


 支部長の隣で、三枝さんが小さく笑っていた。


 以前なら。


 契約書を渡された時点で、俺はそのまま署名していただろう。


 今は違う。


「コレット」


「はい?」


「高くしすぎないようにな」


「もちろんです」


「本当に?」


「長期取引では、相手にも利益が残らなければ続きません」


 まともだった。


「ただし、こちらだけが安く使われる理由もありません」


 やっぱりコレットだった。


     ◇


 三十分後。


 正式な条件がまとまった。


 月額協力料、六万円。


 それとは別に調査参加報酬。


 危険区域へ入る場合は追加手当。


 六機の専門能力を個別に使用する場合は、内容に応じて別途契約。


「これなら」


 コレットが空中へ簡単な収支表を出す。


「定期納品契約と合わせて、毎月十八万円前後の固定収入が見込めます」


「固定だけで?」


「はい」


 会社の給料には、まだ少し届かない。


 でも。


 週末だけで。


 ほとんど同じところまで来ている。


「白石さん」


 コレットが俺を見る。


「まだ辞めませんよ」


「言ってないだろ」


「顔に出ています」


「直人の退職衝動発生率、現在三十一・四パーセント」


 シエルまで余計なことを言う。


「そんなにないよ」


「否定時の心拍変動を加味すると――」


「計算しなくていい」


「了解」


 イリスが隣で机へ頬をつけたまま呟く。


「なおと、まだ会社必要」


「イリスまで」


「安定、大事」


「コレットの影響を受けてない?」


「合理的」


 コレットとイリスが小さく頷き合った。


 この二人は意外と相性がいいらしい。


     ◇


 契約を済ませた後。


 俺たちはそのまま、東第七ダンジョンへ向かった。


 今日は深く潜るわけではない。


 目的は。


 六機完全同期後の、最初の中層入口確認。


 同行するのは三枝さんと葛城さん。


 水野さんは入口側で待機する。


「今回は扉を開けて、最初の区画を確認するだけです」


 三枝さんが念を押す。


「異常があれば即撤退」


「分かっています」


「直人さん」


 フィオナが俺の横へ立つ。


「わたしも同じ意見です」


「分かってるって」


「念のためです」


 ラヴィだけが不満そうだった。


「最初の区画だけですか?」


「最初だけです」


 セラが答える。


「敵が出たら?」


「必要なら戦闘許可します」


「やった!」


「喜ばないでください」


     ◇


 資源保管領域。


 そこまでは、もう慣れた。


 問題は。


 そのさらに下へ続く扉。


 以前までは黒く閉ざされていたそこへ。


 イリスが小さな手を向ける。


「六環、接続」


 紫色の光。


 続けて。


 セラ。


 ラヴィ。


 シエル。


 フィオナ。


 コレット。


 五色の光が重なる。


 最後に俺の胸元から、白い光が伸びた。


『六環式魔導補助機構』


『全機同期を確認』


『契約者を確認』


『中層整備区画――開放』


 巨大な扉が。


 ゆっくり左右へ動く。


 その向こうは。


 今までの洞窟とはまるで違っていた。


「……建物だな」


 床は黒い金属。


 壁には等間隔で紫色の光。


 天井も平らで。


 完全に人工物だった。


「魔力反応多数」


 シエルの声が少し低くなる。


「敵?」


 ラヴィがすぐ構える。


「現時点では不明」


 数歩進む。


 俺たちが全員入った瞬間。


 背後の扉が閉じた。


「え」


 三枝さんが振り返る。


「退路が――」


「問題ありません」


 イリスが眠そうに答える。


「入場処理」


「先に言ってくれ」


「今思い出した」


「それ一番困るやつだぞ」


 直後。


 天井から光が降りてきた。


 俺たち全員を順番に照らす。


『第一制御機――認証』


『第二術式機――認証』


『第三解析機――認証』


『第四守護機――認証』


『第五資源機――認証』


『第六中枢機――認証』


 最後。


 光が俺で止まる。


『契約者――認証』


 一秒。


 二秒。


『生体情報照合』


『該当登録なし』


「登録なし?」


 シエルが眉を寄せる。


『管理者権限を検索』


 壁全体に紫色の文字が流れる。


『正規管理者――応答なし』


『中央管理領域――接続拒否』


『非常時規定を適用』


 そして。


 俺の目の前に。


 新しい文字が表示された。


『六環式補助機構の全機稼働を確認』


『契約者を臨時整備責任者として登録します』


「……俺?」


「なおと」


 イリスが俺の袖を引いた。


「責任者」


「聞こえてる」


「偉い」


「何をする責任者なんだ?」


「整備」


「何の?」


 イリスが周囲を見る。


「ここ全部」


「無理だろ」


 俺の即答と同時に。


 施設全体へ赤い警告が灯った。


『臨時整備責任者の登録を確認』


『未処理障害――一万二千四百八十六件』


「一万?」


 ラヴィが目を丸くする。


『緊急度A――三件』


『緊急度B――二十七件』


『緊急度C――百八十一件』


『その他――一万二千二百七十五件』


 俺は黙ってイリスを見る。


「……いっぱい壊れてるって言った」


「いっぱいの桁がおかしい」


「古いから」


「それで済ませるのか」


 そのとき。


 コレットの琥珀色の瞳が。


 警告一覧の一番上で止まった。


「白石さん」


「何?」


「緊急度Aの一件目を見てください」


 表示を拡大する。


『第一資源加工区画』


『自動精製設備――停止』


『保管中資源――劣化進行』


 その下に。


 残存資源量の推定値が出ていた。


 コレットの表情が固まる。


「どうした?」


「……桁を確認しています」


「そんなに多い?」


「はい」


 一度消して。


 もう一度計算する。


 さらにもう一度。


「白石さん」


「うん」


「先ほど、安定収入が大事だと申し上げました」


「ああ」


「その方針は変わりません」


「うん」


「ですが」


 コレットが、珍しく言葉を選んだ。


「この設備を復旧できた場合」


 琥珀色の瞳が強く輝く。


「会社員を続ける意味が、かなり薄くなる可能性があります」


 退職を止め続けていた第五資源機が。


 初めて。


 会社を辞める側へ、ほんの少しだけ傾いた。


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