↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/41

第22話 廃棄予定の一個を、今度はタダではもらえなかった



 処分予定日時。


 明日、午前九時。


「あと十八時間ほどです」


 シエルが淡々と告げる。


 第四保管庫の空中には、六環式補助機構の配置図が浮かんだままだった。


 六つある外部中継核。


 現在、同期済みは四基。


 五基目は初心者用ダンジョンの封鎖区画、そのさらに奥。


 そして六基目は――東都ダンジョン資源開発株式会社の第二廃棄処理センター。


 しかも明日の朝には処分される。


「黒川部長」


 俺が振り返る。


「あの中継核、廃棄を止められますか?」


「待て」


 黒川部長も、まだ状況を飲み込み切れていないらしい。


「まず確認する。第二廃棄処理センターにある物が、本当にこれと同じ物なんだな?」


「信号形式は一致しています」


 シエルが答える。


「誤認率は〇・二パーセント以下です」


「現物を見ないと断定できない?」


「はい」


 技術部の社員が端末を取り出した。


「処理センターの在庫記録を確認します」


 検索。


 数秒後、一件のデータが表示された。


『六角形魔力結晶』


『用途不明』


『魔力反応なし』


『破損品』


『処分区分――古代廃材』


 画像も載っている。


 黒ずんだ六角形の結晶。


 俺にも見覚えがあった。


「これだ」


 セラが静かに頷く。


「外見特徴も一致します」


 黒川部長の表情が険しくなる。


「処理を止めろ」


 技術部の社員がすぐ連絡を入れた。


 だが。


「……駄目です」


「何?」


「既に廃棄業者へ引き渡し処理が登録されています。社内在庫からは除外済みです」


「明日の九時じゃなかったのか?」


「物理処分が九時です。所有権の移転処理は、今日の午後五時で完了しています」


 時計を見る。


 午後五時十四分。


 十四分遅かった。


「つまり、もう会社の物じゃない?」


 俺が尋ねる。


「そういうことになる」


 黒川部長が苦い顔をした。


 主任が口を挟む。


「業者に電話して返させればいいだろ」


「契約上、一度引き渡した物を無償で戻すことはできません」


 技術部の社員が答えた。


「買い戻し扱いになります」


「ゴミだぞ?」


「こちらがゴミとして引き渡したからです」


 何とも皮肉な話だった。


 価値がない。


 そう判断して手放した。


 必要になった瞬間には、もう自分たちの物ではない。


 俺はどこかで、六機を押し付けられたときのことを思い出していた。


「直人様」


 セラが小さく声をかける。


「急ぐ必要はありますが、焦らないでください」


「ああ」


 勝手に取り返すことはできない。


 俺たちは今までずっと、正式な手続きを守ってきた。


 ここでだけ例外にする理由はない。


「買い戻す場合、いくらかかりますか?」


 黒川部長が技術部員へ尋ねる。


「確認します」


 数分後。


「廃材引取契約の解除手数料と、選別済み物品の返却費用を合わせて……一万八千円です」


「一万八千?」


 主任が声を上げる。


「うちが金を払って捨てた物を、今度は一万八千払って戻すのか?」


「契約上は」


「馬鹿馬鹿しい」


 主任の反応は、少し前なら俺も同じだったかもしれない。


 だが。


 今は、その一個が何に必要なのかを知っている。


「会社で買い戻すんですか?」


 俺が黒川部長へ聞く。


 すぐには返事がなかった。


 黒川部長は、机の上で光っている三基の中継核を見る。


「……これは会社の研究資産になるのか?」


「所有者次第です」


 シエルが答えた。


「ただし六環式補助機構の一部として使用する場合、直人との契約網へ接続されます」


「会社単独で使える可能性は?」


「現時点では低いです」


「低いというのは?」


「直人の魔力を供給できないためです」


 黒川部長が黙る。


 会社にとって一万八千円は大金ではない。


 だが買い戻しても、自社だけでは使えない。


 俺には必要。


 その違いが大きい。


 スマートフォンが震えた。


『白石さん』


 コレットだった。


「聞いてた?」


『必要な部分だけ、セラから共有していただきました』


「どう思う?」


『会社に買わせる理由はありません』


 即答だった。


『白石さんが必要とする資産です。こちらで購入しましょう』


「一万八千円するぞ」


『現在の探索専用口座残高で十分支払えます』


「でも元は会社が捨てた物だ」


『それは価格判断の材料にはなりません』


 コレットの声は落ち着いている。


『必要な物を、必要な価格で取得する。それだけです』


 なるほど。


 ざまあのために会社へ無理やり損をさせる必要もない。


 欲しい物なら、自分で買う。


『ただし』


 コレットが続けた。


『廃棄業者との売買契約は、白石さん個人で行ってください』


「会社を通さない?」


『はい。会社が買い戻してから白石さんへ譲渡すると、権利関係がまた複雑になります』


「分かった」


 俺は黒川部長へ向き直った。


「会社で買い戻さなくていいです」


「何?」


「業者を紹介してください。俺が直接買います」


 主任が呆れたように言う。


「一万八千円払って、廃材を?」


「俺には必要なので」


「また壊れた人形のためか」


 その言葉に。


 シエルが主任を見る。


 だが、今回は何も言わなかった。


 代わりに俺が答える。


「はい」


 それだけだった。


     ◇


 廃棄業者への連絡は、意外なほど早く進んだ。


 会社から事情を説明し。


 俺が個人で買い戻したいと申し出る。


 先方も、まだ処理ラインへ載せていない物なので問題ないという。


 ただし。


『現物選別が必要なため、今夜八時までに来られますか?』


 会社から車で一時間半。


 間に合う。


 黒川部長が言った。


「業務時間外になる。今日はもう上がっていい」


「いいんですか?」


「あれを見つけたのは会社だが」


 少し間を置く。


「必要なのは、お前なんだろう」


 以前なら絶対に出なかった言葉だった。


「ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。


     ◇


 第二廃棄処理センターへ着いたのは、午後七時十二分だった。


 セラとシエルも一緒だ。


 倉庫の一角には、古い魔導部品が山のように積まれている。


「この中から選んでもらいます」


 作業員が指さす。


 六角形の結晶だけでも、似たものが十数個あった。


「シエル」


「確認します」


 青緑色の瞳が光る。


 一個。


 二個。


 三個。


「違います」


 四個目。


「違います」


 五個目。


 シエルが止まった。


「これです」


 作業員が、黒ずんだ六角形の結晶を持ち上げる。


「本当にこんなのでいいんですか?」


「はい」


 見た目は。


 本当にただの廃材だった。


 表面は曇り。


 魔力反応もない。


 欠けもある。


 これだけ見て高価な古代設備だと言われても、俺だって信じられない。


「白石さん、購入額はこちらです」


 一万八千円。


 コレットから送られてきた購入チェックリストどおり、契約内容を確認する。


 所有権。


 現状渡し。


 返金不可。


 処分品のため品質保証なし。


 すべて読む。


 そして署名した。


「これで、俺の物ですね」


「はい」


 その瞬間。


 セラが俺を見る。


「直人様。起動試験を行いますか?」


「ここで大丈夫?」


「最小限の供給であれば」


 作業員にも許可を取る。


 周囲を空けてもらい、中継核を床へ置いた。


 俺は十センチほど離して右手をかざす。


「開始します」


 セラの銀白色の毛先が淡く光る。


 胸の奥から魔力が少しだけ抜けた。


 白い光が、中継核へ伸びる。


『契約者魔力を確認』


 作業員が目を見開いた。


「動いた……?」


『外部中継核、再起動』


 黒かった結晶の内部へ。


 青い六角形の光が灯る。


『六環ネットワークへ接続』


『同期数――五/六』


「五つ目」


 残りは、一つ。


 その瞬間。


 スマートフォンが震えた。


第六中枢機イリス


『外部同期率上昇』


『身体修復速度を再計算』


 修復予測。


 九十七日。


 六十一日。


 三十四日。


 十八日。


 そして。


 九日。


「一気に九日まで……」


「身体修復に必要な情報が、ほぼ揃ったためです」


 シエルが答える。


「ですが」


 空中へ、新しい表示が出る。


『覚醒条件――未達成』


『外部中継核――五/六』


 あと一基。


 どれだけ身体が直っても。


 そこだけは変わらない。


「最後は、ダンジョンだな」


「はい」


 セラが頷く。


「封鎖区画のさらに奥です」


 俺は、買ったばかりの中継核を見た。


 一万八千円。


 以前の俺なら。


 壊れた古代部品へ、そんな金を出すなんて考えもしなかっただろう。


 けれど今は違う。


 この一個が。


 眠ったままの少女を目覚めさせるために必要だと知っている。


「帰ろうか」


「はい、直人様」


 イリスの身体修復まで、残り九日。


 そして覚醒までに必要なものは。


 初心者用ダンジョンの奥に残された。


 最後の一基だけになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。