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第21話 最後の一機は、直すだけでは目を覚まさない



 定期納品契約、三週目。


 ダンジョンへ入ってから二時間五十八分。


「白石さん。契約分、すべて確保しました」


 コレットの声を聞いて、俺は壁際へ腰を下ろした。


「ついに三時間切ったな」


「前回の記録から、青灯草の採取経路を十四パーセント短縮できました」


 シエルが空中へ地図を表示する。


 赤や青の細い線が、俺たちの歩いた経路を示していた。


「低級魔石、百個。スライム核、四十個。青灯草、六十株」


 コレットが次元収納の中身を確認する。


「品質不良なし。追加素材を含めた予想利益は、三万七千円前後です」


「これで三週連続か」


「はい。ただし」


「四週目が終わるまで安定収入とは認めない、だろ?」


 俺が先に言うと、コレットが満足そうに笑った。


「よくお分かりです」


「毎週聞いてるからな」


「マスター!」


 少し離れたところから、ラヴィが走ってきた。


「今日、魔法を五発しか撃ってません!」


「必要な魔物が少なかったからな」


「あと五発!」


「訓練場で三発です」


 セラが即答する。


「また三発ですか!?」


「直人様の魔力圧は安定しています。無理に消費する必要はありません」


「でも、わたしの出番が少ないです!」


 ラヴィが頬を膨らませる。


 するとフィオナが、にこやかにラヴィの肩へ手を置いた。


「平和だったということですよ」


「それはいいことですけど……」


「それに、帰り道があります」


「敵、出ますか!?」


「出ない方がいいですよ」


 ラヴィの扱いも、みんな慣れてきた。


     ◇


 協会で納品を済ませた頃。


 俺のスマートフォンへ、会社からメールが届いた。


『古代中継装置三基に関する追加調査依頼』


 差出人は黒川部長。


 以前、第四保管庫でシエルが発見した三基の外部中継核についてだった。


「正式依頼ですね」


 コレットが隣から画面を覗き込む。


「今回は最初から見積もり依頼になっています」


「少し学習したのかな」


「契約を守っていただける取引先は歓迎します」


 以前なら。


 会社から命令されれば、俺は無条件で従っていた。


 今は違う。


 向こうも俺たちへ頼むなら、正式に依頼するようになった。


「内容は?」


 コレットが読み上げる。


「中継核三基の動作確認。古代魔道人形との関連調査。必要機体は第一制御機、第三解析機」


「わたしは?」


 ラヴィが顔を出した。


「記載されていません」


「戦闘は?」


「ありません」


「追加してもらえません?」


「不要な機体を追加すると、先方の費用が増えます」


「戦闘がない仕事って多いですね……」


 世の中の大半はそうだと思う。


「直人様」


 セラがメールを見る。


「中継核を起動する場合、直人様の魔力が必要になります」


「俺も参加か」


「はい」


 コレットが契約書案を開く。


「白石さん自身は会社員として勤務時間内の業務。セラとシエルについては外部機材使用料として別契約。この形なら問題ありません」


「ややこしいな」


「お金と契約は、ややこしくなる前に整理するものです」


 コレットらしい答えだった。


     ◇


 二日後。


 俺とセラ、シエルは第四保管庫へ来ていた。


 机の上には、黒ずんだ六角形の結晶が三基。


 以前、廃棄予定品として積まれていた物だ。


 技術部からも数人が立ち会っている。


「まず、一基ずつ確認します」


 シエルが一つ目へ近づいた。


 青緑色の瞳に細かな数値が流れる。


「本体損傷率、十九・二パーセント。起動可能」


 二つ目。


「二十八・六パーセント。起動可能」


 三つ目。


「四十一・一パーセント。安定性に問題がありますが、短時間なら使用できます」


 黒川部長が尋ねる。


「三つとも使えるのか?」


「はい。ただし、現代魔力では起動しません」


 視線が俺へ向く。


「直人の魔力が必要です」


「白石の?」


 技術部の社員が驚く。


「魔力値一だろ?」


「その認識は不正確です」


 シエルが即座に訂正した。


「直人の体内魔力は、現代測定規格では算出不能です」


「でも会社の検査では……」


「一と表示されます」


「なら一じゃないのか?」


「外部へ漏出している量だけを測定しています」


 技術部の社員たちが顔を見合わせた。


 黒川部長は何も言わない。


「始めます」


 セラが俺の横へ立つ。


「直人様。右手を中継核から十センチ離した位置へ」


「ああ」


「直接触れないでください」


 胸の奥から魔力が引き出される。


 以前なら、ただ重いだけだった感覚。


 今では、セラがどこまで引き出しているのか少し分かるようになっていた。


 銀白色の髪の毛先が淡青色に光る。


「減圧開始」


 俺の右手から細い白光が伸びる。


 一基目の中継核へ触れた。


『契約者魔力を確認』


 保管庫に、古い機械音声が響く。


『六環式補助機構――外部中継核』


『再起動します』


 黒かった結晶の内部へ、青い光が灯った。


「起動した……」


 技術部の社員が息を呑む。


 二基目。


 三基目。


 三つの中継核が順番に光り始める。


『外部中継核、同期開始』


『接続済み中継核――四』


「四?」


 黒川部長が尋ねる。


「ここには三つしかないぞ」


「直人の自宅に一基あります」


 シエルが答える。


 会社の廃棄箱から無償譲渡された、最初の一基だ。


『六環ネットワークを再構築』


 突然。


 三つの中継核の間に、白い線が走った。


 空中へ巨大な六角形の図が浮かぶ。


「シエル?」


「情報を受信しています」


 シエルの瞳が強く光った。


「これは、六機の補助設備配置図です」


 六角形の頂点に、六つの小さな光。


 そのうち四つが青く点灯している。


 残る二つは、暗い。


『外部中継核』


『同期数――四/六』


 そして。


『第六中枢機、身体修復進行中』


『覚醒条件を確認』


 俺の呼吸が止まりかけた。


「イリス……」


 自宅で眠っている、最後の一機。


 黒髪で、六機の中では最も小さな少女。


 修復予測は、既に百日を切りかけている。


『身体修復のみでは覚醒不能』


「どういうことだ?」


 セラの表情が変わった。


「中枢機は、六環全体の同期を担当します」


『覚醒条件』


『第一制御機――稼働』


『第二術式機――稼働』


『第三解析機――稼働』


『第四守護機――稼働』


『第五資源機――稼働』


『契約者――確認』


 すべて青く点灯する。


 最後に。


『外部中継核――四/六』


 そこだけが赤かった。


「あと二基必要なのか」


「そのようです」


 シエルが図を解析する。


「身体が修復されても、中継網が完成しなければイリスは完全起動できません」


 今まで減り続けていた修復予測は。


 目覚めるまでの時間ではなかった。


 身体が直るまでの時間だったらしい。


「残り二基の場所は分かる?」


「照会します」


 四基の中継核から、白い波紋が広がる。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


『未同期中継核を検索』


 一つ目が反応した。


『信号確認』


 地図が表示される。


 場所は。


 初心者用ダンジョン。


 俺たちが発見した封鎖区画の、さらに奥。


「一個はダンジョンか」


「はい」


「もう一個は?」


 検索が続く。


 長い沈黙。


 そして。


『信号確認』


 表示された所在地を見て。


 俺だけではなく、黒川部長まで固まった。


「……うちじゃないか」


 場所は東都ダンジョン資源開発株式会社。


 ただし本社ではない。


『東都ダンジョン資源開発株式会社』


『第二廃棄処理センター』


 その下に、管理情報が表示された。


『処分予定日時――明日 午前九時』


 セラが俺を見る。


「直人様」


「ああ」


 嫌な予感がした。


「最後の二基のうち一つが」


 シエルが淡々と事実を告げる。


「明日の朝、廃棄処理されます」


 会社が価値なしとして捨てようとしている物の中に。


 最後の一機を目覚めさせるために必要な部品が。


 また一つ、混じっていた。


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