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第20話 産廃扱いした解析機に、会社は頭を下げた



 翌日の午後。


 第三解析機シエルは、俺と一緒に会社の第四保管庫へ来ていた。


「直人」


「どうした?」


「入室前に確認します」


 シエルが青緑色の瞳を細める。


「本日の契約時間は三時間。業務内容は、未鑑定古代遺物の分類および簡易解析」


「ああ」


「契約外の分解、修理、内部情報の抽出は行いません」


「コレットにも三回くらい言われた」


「適切です」


 さらにシエルは俺を見る。


「直人も無償で追加作業を引き受けてはいけません」


「俺まで?」


「過去の行動履歴から、必要な注意です」


「信用ないな」


「改善傾向は確認しています」


 褒められているのか分からなかった。


 第四保管庫の前では、黒川部長と資材管理部の主任。


 さらに技術部から二人の社員が待っていた。


「来たか、白石」


 黒川部長の視線がシエルへ向く。


「こちらが第三解析機か」


「はい」


第三解析機シエルです。本日は契約内容の範囲内で対応します」


 小柄な少女が淡々と頭を下げる。


 主任はまだ納得していない顔だった。


「本当にこんな子供みたいな人形が鑑定できるのか?」


 シエルの瞳に細い数字が浮かんだ。


「発言者の魔力値、八百七十一」


「は?」


「右膝に軽度の軟骨摩耗。睡眠時間、直近一週間平均五時間二十一分。左奥歯に初期虫歯があります」


「ちょ、ちょっと待て」


「追加で確認しますか?」


「いや、いい!」


 主任が口元を押さえる。


「シエル」


「能力実演として最低限の解析を行いました」


「歯まで見る必要あった?」


「解析可能範囲の提示です」


 黒川部長が咳払いする。


「……とにかく始めてくれ」


     ◇


 第四保管庫には、古びたケースが百個近く積まれていた。


 ダンジョンから回収されたものの、用途不明として放置されていた古代品らしい。


「今まで誰も鑑定できなかったんですか?」


 俺が聞くと、技術部の社員が頷いた。


「現代の魔力を流しても反応しない物が多いんです。材質すら分からない物もあります」


「処分予定だった」


 主任が付け加える。


「保管場所が足りなくなってきたからな」


 その言葉に。


 シエルが一度だけ主任を見た。


「解析を開始します」


 一つ目。


 黒い円盤。


「古代式温度制御板。損傷率十二パーセント。再利用可能」


 二つ目。


 細長い銀色の棒。


「魔力経路検査器具。現代規格への変換が必要ですが使用可能」


 三つ目。


 砕けた青い結晶。


「廃棄推奨。内部術式が完全消失しています」


 シエルは迷わない。


 見る。


 答える。


 次。


「ちょっと待ってくれ」


 技術部の社員が慌てて端末へ入力する。


「解析が速すぎる」


「処理速度を低下させますか?」


「いや、そのままでいい。こっちが追いつく」


 三十分後。


 十九点の解析が終わった。


 廃棄可能、七点。


 修復可能、五点。


 現代技術へ転用できる設備、六点。


 用途不明、一点。


「用途不明があるのか?」


 俺が尋ねる。


 シエルが視線を向けたのは、拳ほどの六角形の金属塊だった。


「情報不足です」


「珍しいな」


「万能ではありません」


 シエルは当然のように答える。


「ただし」


 青緑色の瞳へ、複雑な魔法陣が浮かぶ。


「《六環式魔導補助機構》と同一文明の製造物です」


 室内が静かになった。


「六機と同じ?」


「はい」


 黒川部長が身を乗り出す。


「価値は?」


「不明です」


「高価なのか?」


「価値の算定には、用途の特定が必要です」


「何とか調べられないか?」


「可能性はあります」


 シエルが俺を見た。


「ただし、追加作業です」


 俺は黙った。


 主任も黒川部長も、何も言わない。


 数秒後。


 主任が口を開いた。


「少しくらい見てくれても――」


「契約外です」


 シエルが即答した。


「追加解析を希望する場合、第五資源機へ見積もりを依頼してください」


「お前たちはいちいち金を取るのか?」


「業務ですので」


 正論だった。


 主任が俺を見る。


「白石、お前から頼めばいいだろ」


「俺から頼んでも仕事は仕事ですよ」


「持ち主だろ?」


「持ち主だからこそ、勝手に使わないようにしています」


 昨日なら少し言いづらかった。


 今日は普通に言えた。


 主任は不満そうだったが、黒川部長が止めた。


「後で正式に依頼する」


「承知しました」


 シエルは次のケースへ視線を移した。


     ◇


 二時間が過ぎた頃。


 保管庫の空気が変わった。


 最初は半信半疑だった技術部の二人が、今ではシエルの後ろを必死に付いて歩いている。


「これは?」


「古代式の魔力濾過器です」


「これは?」


「倉庫環境調整用の補助核」


「こっちは?」


「壊れた照明です」


「普通の照明もあるのか……」


「古代人も暗い場所では照明を使用します」


「そりゃそうか」


 そして。


 シエルが、一つの小さな箱の前で止まった。


「直人」


「何かあった?」


「これを以前、見たことがあります」


 箱を開く。


 中には、黒ずんだ六角形の結晶が三つ並んでいた。


 俺にも見覚えがある。


「外部中継核?」


「同型です」


 俺の部屋で使っている物と同じ。


 会社の廃棄箱から見つけ、正式に無償譲渡された古代設備。


「これも処分予定だったんですか?」


 俺が主任を見る。


「ああ。魔力が入っていない石だと聞いていた」


 シエルが訂正する。


「魔力がないのではありません」


 青緑色の瞳が細く光る。


「現在は停止しているだけです」


 黒川部長が聞く。


「起動できるのか?」


「直人の魔力と第一制御機があれば可能です」


「なら――」


「契約外です」


 また先に言われた。


 シエルは容赦がない。


「しかし、これらは廃棄しないことを推奨します」


「価値がある?」


「少なくとも、わたしたち六機の運用補助設備です」


 三個。


 俺の家にある物を含めれば四個。


 六機一組で使うなら、まだ他にも存在するのかもしれない。


「どうして今まで見つからなかったんだ」


 黒川部長の問いに。


 シエルは静かに答えた。


「見つかっていました」


「何?」


「価値がないと判断されていただけです」


 誰も言葉を返せなかった。


 俺も。


 六機も。


 この中継核も。


 見つかっていなかったわけじゃない。


 価値が見えていなかっただけだった。


     ◇


 三時間後。


「契約時間を終了しました」


 シエルが告げた。


 解析した古代品は、八十七点。


 そのうち。


 再利用可能、三十二点。


 修復可能、二十一点。


 研究価値あり、十九点。


 完全廃棄推奨、十五点。


 処分予定だった物の大半に、何らかの価値が残っていた。


 技術部の社員が呆然と一覧を見る。


「これだけあれば、研究案件がいくつ増えるんだ……」


「少なくとも十一件は新規研究へ転用可能です」


 シエルが補足する。


「残りは既存設備の効率改善へ使用できます」


 黒川部長が俺を見る。


「白石」


「はい」


「今後もシエルを借りたい」


 今度は「使わせろ」ではなかった。


「正式な依頼ですか?」


「ああ」


「なら、コレットへ相談します」


 黒川部長は少し苦い顔をしたが、頷いた。


「見積もりを出してくれ」


「分かりました」


 会議室を出る直前。


 主任が小さな声で言った。


「本当に、こんなのが産廃だったのかよ……」


 シエルが立ち止まる。


「訂正します」


 主任を見る。


「わたしたちは、産廃だったのではありません」


 淡々と。


 いつものシエルの声だった。


「御社が、価値を判定できなかっただけです」


 主任は何も言えなかった。


     ◇


 帰宅すると、コレットが玄関で待っていた。


「お帰りなさい、白石さん」


「ただいま」


「本日の機体使用料、二万四千円。入金を確認しました」


「もう入ったのか」


「はい」


 コレットが空中へ数字を表示する。


 探索収入。


 定期納品。


 調査報酬。


 そして今日から、新しく追加された項目。


『古代魔道人形 業務委託収入』


「これも安定収入に入る?」


「継続契約になれば、候補になります」


「会社から給料をもらって、会社からシエルの使用料ももらうのか」


「はい」


 コレットがにっこり笑う。


「白石さんを安く評価した会社から、正当な対価をいただくことに問題がありますか?」


「いや」


 俺も笑った。


「まったくないな」


「では、次回から少し値上げを検討します」


「いきなり?」


「初回価格でしたので」


 横でラヴィが手を挙げた。


「わたしの仕事も取ってきてください!」


「社屋内で攻撃魔法を使わない仕事なら検討します」


「そんな仕事あります!?」


「警備や護衛があります」


「それならできます!」


 少しずつ。


 探索以外の仕事まで増え始めていた。


 そして、その夜。


 第六中枢機イリスの修復予測を確認すると。


 二百五十八日。


 百九十一日。


 百二十二日。


 数字が、今までにない速度で減っていた。


「何があった?」


 シエルが表示を解析する。


「外部中継核三基の所在情報を取得したことで、六環同期情報が補完されています」


「持って帰ってなくても?」


「存在位置が判明しただけでも、中枢機の欠損情報を再構成できます」


 最後の一機。


 まだ遠いと思っていた覚醒が。


 いつの間にか。


 百日を切ろうとしていた。


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