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第11話 第三解析機は、見えない罠を全部見つける



 翌朝。


 俺たちは探索者協会の受付に、第三解析機シエルの追加登録を申請していた。


「また古代魔道人形ですか?」


 前回と同じ受付職員が、俺の後ろに立つ三人を見比べる。


 銀白色の髪を持つセラ。


 緋赤色のポニーテールを揺らすラヴィ。


 そして、淡い氷青色の髪をしたシエル。


「六機まとめて譲渡されたので」


「残り三機も動き出す予定ですか?」


「修復が進めば、たぶん」


「会社から故障品として買わされたんですよね?」


「今も給料から引かれています」


 受付職員は、何とも言えない表情で端末へ視線を戻した。


第三解析機シエル。用途は鑑定、索敵、罠探知、地図生成……ずいぶん多機能ですね」


「記載内容は基本機能の一部です」


 シエルが淡々と答える。


「詳細をすべて入力した場合、現在の登録様式では三十七項目不足します」


「基本機能だけで結構です」


「合理的です」


 シエルの胸元へ簡易測定器が向けられる。


『解析能力、測定不能』


『規格不一致』


「やっぱり測れませんね」


「機器の故障ではありません」


「分かっています。もう驚かないことにしました」


 受付職員は、古代遺物用の仮登録項目へ情報を入力した。


 その途中で、シエルが机の端を見つめる。


「右側の固定金具が緩んでいます」


「え?」


「現在の荷重を継続した場合、四日以内に外れる可能性は六十八・二パーセントです」


 職員が机の下を確認する。


 本当に一本だけ、金具が浮いていた。


「ありがとうございます。後で修理を頼みます」


「後ではなく、早期の対応を推奨します」


「今日中に頼みます」


「適切です」


 登録作業は問題なく終了した。


 俺の仮探索者証には、新たに第三解析機シエルの名前が追加される。


「これで、第二階層の臨時調査依頼へ参加できますか?」


「能力条件は満たしました。ただし、白石さんは登録したばかりの仮探索者です」


 職員は依頼情報を開いた。


「本来なら第二階層への立ち入りは、初心者講習を終えてからです。今回は協会職員が同行することを条件に、特別参加が認められます」


「同行者がいるなら、その方が安心です」


「報酬は最低三万円。異常の原因特定や設備の発見があれば、追加報酬が出ます」


 俺は参加申請を送信した。


 六機の月々の天引き額と同じ、三万円。


 金額だけでも魅力的だ。


 だが今は、封鎖区画から届いている救難信号の方が気になっていた。


「出発は一時間後です。装備を整えて、地下入口へ集合してください」


「分かりました」


 受付を離れたところで、ラヴィが俺の袖を引く。


「マスター。調査中に魔物が出たら、撃っていいんですよね?」


「必要ならな」


「必要かどうかは、わたしが判断しても?」


「セラと相談してくれ」


「第一制御機の許可なく、攻撃魔法を使用してはいけません」


 セラが先に答えた。


「では、出た瞬間に許可を取ります!」


「敵の種類と周辺状況を確認してからです」


「その確認はシエルが一秒でできます!」


 二人の視線がシエルへ向く。


「平均〇・四秒です」


「もっと早かったです!」


「対象により変動します」


「そういうところで張り合わなくていい」


     ◇


 一時間後。


 俺たちは協会職員の三枝さんと一緒に、初心者用ダンジョンへ入った。


 三枝さんは三十歳くらいの男性探索者で、協会の調査部門に所属している。


 腰には片手剣。


 左腕には小型の盾。


 探索者等級はC級らしい。


「今回は戦闘ではなく調査が目的です。異常を感じた場合、すぐに撤退してください」


「はい」


「魔道人形三機の能力は報告書で確認しました。ただし、古代機の判断だけに頼らないように」


「判断精度について訂正が必要です」


 シエルが口を開いた。


「わたしの罠解析失敗率は、現在〇・〇〇三パーセント以下です」


「シエル」


「直人。事実です」


「三枝さんは、頼りすぎないようにって言ってるんだ」


「理解しました」


 シエルは三枝さんを見る。


「わたしの判断を参考にしつつ、ご自身でも注意してください」


「……そうしてもらえると助かります」


 三枝さんが少し疲れたように答えた。


 第一階層の通路を進み、前回青灯草を採取した脇道へ入る。


 途中で二体の角兎に遭遇した。


「敵性反応、二。角兎。脅威度、低」


 シエルの報告とほぼ同時に、ラヴィが右手を上げる。


「セラ、撃っていいですか?」


「一発のみ許可します」


「二体います!」


「一発で処理してください」


「任せてください!」


 胸の奥から魔力が引き出される。


 俺の右手に白い火球が生まれた。


「マスター。二体の間を狙ってください!」


 火球を放つ。


 白い光は角兎の手前で二つに分かれ、それぞれへ命中した。


 二体の魔物が同時に光の粒子へ変わる。


「二分割術式、成功です!」


 ラヴィが得意そうに振り返る。


「一発で二体です。効率が二倍ですよ!」


「使用魔力量は通常の一・三倍です」


 シエルが補足する。


「それでも二発より少ないです!」


「その点は正しいです」


「もっと褒めてください!」


「命中精度は良好でした」


「シエルが褒めてくれました!」


 ラヴィが嬉しそうに俺へ報告してきた。


 三枝さんは、消えた角兎と俺の右手を交互に見る。


「本当に初級火球なんですよね?」


「威力は規定範囲です」


 セラが答える。


「外見が白熱しているだけです」


「その説明で安心していいのか迷いますね」


 俺も同感だった。


     ◇


 前回見つけた行き止まりへ到着する。


 黒灰色の板は、以前と同じ場所に埋まっていた。


 三枝さんが携帯型測定器を向ける。


「微弱な魔力反応はあります。ただ、協会の機器では用途まで分かりません」


「扉です」


 シエルが黒灰色の板へ近づく。


「周囲の岩壁は偽装されています。実際の開口部は、高さ三・二メートル、幅二・八メートル」


「そんな大きな扉が?」


「映像を投影します」


 シエルの青緑色の瞳に魔法陣が浮かぶ。


 空中へ、岩壁の内部構造が青い線で表示された。


 黒灰色の板を中心に、巨大な六角形の扉が描き出される。


「本当に人工設備だ……」


 三枝さんが息を呑む。


「開けられるか?」


 俺が尋ねる。


「可能です。ただし、扉の手前に罠があります」


「罠?」


 三枝さんが足元を見る。


 何もない岩の床にしか見えない。


「前方一・七メートル。床面下に魔力吸収式の拘束術式があります」


 シエルが細い指を向ける。


 空中映像に、赤い範囲が表示された。


「踏んだ場合、対象の魔力を吸収して扉の前へ固定します」


「解除できるか?」


「可能です」


 シエルが一歩進もうとした。


「待て」


 俺は小さな肩をつかむ。


「長時間稼働はまだ駄目なんだろ。ここからできないのか?」


「解除位置まで近づく必要があります」


「危なくないのか?」


「わたしは罠を認識しています。失敗率は低いです」


「低くても、ゼロじゃない」


 シエルの瞳に流れていた数値が止まった。


「俺が一緒に行く。踏んでいい場所を教えてくれ」


「直人が接近した場合、設備が魔力へ反応する可能性があります」


「なら、途中までだ」


 シエルは数秒間、俺の顔を見つめた。


「提案を受諾します」


 一歩目は右。


 二歩目は斜め前。


 シエルの指示どおり、赤く表示された範囲を避けて進む。


 途中で彼女が立ち止まった。


「直人は、ここまでです」


「シエルは?」


「あと三歩です」


「終わったら、すぐ戻ってこい」


「了解しました」


 シエルは小さな身体を滑らせるように進んだ。


 罠の端にしゃがみ込み、床へ指先を当てる。


 青緑色の細い線が、石の隙間へ広がった。


「術式構造を解析」


 一秒。


 二秒。


 三秒。


「解除完了」


 床の下から、何かが砕けるような音がした。


 空中に表示されていた赤い範囲が消える。


「早いな」


「専門機能です」


 シエルが立ち上がる。


 振り返った瞬間、すぐ横にあった低い岩棚へ額をぶつけた。


 ごん、と音が響く。


「シエル!?」


「問題ありません」


「罠は見つけたのに、岩にはぶつかるんだな」


「岩棚は敵性設備ではありません」


「痛いものは痛いだろ」


 俺が額を確認すると、薄く赤くなっていた。


 シエルは抵抗せず、こちらを見上げている。


「軽微な損傷です」


「帰ったら冷やそう」


「治癒を行う第四守護機は未起動です」


「普通に冷たいタオルでいい」


「原始的ですが、有効です」


 後ろからセラの声が聞こえた。


「シエル。直人様との接触時間が、必要以上に長くありませんか?」


「額の確認に必要な時間です」


「既に確認は終了しています」


「第一制御機の独占欲が、平常時より十五・一パーセント上昇」


「解析を停止しなさい」


 セラの頭頂部に、一本だけ髪が立った。


 三枝さんが小声で俺へ尋ねる。


「いつもこんな感じなんですか?」


「三機になってからは、大体こんな感じです」


     ◇


 罠を解除したシエルが、黒灰色の板へ手を触れる。


『第三解析機、認証』


 古い音声が響いた。


『接続機数、三』


『契約者信号を確認』


 六角形の溝へ、青白い光が走る。


 岩壁だと思っていた部分が細かく震え、中央から左右へ開いていった。


 その先にあったのは、暗い下り階段だった。


 階段の奥から、冷たい空気が流れてくる。


「第二階層へ続いているのか?」


「違います」


 シエルが暗闇を見つめる。


「通常の第二階層ではありません。地図上に存在しない封鎖区画です」


 空中へ新しい地図が表示される。


 協会が管理する第一階層と第二階層の間。


 そこに、細長い未知の空間が浮かび上がった。


「救難信号は、この最奥から発信されています」


 三枝さんが剣の柄へ手を置く。


「ここから先は、協会の正式調査区域に指定します。危険度が分からない以上、今日は入口の確認までです」


「戻るんですか?」


 ラヴィが残念そうに尋ねる。


「当然です。準備なしで未知の区画へ入ることはできません」


「正しい判断です」


 セラが頷いた。


 シエルも反対しなかった。


 俺は暗い階段の先を見る。


 何かが動く音はない。


 魔物の気配も感じない。


 それでも奥から、微かな信号が繰り返し届いている。


『六環式魔導補助機構』


『第四守護機、応答なし』


『生命維持機能、停止中』


 その文字を見た瞬間。


 自宅で眠っている、蜂蜜色の髪をした四号機の輸送容器から通知が届いた。


第四守護機フィオナ


『関連設備から緊急情報を受信』


『自己修復速度が上昇しました』


 修復予測、四十一日。


 その数字が、二十六日まで減少していく。


 封鎖区画の奥にあるものは。


 次に目覚めるフィオナと、深く関係しているらしかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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