21:// After Golden Dawn Daybreak
「これ絶対セフィロト談義が続くやつだよね。」
「この時期って何もしてないからな。」
「早くターン譲ってもいいのよ。」
唯がアストラル界に行けるようになったのはもう一年近く前のことだが、インターネットを使えるようになったのはつい最近のことだった。〈母親〉が何を思ったのか、その真意は分からないが、Wikipediaのようなものから有害思想に染まることを恐れたのかもしれない。
しかし、肩書だけで実態が伴っていないとはいえ唯も高校生になったからか、必要だから貸してほしいと申請すればしぶしぶ貸してくれる程度には信用を積み上げたらしい。
「今は使ってないんだからいいでしょ。」
「また調べもの? 何をそんなに調べることがあるのよ。」
「いいじゃん今まで全然使ってこなかったんだし。」
〈母親〉が本当に唯を抑圧したいときはもっと頭ごなしにキレてくるか、唯が期待外れな欠陥品であることを嘆いてみせるか、そもそも唯が触れられないように自分が使うと相場が決まっている。つまり、多少嫌がっているくらいの場合は実質的に許可ということだ。
「サンキュ。じゃあ借りるね。」
唯は都合よく解釈するとその手を伸ばしてタブレット端末を掴んで引き寄せ、充電器から切り離すと、いつものようにカバラ神秘思想や魔術について調べ始めた。情報産業はアストラル界に移っていったが、正確性や不変性を求められるものたちはネットの海に留まっている。本当に神になりたいのなら、退屈ではあるがこちらでも情報を集めるべきだろう。
*
エヴァを見た時の感動から始まった魔術の研究は七日が経つごとに姿形を変え、本来エヴァが採用していたユダヤ教、キリスト教的世界観からは少しずつ離れていき、唯は徐々に近代西洋儀式魔術の領域へと足を踏み入れ始めていた。
「やっぱりもう一回宇宙論からやり直そうかなって思うんだけど。」
「どうした? 魔術は飽きたのか?」
数ヶ月が経ってもなお神になるという目標は忘れ去られることはなく、オカルトやサブカルチャーなどの多くのジャンルを行ったり来たりしながら、唯の中には着実に何かが積み上がっていた。もちろん、積み上がったからと言って何か目に見える変化があったわけではない。
「いや。なんか世界と人間は繋がってて、セフィロトはそれを繋ぐものなんだとか。だから人間を見れば世界の真理が見えてくるし、世界を見れば人間の真理が見えてくるってことなんでしょ。知らんけど。」
「セカイ系の魔術ってことか?」
「せかいけい?」
「エヴァの後に出てきたアニメとかのこと。今唯が言ったみたいに、主人公の感情とか行動が世界とか宇宙の状態にまで干渉するようなやつ。有名どころだとハルヒとかな。」
ハルヒというものもエヴァ同様に名前しか知らないが、エヴァの後継作品がそのような特性を持っていることが分かれば今は十分だ。
唯のマイブームである魔術体系では、宇宙と人間、マクロコスモスとミクロコスモスは対応しているとされている。対応しているということは、一方に変化があればもう一方も変化するということ。つまり、唯自身が何らかの変化をすれば、世界もそれに合わせて最適化されるということだ。
自らの意志によって世界を最適化できる存在。それは神と言ってしまっても過言ではない。
(そっか。そういうことか……)
「どうかしたか?」
「……いや。神ってのがどこにいるか分かったような気がしてさ。」
今までは地平線のずっと向こう側にぼんやりと浮かんでいたものが、急に実体を持って近づいてきたような気がする。
*
世界理解と自己理解の果てに神が存在するということが分かったので、唯の魔術研究には宇宙論と心理学が加わった。宇宙論といっても物理学の範疇ではなく、どちらかというと哲学に近い部分。思考実験が趣味な唯にとってはまさに、趣味と実益を兼ねたテーマと言える。
心理学を熱心に勉強しているところは魔術というよりもエヴァの影響だろう。エヴァの専門用語は神学以外にも生物学や心理学から取られたものが多くあり、脳裏に住み着いたそれらの言葉は唯を自分たちの故郷たる思想へと導いた。
「心理学か。誰のがいい?」
「とりあえずフロイトかな?」
宇宙論はともかく、心理学に関してなら唯は他人よりも有利な立場にあった。協力的な専門家が目の前にいるのだ。先生が実際に専門としているのはどのジャンルなのかは分からないし、聞いたところで分からないままだとは思うが、少なくとも何も知らない高校の教師たちよりかは遥かに役に立つ。
元々はカウンセラーや精神科医のような存在として雇われたはずの先生は、いつしか家庭教師のような意味合いでの「先生」になっていた。学校の教職員に対して「先生」という敬称を使用することを頑なに拒否していた唯がそう呼んだのは果たして何人目だろうか。
「ほらA.T.フィールドってリビドーが物質化したものじゃん。あの辺をよろぴく。」
「はいよ。」
指導者の話を真面目に聞いてメモを取り、理解を深めるために質問をして。高校の授業では決して取ることのない態度で、唯は先生の解説を聞いていた。役に立つという確信はスポンジのように知識を吸い上げてくれる。
やはり、勉強とは必要になったときに始めるのが一番効率がいい。理解できないというのは、才能の不足である以前に意欲の不足なのだ。
*
黄金の夜明けヘルメス教団が開発した魔術理論が古今東西のオカルトの総体としてあらゆる知識を習合させたように、唯もまた自分の知る限りの魔術や科学の法を一つの理論に統合しようと試みていた。魔術を愛する者にはそういった共通点があるのかもしれない。
「なるほどねぇ。なんかエヴァの方を先に知ってるから違和感あるわ。」
先生の話は概ね、エヴァの世界観を曲解すれば辿りつけそうなものではあったが、その若干の違いというのがどうしても気になって仕方がない。アイデアこそあるがオリジナリティが皆無な唯にとっては、物語のために史実を一部改変するというのは気持ち悪い行為であり、それが祟ってか、完全に現実と同じに揃えるか、いっそのこと全部変えてしまうかの二択にしてしまいたくなる病に冒されていた。
「まあそう言うもんだよ。人ってやっぱり最初に見たものでイメージ固まるからな。」
「……ふん。ああそうだな。だから第一征服者みたいなバカで無能でどうしようもなく性格が終わってる奴が信用されんだよな。ったく、そっちだっておかしいと思うだろ? あいつら私の話なんてこれっぽっちも聞かねえで、あんなバカの言う話のどこが信じられるってんだよまったく……」
嫌な記憶を思い出した唯は暴発したガトリング砲のように怒りの言葉を部屋中に乱射し、おなじみの不満を撃ち尽くすと、水をかけられたようにすっと元の姿に戻った。
「……すっきりしたか?」
「まあまあかな。で、今の話聞いてちょっと思ったんだけどさ、リビドーが現状維持のための体制派エネルギーで、デストルドーは反体制的なエネルギーって解釈どう?」
唯自身、その詳細はまだきちんと言語化できていなかったが、とりあえず思いついたので言ってみる。むしろ唯の思い付きに科学的な根拠を与えて正当な理論にするのは先生の担当だ。
「そんな解釈聞いたことねえわ。」
「じゃあ私のオリジナル理論ってことで。」
エヴァは魔術というよりも哲学的な示唆を含むものが多かった。魔術ブーム前の唯はそこを気に入っていたので、魔術の研究が終わって飽きたら次は哲学に没頭するのだろう。
*
洋館は先生と話し合う時間。しかし、家に帰った唯が〈母親〉と話し合うことは一切なかった。先生以外の人間には唯の話は理解できなかったからだ。
人はIQ差が一定以上あると会話が成立しなくなるという。唯のIQが数値にしてどの程度かは分からないものの、ほとんどの人間と一ヶ月しか会話が続かなかったということは平均以上はあるのだろう。同じ民族である〈母親〉とも会話があまり通じないのは悲しいことだが、それが唯の天才性を証明してくれると思うと、少しだけ心が軽くなった。
だからこそ、唯は家では黙々とアイデアを降ろしてメモ帳や落書き帳に書き続け、それがどのくらい正しいかを自分で検証するという時間に充てるしかなかった。
(……魔術結社ねぇ……)
唯が最近気に入っていたのは、近代西洋、とくにヴィクトリア朝時代のイギリスで発展したヘルメティックカバラだった。それがエヴァで描かれたユダヤカバラとは大きくかけ離れたものであることは気づいていたはずだが、唯はその神秘的な何かに強く惹かれていた。
それが何だったのか、今となっては運命としか呼ぶことができそうにない。それくらい理由の分からない、ある種の理不尽さと不条理を感じさせてくれる魅力がある魔術だった。
*
何かに導かれるようにしてG.D.に勝手に加盟した唯は、ネット上にわずかに残された文献から百数十年も前のロンドンに入り浸るようになっていた。本来こういったことはアストラル界でやった方がいいはずだが、単純な知識としての情報ならネットの方が充実していることはよくある。
「いつまで調べものしてる気? そろそろご飯作るんだけど。」
「んー、まだ全然途中なのに……」
唯が魔術研究の一助になりそうな資料はないかとネットの海を泳いでいると、陸地にいる〈母親〉から呼び出しがかかった。ゲームと違って調べものの時間は決まっておらず、その気になれば何時間でもネットサーフィンをしていられる。ただ、規則がないということは同時に、〈母親〉の気まぐれでいつでも取り上げられるという意味でもあった。
もしも〈母親〉がこれらの記事を見てはいけないものと判断すれば、もう唯にネット環境を貸し出すことはないに決まっている。よって、唯は毎回検索履歴を消してからタブレットを返還していた。
「はい。これでいい?」
「じゃあきなちゃんのごはん出したら作るから、レポートでもやって待ってなさい。」
「もう終わってるよ。全部。」
唯は宣言通り一週間でレポートを終わらせてすでに提出済みだったので、家でやることはあまりない。もっと時間があればアストラル界に行って何かを見てくるところだが、じきに食事が出てくるならキリが悪いところでまた呼び戻されることになる。
(まあ片付けでもするか……)
テーブルの上に広がった紙を一枚ずつ読み返しながら、自分の世界像に活かせそうなものを探していく。
まだ影も形もない、唯だけの理論。完成すれば唯は神となる。神になることが実際にどういうことかは分からないが、きっとその人生を変えてくれるはずだ。この鬱屈とした人生を。
*
それくらいしかやることがなかったというのもあって、唯は家でも熱心に魔術の研究を続けていた。むしろ、先生と一緒にいると色々なゲームで遊んでしまうので、アイデアを出すだけなら家で一人で黙々とやっていたほうが効率がいい時さえあった。
唯は自分のことをG.D.の構成員だと認識していたので、その理論を勉強するだけではなく、彼らが行っていた儀式魔術の実践にも当然興味があった。エヴァから読み取れた神への道のヒントはそう多くなかったので、ほんの少しでも可能性があることなら何でもいいから縋りつきたかったのだろう。
しかし、唯がどれだけネット上に転がっている記事を調べても、その需要に完全に合った儀式、神の許へとたどり着くための儀式はほとんど見つけられなかった。
儀式の手順が抜けていたり、魔法陣の図案が諸説あったり、書いていなかったり、逆に厳しすぎる条件が書かれているものだったり。さほど重要でもなさそうなものの儀式手順は見つかったが、その神髄に近づいていそうなものほどどこか情報が足りないという感が否めなかった。G.D.は秘密結社だったので、現代まで完全な形で残っている記録はないのかもしれない。
引き続き調べものをしていると、団員の規則のようなものを取り上げた記事が見つかった。百年も前の規則とはいえ、当時の団員に課せられたものなら従う必要があるだろう。
唯が中指でページをスクロールしていると、秘密結社らしい文言の中にこういうものがあった。
『個人的な復讐など、俗世の欲に基づく低俗な目的で魔術を使ってはならない』
「……は? じゃあ何のために魔術使うんだよ。」
何たることだ。どうやら唯のような心の持ち主は魔術を使ってはならないらしい。善人からすれば真っ当な規則だというのかもしれないが、復讐に身を捧げた唯にとっては都合の悪いことこの上ない規則だ。
勝手に期待していた唯が全面的に悪いのだが、またしても居場所がなくなったような気分がした。
*
これまでのように本当に追放されたわけでもないからか、唯はほとんど傷ついてもいなかった。そもそも百年以上前に解散した組織の規則など、いくつ破ったところで何一つ問題はない。
(ちょっと他のも探してみよ。)
何一つ問題はないはずなのだが、唯は少しだけ距離を置いていた。個人的な復讐を禁じるような組織の魔術を使っていては、唯の求める神には辿り着けない可能性がある。それなら、もっと自由な教義を持つ結社の提唱した理論を探したほうがいいかもしれない。
唯はリンクからリンクへと飛び回っては気になったタイトルの記事を読み、ネットの海を漁っていく。本当はもっと徹底的に、それこそ〈母親〉が日々楽天で商品を探しているように、検索して出てきた記事の一番上から下までを虱潰しに見ていくべきなのだろうが、記事を読んでいる途中で気になるものがあったらそちらに飛んでしまうのが唯の性分で、これを繰り返しているうち、元のページに戻るのがとてつもなく面倒なくらいの記事を横断してしまうこともよくあった。
「唯。そろそろご飯だから片付けなさい。」
色々な資料を読んでいると、関係のない広告や、見るからに無関係な記事も当然存在する。そんなものに毎回釣られて興味本位でタップすることを続けていれば作業効率が悪いのもまた当然のことで、唯は毎回、キリのいいところで満足する前に〈母親〉に取り上げられるパターンがほとんどだった。
「……えぇ……キリ悪いのに……」
しかし、ここで抵抗しても力で勝てないし、反逆者になればタブレットを貸与されることもないだろう。まだ調べものを続ける必要があった唯は大人しくデータを消して変換するしかなかった。
知識欲が三大欲求に混ざりこんでいるような唯のことだ。仮に二十四時間使っていいと言われたら、本当にそうするに違いない。
*
そんな遊び同然の調べものを繰り返しているうち、唯は一人の男と出会った。
彼の名はアレイスター・クロウリー。この世で最も有名と言って過言ではない、イギリスの魔術師だ。今を生きる人間に対してすらまともに関心を示せない唯がモノクロ写真上の人間に興味を抱くわけもなく、クロウリーの生涯などについては何ら興味を示さなかったが、彼の掲げたキャッチフレーズだけは唯の心の深いところに響き渡った。
『汝が意志することを為すべし、これこそ法の全てとならん』
(……これだ!)
唯の意志することは第一征服者への報復攻撃ただ一つ。あらゆる魔術もそのために利用されなければならない。それが法の全てだというのなら、今後唯の行う一切のことは法により許されるということだ。天才の自分に相応しい――そう考えた唯は、一瞬にしてその思想に魅入られた。魅入られたというよりも、元から似たような発想をしていたので共感できたと言ったほうがしっくりくるかもしれない。
(そうだそうだ。私みたいな天才が凡人の作ったルールに縛られて追放されるなんて、世界の方が間違ってるんだよ。ねぇ?)
それはクロウリーというよりもドストエフスキー的な思考だったが、唯はセレマにおけるそのフレーズを自分に対する免罪符として理解した。
こうして、悪の化身の異名をほしいままにした唯は、一世紀前を生きた偉大なる野獣に師事することとなった。自ら悪魔を名乗った人間同士、惹かれ合うものがあったのだろう。
*
洋館の二階では毎週、復讐やら魔術やらと怪しげな声が聞こえてくるが、唯がクロウリーに師事したことでその怪しさは一層増していた。館の一階部分が占いの施設となっていたことも含め、ここは何かとつけて魔術と縁のある場所らしい。
「――というわけだよ。どうかね。」
「お前この前までSEELE所属じゃなかったっけ? 十三人目なんじゃないのかよ。」
唯がいつも以上に傲慢な口調で経緯を話すと、先生はなるほどと納得したように頷きながらもツッコミは欠かさなかった。
「まあそれはそれとしてよ。別にSEELEとA∴A∴の両方に所属しててもいいじゃん。どっちもエヴァと関連あるんだし。」
「SEELEに関しては関係があるっていうかエヴァそのものだろ。」
そんな雑談をしつつ、日々の研究成果を報告し、同時に先生からフィードバックをもらう。唯にとってはこれが一番楽しく、かつ実用的な時間だった。
クロウリーの魔術理論はその大部分がG.D.のものと共通しており、それが唯の魔術理論にもほぼそのまま受け継がれていたが、唯もそのまま使ったわけではない。儀式的な要素は情報不足から削られていき、次第に思考実験を主軸とする教義へと形を変えていった。作り変えたいと思った部分のアイデアを用意するのは当然唯だったが、ここで出されたアイデアを検証し、既存の理論と矛盾しないか確かめ、必要があればさらなる改善案を提示するのは当初から先生の仕事。
「それにしても、よくこんなに毎週毎週新しいもの持ってこれるよな。」
「思いついてるっていうよりも、あそこの理論こういう説明のほうがよかったな~って感じなんだよね。家帰った瞬間から始まるからこれ。」
好きこそものの上手なれという諺があるが、それに近いものがあるだろう。思いついてしまうのだから仕方がない。
*
カバラとはいうものは実に便利なもので、元が抽象的であるがゆえに近代西洋を経て大きく変質した。多くの秘密結社が自身の魔術理論を体系化するための器として使用し、自分たちの教義をその中に詰め込み、いつしか初めからそうであったかのように思わせるほどカラフルなカバラが誕生した。
唯もまさに、かつての秘密結社と同じようなことをしていたと言える。本人の自覚はともかく、自分の目的のために、自分の理論を正当化するための道具と見なした点も含めてそっくりだ。
「あとはこれをどう発展させるかだよねぇ。」
「好きにすればいいさ。ただ大風呂敷広げすぎると伏線回収大変になるぞ。」
「……確かに。」
近代西洋儀式魔術から儀式の実践という基幹部分を取り外したものは未だ空虚なまま。唯はクロウリーのように降霊術が使えるわけでもなく、かと言って、多くの先駆者たちの理論を一ヶ所に集めてお終い、というほど味気ないものにするのは勿体ないと思ってもいた。
「じゃあうちでも調べてみるか?」
先生はそう言うと一台のノートパソコンを持ってきた。XENOをやりながら調べものをして、調べものをしながら魔術理論について話し合うというマルチタスクはかえって非効率とさえ思えるが、週に一時間しかない時間を有効に活用しようと考えた結果でもある。
「じゃあまずは本来のカバラから見ていきますかね……」
「オーケー。任せな。」
調べものをするだけなら家でも充分にできるとは思うが、先生に唯の言葉を介していないものを見てもらうもの重要だろう。先生が操作するのを横で見ているだけというのは退屈だが、この間も思考を巡らせることはできる。リアルタイムで議論できるのは中々快適と言えるかもしれない。
*
エヴァのようなサブカルチャー、アストラル界に関する情報はアストラル界に多く集まっていたので洋館内で調べることはしなかったが、それ以外の情報であれはインターネット上の事典や専門家の書いた記事が十分に役に立った。
「どう? 見てるだけでも面白いでしょ?」
唯はセフィロトの象徴図自体を自分の発明品であるかのように得意げに語り、まるで教師にでもなったかのように嬉々として説明を始めた。先生は適当な相槌を打ちながページをスクロールしている。話を聞いているのかと小突きたくなるが、先生なら聞いているだろうし、聞いていなかったとしても文字情報から十分な理解を行えるだろう。無視されているようなのは少し寂しいが、放っておいても結果が同じならしばらくは許してやろう。
「アレイスター・クロウリーってこいつか。」
「そうそうその人その人。汝の欲するところを為せ、だったかな?」
唯はセレマについても調べるように指示し、次いで銀の星、その前身である黄金の夜明け団も見ておくようにと命令を飛ばした。何か思いついたことがあれば遠慮なく言っていいとも。とても対等以上の頭脳を持つ人間に対して取るべき態度ではないが、先生もまた、その傲慢さを咎めることはなかった。言っても無駄だと思われていたのかもしれない。
結局、先生と一緒に調べたところで何かがすぐに変わったということはなかった。しかし、この後の会話のペースを考えると、無意味な一時間ではなかっただろう。
*
神が何かも分からないまま魔術の研究をしていたころと違って、今の唯は少しだけ現実感のある物語を作っていた。もちろんそれ自体が魔術的なものであったがために、科学の観点から言えばどちらも大して変わらないと言えるかもしれない。
しかし、科学も魔術も、人が世界を理解するために作りだした世界についての解釈、あるいは原理説明であると言えば、本質的な差異はないことが分かる。世界理解のために多くの人々は科学という言語を選び、唯は魔術という言葉を選んだ。ただそれだけのこと。
もっと言ってしまえば、今は魔術に含まれる占星術や錬金術も、かつては最先端の科学だったのだ。
「でも結果的にはほぼ魔術要素なくなったんだよね。」
「ほんと、不思議不思議。」
「ねじ曲げた張本人がそれ言うな。」




