迷子と銀髪の少女
初めての外の世界。
「父様、馬車から降りて歩いてみたいです」
「わかった。ただ、絶対に離れてはいけない」
そして姉様と兄様と一緒に外に出た。
兄はこれが外の世界だぞと満足そうに俺に言ってきた。
すごい。領地の市場にはたくさんの人がいる。商人や冒険者、いろんな人が行き交っている。こんな光景は前世になかった。ほんとに転生したんだと、実感した。
興奮したミラーは、父様の言葉を無視して奥に進もうとした。
だが、兄様に引き止められた。
「これ以上行ったら迷子になるよと、」
どうしても一人で回りたかった。
――なぜなら、前世で読んだ小説の主人公たちは皆、一人で冒険者ギルドに足を踏み入れていたからだ。自分もそんな体験をしてみたかった。誰にも干渉されず、自分の目でこの世界を見たかった。
そこで俺は、子供らしく走って町を回りに行った。
そして一人になってから、俺は思った。
(よし、冒険者ギルドなんてあるのかな?)
探し回った。だが、探せば探すほど、どんどん離れていってしまう。
気づけば、迷子になっていた。
あたふたと困っているその時――
銀髪の、青い瞳をした女の子に出会った。
その女の子は、恐らく同い年くらいだった。
「どうしたの?」
彼女が首を傾げて尋ねてくる。
俺は貴族ということは言わずに、こう答えた。
「道に迷ってしまって……でも、どこに戻りたいのかも分からない」
すると彼女は、あっけらかんと言った。
「なら、一緒に町を回ろっか?」
最初は迷子になったことを心配していた。だが、だんだんこの子と回っているうちに、不思議と安心してきた。
「あなた、名前はなんて言うの?」
「俺は……ミラー。君は?」
「クレアよ。ルートレイ・クレア。よろしくね!」
彼女はにこにこと笑った。
「それで、なんで迷子になったの?」
「父様と離れてしまって……」
「そーなんだ。私、この町詳しいから、いろいろ案内するよ! ついでにさがそ!」
「ありがとう!」
二人で歩きながら、クレアが町の真ん中で立ち止まった。
「見て、ミラー。ここ町の真ん中の銅像。」
俺は像を見上げる。立派な剣を掲げた男の像だ。
「これはこの国の勇者様の像。昔の勇者……伝説の勇者の人なんだって」
「この国に勇者なんているのか。……」
まだ知らないことがたくさんある。
「ねえ、クレア。もっと教えて欲しい。この国のこと」
「えー、いいけど……なんで?」
「それはね――」
答えようとしたその時だった。
「おーい、ミラー!」
姉のエリと兄のカイが走ってくる。その後ろには、父のレイスもいた。
「ダメだろ、こんなとこにいたら!」
「なんで一人で出ていったりしたんだ!」
「父様……すいません。向こうに美味しそうなものがあって、食べたくなって」
「それでもダメだろう。とりあえず家に戻ってから話を聞こう」
姉と兄が、心配そうに覗き込む。
「ミラー、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。この子のおかげで楽しく過ごせたんだ」
クレアを見る。彼女はにっこりと笑った。
「会えて良かったね、ミラー」
「うん、ありがとう。クレアのおかげだよ」
俺は父に向き直った。
「父様、もっとクレアと話したいです」
だが、父・レイスは首を振った。
「ダメだ。もう帰るぞ」
逃げ出したこともあいまって、俺は無理やり馬車に乗せられた。
馬車が動き出すその時、俺は大きな声を張り上げた。
「また会おうな、クレア!」
窓の外で、クレアが手を振っていた。
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家に帰ると、父の説教を受けた。
そして、当分は町に連れて行ってもらえそうにない。
(でも……)
ラウルス・ミラーは考えた。
(自力で家から町に行く方法を……)
(何とか考えてやる)
そう心に誓った。




