第6話 大事なもの
僕はどうしても気になって、家に帰って母にあの日のことを聞いた。
「この前焼き魚を食べた日に僕の部屋をノックした?」
「── してないわよ。あの日は買い物に行ってたから。」
「あんな時間に買い物?」
「あら、買い物に行く前に声をかけたわよ。律、疲れてたんじゃない?」
確かにあの日はひどく疲れていた。それから、明日の予定を間違えたりすることが増えた。
どうも最近は、物事の認識が上手くできない。
まだ、ボケるような年ではないのに。
微笑んでいる母は体調を心配するように問いかけた。
「律、最近ボーっとしてることが増えたんじゃない?」
「そうかな?」
「そうよ。この前だって、テレビの下あたりをずっと見つめてたし」
僕はまだ疲れているのか、疲れは長い時間寝たから取れたはずだ。
頭の中にいた何かが少しまとまったように。
「高校に部活もあるから、疲れてたのかも」
「まだ若いんだから、気を引き締めてしっかりしないと。」
──ヒビが入るでしょ。
部屋に戻って僕は机の中に入っているノートを取り出す。
「日記帳」
自分でも慣れないことだったが、長く続いている唯一の習慣なのが日記を付けることだった。
日記というわりには、その日起こった出来事を淡々と書いているだけで、観察記みたいなものだ。
決して「報告書」ではない。
母に管理されることが嫌で始めた、独立のための日記帳だ。たまにしか書かないから、それほど厚さはない。
僕は日記帳の表紙を撫でると、指先から伝わってくるザラザラした感覚が心地よくて、疲れも取れそうな気分になる。もっと触り続けたい指先を止めて、表紙の端が破れそうになっていることに気付く。
流石に経年劣化で古くなっているし、もう空いてるページが少ない。今年の冬頃には新しいノートを買う必要がありそうだなと思った。
そして、ある程度日記を付けるのも終わり、ノートを大事にしまった。




