第5話 高校の日常
疲れた体に睡眠は相性抜群で、昨日はよく眠れた。
僕は辺りを見回してみる。生徒たちはまばらでクラスの1/4も来ていない。月曜の朝8時ならこんなものか。僕は目を閉じて昨日の事を思い出す。
あのノックは母だったのだろうか。
母は僕の雪の下を覗こうととしている。昔の出来事に今さら執着して、僕が誰か試そうとした。
音を消して、ノックをして、買い物に行った。
あれから、家族の前で「小4の人格」を出したことはない。人が変わったように見えていたはずだ。母にこんなことを聞くことは論外だ。それは、今までの僕の行動を否定する行為に他ならない。
目を開けて窓の外を見ると、大勢の人が雪崩のように歩いていた。
小学校の頃から聞き慣れたチョークの音が教室に響く。糸のように細く、軽い足取りでチョークは黒板に公式を映す。無機質な高い音が頭に響いても、気分は高揚しない。難関と分類される高校だけあって、みんなの手は止まる事なく、ノートに低いペンの音が当たる。
みんながその指先で何をしてきたのか、僕は知らない。教室に響いてる音に意識を集中させて、時計を見る。
授業も後半に入り、また考え事をする。
彼らは高校での自分を演じている。それはみんなの今まで降り積もった「人格」で、僕はその厚さを知らない。
僕の「人格」の厚さは──
低いチャイムの音が鳴る
僕は何回も聞いたことがあって、聞き慣れないチャイムの音を聞いて教科書を閉じた。
僕はあまり運動神経が得意な方ではない。だけど、まったく運動しないというのも体に良くない。
「ドンッ ドンッ ドンッ」
人が床に叩きつけられる音が広い格技場に響く。この高校は文武両道を掲げていて、僕の所属する柔道部はその看板部活と言える。
肉という形をもった体から出る音が心地よくて、動いている心臓によく響く。
柔道のルールはとても単純で、床に相手の背中を付ければ勝ちと覚えておけばいい。試合でもこの考え方は通用する。適当な言い方だとは思うが、間違ったことは言っていない。1番重要なのは、相手の襟を強く掴むことだ。
自分でも少し難しいことだと思う。相手が抵抗して、相手も襟を掴んでくるから慣れない。でも、強く掴んで床に叩きつけることは難しいことだとは思わない。
指に違和感がして見てみると、何かに引っ掻かれたように血が出ていた。柔道では指を擦りむくことはよくあることで、特に気にすることもない。しかし、人は生活で指をよく使う。僕は渋々考えて、次からはテーピングを巻いておくことにした。




