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文章内で、数字が漢数字なのは、縦書きで執筆している関係ですのでご了承下さい。
架空の言語が出てきますが、掲載先の使用フォントの都合上、不揃い、または、半角に見えない場合があることをご理解下さい。
<登場人物 設定書抜粋>
安芸 智/あき さとし
西暦1980年10月10日 男
体格:ほぼ、日本人と言える体格。同と足の比率は半々。
頭髪:黒が基本の焦げ茶の髪。分け目はないが、ざんばらではない。耳が半分ほど隠れる長さ。
顔 :釣り目気味。ややグレーが入った瞳。耳はとがっておらず、現代の日本人と同じ。鼻筋は通っており白人風。
性格:荒くれ者はなりを潜めているが、こと戦闘になると箍が外れることもある。お人好し寄りで、来るものは拒まない。だが、出て行こうとすると引き留めようとするもろさがある。
田辺 勇/たなべ いさむ
西暦1996年04月04日 男
体格:見た目はやや太い。
頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。
顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。
性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。
森野 友実/もりの ともみ
西暦1998年06月06日 女
体格:下半身が筋肉質であり、上半身とはアンバランス。
頭髪:赤茶の入った黒で天然パーマ。耳が隠れるほどの長さ。
顔 :やや幼さのある造形。目は大きめで黒い瞳。鼻筋は見えない小鼻。
性格:性格はおおらかであるのだが、口数が少なく強くもの頃を言えない性格もある。また、優柔不断な一面もある。
山国育ちであり、自然が大好きで、野山を駆け回っていたためか、かなりの健脚である。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
野本 栄二/のもと えいじ
西暦1989年05月10日 男
体格:身長の割に、細く痩せすぎ。
頭髪:短めの黒髪。現地にあわせ、後ろだけ長くしている。
顔 :やや茶の入った黒い瞳で細い目。丸顔でやや童顔。やや青白い。
性格:おとなしいにも程があるほどにおとなしく、何故営業部に配属になっているのか疑問なほど。更に、声も小さい方で縮こまっている場合は更に拍車がかかる。
ШナЧ/さなす:緒羅奈之ШナЧ/おらなのさなす
祈ЭナПム(ぎこよこなここむ)斗⊂∩(きこひわ)(祈4796斗18)彦=男
体格:民族的には標準からやや恰幅が良い。地球人基準ではまだやせ気味でひょろっとしており、頼りなさそうに見える。
頭髪:黒髪。後頭部を除いて短く、耳が出ている。肩甲骨当たりまで伸ばした髪を一本に束ねている。
顔 :丸顔。大きめの黒い瞳。鼻筋の見える小鼻。耳は小さい。
性格:性格はおおらか。物事に動じやすい所があるが、それを克服すべく努力中。裏表が少なく、人当たりは良い。誰とでも良い関係が作れる長所がある。
<登場組織・国家 設定書抜粋>
株式会社 舞王/まおう
命名の由来:
初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。
事 業:
アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。
西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。
他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。
特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。
耶威磨/わいま
命名の由来:
耶衣 (わい)と威弥 (いわ)、磨野 (まわ)が講和か戦闘を経て、三つの集落を起源とする意味合いで命名。
位置関係 :
惑星の“名”すら無いが、南半球(公転方向に対して、地球の北が南)の赤道から南側にある大陸である“ナキヾΞ⊃Б (なぎみつち)”、北側にそびえ立つ山脈が連なる南の裾野から更に南側、川のほとりから内陸にかけてにある。
種 族:
容姿は、地球で言うところの“モンゴロイド”に近い。よって日本人とも見えるが、身長が地球換算で160センチに満たないため、現代日本人が入ると目立つ。
文 明:
中世の日本である、飛鳥から平安時代に相当。しかし、物によっては江戸辺りの技術水準があり、発展度がまちまちである。
<登場道具 設定書抜粋>
アゼニウム/ア素
概 略:
第二次大戦後の日本で発見された新元素。但し、公に出来ない元素である(西暦2017年時点では前者を使用)。また、空気中にガスとして存在するが、アルミニウムと同量の元素量を持つ。
命名の由来:
あくまでも、(株)舞王、(株)空間倉庫に関係する組織での呼称である。当初は、“ア素”と仮の名を新たな元素という意味と、発見された経緯などから命名される。後に、化学の周期表上で、アルミニウムの原子量を持っていることから“ニウム”が付与され、(株)舞王と(株)空間倉庫では“アゼニウム”と命名。
発生 原理:
空気中にガスとして存在するが、何故戦後になって発見できるようになったのか、専門外であるため不明のままとなっている。
無物質特異化現象/むぶっしつとくいかげんしょう
概 略:
新たな現象、あるいは事象のことを指す名称である。ゲームの魔法と似ているところがあるため、“魔法”と呼ぶ者もいる。
命名の由来:
物質が無いところで、特殊/特異な現象が起こることから。
発生 原理:
“アゼニウム”が現象の発生原因と仮定。後の研究で、“儚 (ぼう)素”と命名した同位体が触媒となって事象を起こす。
刃/とん
概 略:
日本国の江戸時代や明治初期まで使われていた、日本刀に酷似している武器であり、刃物系となるのも同じである。
形 状:
片刃であるが反りはなく、刃先を切り落としれた形状で、中華包丁をイメージさせる。
チョーカーとイヤホン
概 略:
異種族の言語を翻訳するための装置である。
形 状:
固有名称が無いため、構成に至った経緯を説明。翻訳機をどのように携帯するか。鞄の類いはひったくりに遭いやすいため、身につけやすく、宗教的な物と言い訳ができるチョーカー型が選ばれた。日本の数少なくなった集積回路製造を駆使し、なんとかごまかせる程度の厚みと、データ量をカバーできるサイズを作り上げる。イヤフォンとは無線でつながる。
電 源:
充電池を内蔵。イヤフォンについては、電波の一部を誘導電流として充電される。
輦/こそし
概 略:
神姫 (かみこ)が移動する際に使用されるが、希に訪れる客人をもてなす際の移動手段として用いられる。
引き摺る物ではなく、掲げ上げて使用され、上の者としての印象を与える物である。
形 状:
日本を始めとする各地域で似たような物が使用された過去がある(日本では“輿”が該当)。共通しているのは、民草より高位の者である印象付けである。
電 源:
主な動力は人力であるが、急ぎの場合は罵 (ばし)を使用している。単独での駆動はない。
橇籠/そご
概 略:
耶威磨 (わいま)国内では、全般的には日本国の平安時代相当であるが、中には江戸中期以降の技術がある。橇籠 (そご)もまた、そんな時代の先取りをしたような物である。
形 状:
江戸時代の駕籠とほぼ同じ形状であるのは、担ぐか引くかの差こそあれ、人力が主体となっている。
電 源:
主な動力は人力であるが、大型の橇籠 (そご)あるいは急ぎの場合は罵 (ばし)を使用している。
駆動は、橇籠 (そご)の下部にある刃で滑らせるだけである。車輪の類いは見受けられない。
ΛヾΓ、罵/ばし
概 略:
耶威磨 (わいま)国内では、橇籠 (そご)以外には、地球と同じように動物での移動手段がある。罵 (ばし)と呼ばれる動物で地球の馬に相当する。
形 状:
全体的な印象は、地球の牛に近い姿である。
電 源:
地球の牛と馬の間程の脚力を持っており、牛より走破性がある。
「おはよう……ふぁ~。ございます」
「おはようご……ざいます」
「おはよ……くぅ~。ござい……ふん。ます」
「おはよう。森野君、田辺君、剣峰君。まだ眠そうだが、早々に、支度を済ますようにな」と、智がのんびりしている三人に、緊張感がそれほどなく安堵したようであるが、「何をしている。社長の前だぞ」と、唸る法雄である。
「流石は尾川君だな。言いつけを守れないのは、未だに感心する」
「な、何を言っているんですか。社長はどこにいても社長です。ぞんざいに扱える筈がありません」
「そうか。時と場合によっては、変える必要があるんだがな。我々は、会社を背負っているとは言え、耶威磨では只の勇者一行、と言う事にしているのだから、社の肩書きを外さねばならん」と、智が、これでもかと言うほど釘を刺すのだが、「し、しかし。会社の序列は絶対ですから」
法雄の言いように、呆れ返る智であった。新人に対して、上役のトップを肩書きで呼ぶな、と言うのはなかなかに厳しいのかも知れない。その一方で、何年も在籍する社員ではない分、切り替えやすいとも言えるのかもしれないが、実情は、かなり難しいと言わざる終えないようである。
身支度と朝食を終えた勇達は、営業拠点である店舗へと向かうのであった。
近くもなく遠くもない距離を移動し、営業拠点である店舗に到着する勇達。受付に向かうと、「おはようございます」と、挨拶され、「引率の安芸智だ」と、智が告げると、「はい。……えっ? あっ、はい。舞王の社長様でいらっしゃいましたか、失礼しました。御社の野本さんに、連絡しておきます」と、少々びっくりした受付だが、「よろしく頼む。我々は、このまま第五会議室に行くことも頼む」と、智が念押しで告げると、「承知しました。五名揃っていることも伝えておきます」と、事務手続きを終えたところで、智を先頭に店舗の奥へと移動し、会議室に入っていくのであった。
五分程した頃、ノックの音がした後、ドアが開き、「お、お、遅くなりました。こちらの服装の準備に手間取りまして」と、理由を述べる中、台車の段ボール箱からはみ出している、クリーニング屋から受け取る際と同じように、パッキングされたビニール袋が顔を覗かせていたのである。
「パッキングに、み、皆さんの名前がは、張ってありますから、ま、間違えないようにお、お願いします。あ、後、耶威磨の履き物もありますので、今の靴のままで外に出ないようにお願いします」と、栄二が一袋ずつ取り出し、智へ渡すのであった。
「えーと。これは、剣峰君のだな」と、名前を呼び上げながら渡していくのであったが、偶然か、最後になったのは、「最後は、尾川君か」と、呟くと、「……最後ですか。それもまた、主席であるが故ですか」と、一瞬表情を曇らせるのだが、特別であることを思いついたのであろう、最後になったことを誇らしげにしている法雄であった。
ビリビリと、早速袋を破り捨て、取り出したものを見て、「うわぁ、ダサい」と、歩実が呟くのであった。
「剣峰君、そう言うな。これも、現地に溶け込むためだからな……。そうだな……。地球の服装なんぞ、目立ってしょうがないぞ。挙げ句、追い剥ぎまがいの者どもの餌食だな」
「うっ。それはそれで、いやですね」
「……そうですか? 剣道の道着として考えてみれば、違和感はあまりないですよ」
勇が、ぽつりと呟くと、「そ、そうなんですか? 僕は、も、紋付き袴に似ていると感じましたけど……。言われると、た、確かに、剣道って言うか、時代劇っぽいですかね?」
勇が発端になって、服装についての談義が始まったようであるが、「いずれにしろ、我々の仕事の一環だからな。その土地その土地の服装は、これからいやと思えるほど、多彩な服装が楽しめるぞ」と、脅しとも聞こえるが、嫌みの方が強い口調で、智が締めくくるのであった。
「野本さん。これって靴?」
「えっ? あっ、そ、そうですね。は……“ハジイ”と言うそうで、に、日本で言うところの、草鞋だと思ってく、下さい、と言い、いたいのですが、し、知らないですよね。自分もそ、そうでしたから、き、奇妙ではあ、ありますが、は、履いて慣れてい、頂くしかありませんね」
「うぅ。……仕方ない。そう言えば、これって裸足ですよね」と、歩実が服の次にいやな表情をしながら、栄二に確認しているのであった。
「そ、そうなります。に、日本だと……。び、ビーチサンダルを、は、履いているのだとお、思って下さい。ち、ちなみに、さ、サイズは一種る、類しかありませんので、か、踵と、あ、足首を縛る、ひ、紐で固定してく、下さい。……ほ、他にないようでしたら、ふ、服装は業務服の上にき、着て頂きます、ますので、こ、この場で来て下さい」
「えっ? ロッカールームはないんですか?」
「えっ? えーと、上に羽織る形になりますし、着替える訳ではありませんから、ロッカールームは用意されていません」
「うそ」
「……!」
「あぁ、なるほど」
「た、田辺さん、な、何かありま、ましたか?」
「いえ。上に羽織るとは言え、女性は、その辺を気にする人もいるのかと」
「? ……あぁ、なるほど。今まで、特に気にする方はいませんでしたが。……どうしましょうか」
「野本君、ちょっと待て。森野君も、同じか?」
「えーと。あっ、いえ」
「なるほど。少々問題ありか」
「え、えっ? あ、あ、あ安芸さんは、い、い、今のでわ、分かったんで、で、ですか?」
「表情を見るに、恥ずかしさはあるみたいだぞ」
「……」
智のフォローとは言い難い発言に、「安芸さん。ちょっとデリカシーに欠けると思います」と、歩実からクレームが出たようであり、友実は項垂れてしまうのであった。
「す、すまん。とは言え……。分かった、一時的に、男どもは退出しようか」
とっさに切り替えた智であり、早々に退出する勇と栄二であったが、“何故、俺が”という表情をする法雄に、職権を行使する智であった。
数分後、全員が耶威磨の服装を羽織り終え、会議室内で椅子に座っているところである。
「えーと。しょ、少々問題はあ、ありましたが。ほ、本日の予定を、せ、せ、説明します。ま、まず、迎えが来るのが……。こ、こちらの時刻でテヨですので、後、お、概ねに、二時間よ、四〇分くらいですね」
「てよ?」
「ん? ……あ、あぁ。す、すいません。じ、時刻の単位を説明してませんでした。そ、その前に、す、数字について、ですが。基本はち、地球と同じで、一~九まで、あ、ありますが、ぜ、“ゼロ”がありません。読みは、一から順に、ひ、ふ、み、よ、い、む、な、わ、こ、で……です。に、日本人な、なら、そ、それほどい、違和感はないと思います」
「へぇ。ひふみよ、か。殆ど日本語ですね」
「そ、そうですね、発音もし、しやすいと思い、ま、ますよ。それから、“て”と言いましたが、これは日本語の“時”に、あ、当たる言葉で、“何時”とか、考えて下さい。ほ、補足として、時間た、帯によって、“時”の発音が変わりまして、一~四までが“テ”、五~六が“デ”、七~九が“リ”となります。ち、ちなみに、漢字が、が割り当てられていて、垣根の“垣”に似た文字です。す、す、すいません、お、大雑把にはい、以上です。じ、時間が出来たと、時に、またせ、説明します」
「ふーん。こちらの文明も、時間という概念があるんですね」
「ゼロがないってどう言う事なの?」
「フン。馬鹿ではないと言うことか」
栄二の説明に、三者三様の感想があるようであるが、「そうだな。だが、余り馬鹿にしない方が、良いかもしれんぞ」と、釘を刺すことを忘れない智であった。
「そ、それでは、じ、時間もありますので、で、つ、次に行きます。昨日からお、お願いしていた、み、皆さんの声色が、ど、どの程度記録できたか、確認しましょう」
「そうだな。で、どうやって確認するんだ?」
「これから、ど、どもらないように、私が、耶威磨の言葉で話しますので、返答して下さい」
「分かった。初めてくれ」
「おんしさ、しくおたでかい」と、智に向いて耶威磨語(ここでは、聞こえる音を、ひらがなで表現します)を喋ると同時に通訳され、智には、「おぬしは、食事をしたか?」と、イヤホンから栄二の声色で聞こえた。そこで、「あぁ、既に済ませた」と喋ったところ、「うむ、まえつたえおる」と、かなり似た声色で発声したのである。ちなみに、各自のイヤホンからは、「うむ。既に終えた」と、聞こえている。まぁ、及第点と言ったところであろう。
“おぉ”や“すごい”などと、法雄も含め全員が感嘆の声を上げるのであった。その後、各人の声色の確認を終えるのだが、返答がまちまちであるのは当然である。だが、「はっ! 主席大卒の俺に、そんなことを聞くな」と、法雄が返したところ、「はん。……ふもわ……おるそれし、そここてんきくうぃな」と、翻訳され、更に、日本語に翻訳されると「はっ! 学校……終えた某、そのことを聞くな」と、酷い復元となってしまい、勇を始め、吹き出してはまずいと耐える一方で、「クククク」と、笑いを抑えきれなかったのは智である。
「社長! これは何ですか! “主席大卒”も変換できないとは、とんだ屑翻訳です。こんな物使うに値しません、早々に破棄すべきです」
「ククク。いやぁ、すまん。大分楽しませてくれたな、尾川君。ちなみにだが、この翻訳機は、我が社単独で作られた物ではない上にだ。翻訳機は、空間倉庫からの借用物だ。そうおいそれと破棄など出来ん相談だな」
「しかし……」
「……なぁ、尾川君。ほんの少し気に入らない部分があるからと、何故排除しようと考えるのか。本当に、よく分からないのだよ。改善することで解消は出来ないのか?」
「社長ともあろう人が、何を言っているんですか、改善するより排除してしまった方が早いでしょう。これは、今の常識ですよ」
「あぁ、なるほど。……深くは言わないが、なんと嘆かわしいことか。我々の先祖や先人達が積み上げてきたから、今があるというのに。……まぁ、この話は、この辺りにしておくとしよう。どのみち、この翻訳機を廃止することはないからな」
そう言い切った智に、幾分か納得がいかない表情をしている法雄であるが、それ以上何も言わなかったのは、自制した、と言えるのであろうか。
「服装、ほ、翻訳機のか、確認も取れましたし、え、営業の窓口に、に移動しましょう」
栄二の言葉で、智が「分かった、行くぞ」と、号令をすることで、営業所の顔と言える、窓口にある待機場所へと移動するのであった。
「野本君、後どれくらいだ?」
「は、はい。あ、後。……と、四〇分もないとお、思います。た、多少前後す、するかも知れませ、せんが」
移動を終えた智の質問に、少々慌てたような栄二であったが、「そうか、概ね二時間かかった訳か、まぁ、許容範囲だな」と、一人で納得しているようである。そう。今は、新人の実地研修中である。よって、営業との遣り取りに、問題がないか。時間の配分に問題がないか、など、引率が確認するのであろう。
只じっと待っているのも、業務の一環であるのだが、「野本……さん。まだ、ですか?」と、自分より下っ端であると決めつけているのであろう、栄二に対して、今ひとつ会話がぎこちない法雄であった。
「もう、ま、まもなくだと」
「尾川君も、他のみんなもだが。落ち着くようにな。来るのは、依頼先だ。向こうの都合もあるだろうし、我々を連れて行く手段の準備もある、それこそ、大所帯になるのだろうから移動にも時間がかかるだろう。こちらは、待つしかない」
虚を突かれたのか、びっくりする栄二に、待つことも依頼の内であると、暗に言い聞かせる智であった。
三〇分が経った頃、「Σ∟ΓШ・緒羅奈之ШナЧ申Ч-耶威磨⊇Ьヾ探査ル事・任招Ьて前伝Ζてヾ参ΓヾルてヾШヾルル-」と、現地の生の言葉が聞こえ始めると、若干の遅れを以て翻訳機から「某……はオラナ一族か部族のサナスと申す。ワイマから……探るか調べる事や件……で、招くか招待……として既に申しておる……で参じるか迎え……でござる」と、聞こえてきたのである。
「おぉ。本当に翻訳されてますね。しかし、時代劇ですか?」
「これはこれは。野本君の手柄、と言う事か?」
「い、い、い、言わないでく、下さい。……ですが、耶威磨の言葉として、あっていると自負はしています」
「野本さん。翻訳の都合かも知れないんですが、どうして、複数の単語を並べているんです? ちょっと、単語がごちゃごちゃして聞こえますけど」
「は、はい。それはで、ですね、一つのげ、現地の単語に、に、日本語では複数の、た、単語の意味が、ふ、含まれていることがあるか、からです。……例えば、“調査”がち、近いと解釈できて、ても、じ、実際には探索の、ほ、方が合っていたりす、するからですね。つ、つまりは、い、意味としてふ、複数のことをだ、代用しているから、と、とも言えると思います」
「なるほど」
「まぁ、確かに。少々耳障りな時もあるが、似たような意味や近い意味が複数あるのならば、瞬時に適切な言葉にするのは難しいと言うことなんだろうと思う」
「野本さん。一つ気になるところが」
「な、何でしょうか。手短にお願いします」
「彼、で良いですかね。名乗りなんだろうと思うんですが、“一族か部族の”と訳されましたが、苗字とは違うんですか?」
「あっ。も、申し訳な、ないです。説明、も、漏れです。“耶威磨”には、どうも、苗字はな……いようで、領地名、ち、地区名等、しゅ、出身地やす、住んでいる場所……を最初に付ける文化が、があるようです。で……すので、我々が、名乗ると、苗字が、ど、同様に訳される……ようにしています。違和感は、は、あるかと思いますが、ご、ご理解頂ければと」
智達が、翻訳された内容で議論をしていると、「ΓИて-任招Дてヾ闘磨任Ш・ЬヾЪヲИ∟ルЦИゝ」と、再び、現地の言葉が聞こえてきた。すると翻訳機から「して。招くか招待した強者か猛者……はどう……どこ……に居るか居られるか」と、聞こえたことから、栄二が「そろそろです」と、智に告げると、「君達、心構えは出来ているな?」と、ここからが本番であることを告げるのであった。
――遂に、仕事の本番と言ったところかな。……緊張するものだな。
握りこぶしに力を込めて、表情を強張らせる勇であった。
窓口から「少々お待ち下さい」「少⊇ク待ヲクДヾИ-」と、小さく声が聞こえた。カサカサとか、パタパタと床を擦る音が聞こえてきたかと思うと、「野本さん。お客様がお見えです。お越し下さい」と、声が掛けられたのである。
栄二が無言で頷くと、「よし。君達、ここからが実地研修の本番だと思うように。更に、これから合う知的生命体は、異星人であることを頭に入れておけ。我々とは文化も、文明も違うことを肝に銘じるように。それから、失敗しても良い、恐れるな。その分、私がフォローしよう。行こうか」と、智が、念押しで諸々を告げると、勇達四人は無言で頷いて、席を立つのであった。
栄二を先頭に、控え室から出た面々が、初めて、別の種族と対面するのであったが、――ん? どんな人たちかと思ったが、殆ど日本人である……訳ではないか。――と、勇が考えていると、「背が低いのね」と、歩実がぼそりと呟くのであった。
ハッと、口に手をやるも、時既に遅く、その言葉が通訳されて、「隔ШБキてヾ∠ル-」と、やや小さな声で発せられたのである。すると、「ヲヽΓШ姫ШヾルルЦИゝ隔てヾШヾルル-」と、相手の言葉が聞こえると同時に「おぬし……は女でござるか? 長さか身長……は……がある……でござる」と、通訳されて返される始末である。
「い、今の発言は、き、聞かなかった、こ、ことにし、して頂きたい」
「Ъ⊃Э申ЧЪШ・申Пク零ヰナИДヾДク-」
「か、彼女は、ま、まだみ、見習いですので、ご、ご容赦、い、頂ければと」
「ナナБШ・習ИШヾルル・赦ΓИДヾДク-」
必死に謝る栄二が、左手で刃の柄、先端を押さえて懇願すると、発言してしまった歩実も習う一方で、日本人の癖である、腰を九〇度に折る動作をしてしまうのであった。
「Σ∟ΓШ・姫Ш・赦Γ零ヰ事申ЧЪДてヾШヾルル-」
「某……は女……に容赦するか容赦していない事や件申して……発言したでござる」
ホッと撫で下ろすように、栄二の肩が下がり、歩実の緊張も解けたようである。
「ЛДヾДΓ招Ш報Юヾル零ヰナШヾルル・Σ∟ΓШ緒羅奈之ШナЧ申Ч-」
「まだ名乗るか名乗り……は……が伝え……告げていないでござる、某……は……オラナ一族か部族のサナスと申す」
「耶威磨てヾ・監任ヲ抜就クてヾШヾルル-」
「耶威磨で……では、法務省職員か警察官と言える自警官人(現代の言葉では“職員”に該当)……に就かせるか就いておる……でござる」
「Пб⊂・神姫ヲ・助力ナ喜謝Ь申ЧПク-」
「此度、神の依り代や巫女である女性君主を……に、助太刀か助力な……に感謝の極みと申しつかっておりまする」
「Σ∟ΓШ・耶衣ヱ案招Ш前伝Ζ事・探査ルヲЬ進ムЧて-」
「某……は、ワイへ……あないする……は然る事ながら、探るか調べるを……に同道いたす」
「ЭΓナ祈Ъ-」
「よしなに祈るや願うか請う」
耶威磨からの迎えの人物は、穏やかな口調で、栄二の申し出を受け入れたのである。そして、「それでは、耶威磨に向かいましょう」「ΣПてヾ・耶威磨ヲ同クШヾルル-」と、栄二が切り出して、営業拠点から出ていくのであった。
表に出た第一声が、「高級車は何処だ?」と、法雄が誰にともなく語るのであった。確かに、彼らの前には地球では馴染みのある車両が見当たらず、一方で、一〇人は下らない人数の、耶威磨の人と思われる者達がおり、表はごった返しており、栄二が、彼らの合間に見える物を指さし……。
「……こ、ここでは、あ、あ、あれ」
「ППてヾ・∠П-」
「“コソシ”と、と言うそうで、じゅ、重要なき、客人専用だそうです」
「輦Ь侖名てヾ・要事任用Шヾルル-」
「い、い、一般では“ソゴ”とい、言う物があ、あるそうです」
「衆てヾ・橇籠Ь報ЮヾルШИ∟ルШヾルル-」
「へ、平安時代のこ、“輿”と、江戸じ、時代のか、“籠”に、あ、当たりますか」と、通訳されると、「野本君。今の通訳、平安時代以降が訳されていないが?」と、智がすかさず質問すると、「そ、それは、耶威磨に関係しないか、ご、極秘事項に該当しそうであ、あれば省かれます」と、栄二が、耳打ちするかのように話すのであった。
「そ、そうそう、じ、自分に対してや、わ、我々の中での質問も、つ、通訳されませんのでご安心下さい」
「なるほど、分かった」
「ЕИЗ・∠ИΛЦルДてヾ-」
「そう言う訳だ、尾川君」
「ΣЪ報Юヾル事Дてヾ・ヲЦヾΛ彦-」
「“コソシ”と言う名の、あれが乗り物だそうだ」
「…………∠ПШ・輦Дてヾ-」
「馬鹿にしているのですか」
「蔑ルЧルбЦИゝ-」
「俺は、主席の大卒ですよ」
「Σ∟ΓШ・……文屋……終ル-」
「……リムジンがないぞ。車は何処にある!」
智が、納得しろと言わんばかりの口調で告げるも、異文明であることを理解していない様子の法雄は、憤慨するのであった。
「野本君の説明を聞いていないのか?」
「бЗЬ彦ナ語教ヲ申Пク零ヰナЦИゝ」
「あそこにある“コソシ”が乗り物だそうだ」
「……∠ПヲИ∟ル輦……Дてヾ-」
智が再度説明するが、「社長。何を言っているんですか、あれは物を運ぶ物ですよ。学がなくとも分かりますよ、あれは人が乗る物ではない」と、断固として乗り込みを拒否する法雄であるが、「君は……。何度言ったら理解するのか。耶威磨という文明では、あれが乗り物だと言うことだ。どうしても拒否するか?」と、いい加減付き合いきれなくなってきたのであろうか、早々に、脅しにも似た口調で、言葉を締める智であった。
その口調と表情から、智の含む言葉である“退職”がちらついた法雄は、渋々“輦”に乗り込むのであった。この間の会話は、重要事項と判断されたようで、通訳が行われることがなく、迎えに来たШナЧがきょとんとしているのであった。
智達が乗り込み終わると、「おぉ」「ヲヲЪ-」「やはり予想通り、担ぐのか」「直ク知ル・ЦДクヾナШヾルル-」と、声を漏らしたのは智である。しかし、そう思ったのもつかの間、進行方向から馬とも牛ともつかない動物が引き連れられてきたのである。
「野本君、あれは?」
「бЗЬ彦・∠ПШЦИゝ」
「あ、あれは、“バシ“と言うど、動物です」
「∠ПШ・罵侖名ЮЬヾフヾШヾルル-」
「地球でい、言うところのう、馬でありう、牛ですが、扱いと、としては馬です」
栄二が説明している間に、“罵”が“輦”の左右に配置され、専用の馬具に似た道具に固定され、間の前後に、人が配置されるのであった。
そうこうするうちに、準備が整ったようで、迎えのリーダーなのであろうШナЧが、「てヾ進ム/」「……出発か出立!」と、号令を掛けたのである。そして、罵を引く者達が、掛け声を上げて引き始める。すると、罵がいなないて歩き始めるのであった。とは言え、その歩はゆったりしたもので、地球では味わう事が出来なくなりつつある、動物による移動が始まったのである。
罵での移動は、人の歩く速さよりは早いものの、走る程の速さではなく、早歩きに近い速度である。それで、乗り心地はと言えば、「この妙な揺れは、表現が難しいですね」と、勇が切り出すと、「そうそう。縦揺れ? ではあるんだけど、ゆったりした上下運動、緩いバネにでも乗っている感じよね」と、歩実も同調するのであった。すると、「なるほど、剣峰君は上手いこと言うな。……車に当てはめるなら、エアサスと言ったところか」と、智からも感想が出たのだが、「“えあさす”って何ですか?」と、友実が疑問を呈するのであった。
「おぉ、そうか。森野君もそうだろうが、大半の若い世代は、よほどの車好きでないと知らないか。車は揺れが少ないだろう?」と、智の講義が始まってしまうのであった。
ゆったりした時間を過ごす面々であるが、「そう言えば、警護の人は随分若そうに見えますね」と、勇が素朴な疑問を呈するのであった。思い出したかのように、「す、すいません。ね、年齢について、伝え忘れていました。わ、耶威磨では、衛星である月二つを基準とした暦を使用しています。惑星のじ、自転と月の……公転軸との関係があるようで、月が見える期間と見えない期間があります。そう言った事から、つ、月が見えている間を我々の言うところの一年と見なしているようです」と、栄二が、いつになくなめらかに語るのであった。
「ちょっと待て。今、二つの月を基準にしていると言ったか?」
「は、は、はい」
「それは、暦として機能するのか?」
「そ、そ、そうですね。機能するか、と言えば、機能はします。しかし、地球で言う、太陰暦とは違い、太陽暦とも違う筈です」
「そうなるよな。それで、若く見えることとの関係は?」
「は、は、はい。我々も、観測し続けて分かったことですが、彼らの言うところの一年は、恒星を回る一年ではありません」
「それはどう言う事だ?」
「は、はい。まず、彼らの言葉を借りて、大きい方を“ツイセ”、小さい方を“キイセ”と呼んでいます。概ねになりますが、“ツイセ”と“キイセ”は、観測した限りでは、ここでの半年に一度交差するんです。彼らは、これを基準として、“ツ”と“キ”という月の暦を使っています。“ツ”と“キ”の後ろに、我々の数字で言う一~九を組み合わせています。耶威磨の言葉で、“ツ“”コヒコナム”、地球の換算では、一五〇日が終わる頃に月の交差が来ますので、次は、“キ“”ヒ”と言うことになります。この時点で、我々の“年”に当たる“ギ”があるんですが、これを加算しているようです。つまり……」
「なるほど。彼らの歳の数え方だと公称の数字は、我々の年齢とは違うと言うことか」
「あ、安芸さん。どう言う事ですか?」
「あぁ。我々の歳の数え方は、地球が太陽の周りを一回りする毎に一つ加算している。しかし、耶威磨では、一定の周期で現れる太陽ではなく、交差するという特徴がある月を使っている。その交差が、半年に一回起こると言うことは、今彼らが数えている年齢は、太陽を一周することで算出している我々より、数が多くなる、と言う事だ」
「ん? あっ。こういうことですか? つ、月が交差する度に私たちの“年”に該当する“ツ”と“キ”で、でしたっけ? がか、変わっていてややこしく感じますが、い、何れも半年の期間しかない、けれど、耶威磨の人たちは、こ、これを一年として数えていると言うことで、いいですよね」
「うん。森野君、その通りだ。だから、公称の歳を告げられたとしたら、半分の歳と思えば良い、と言う訳だな」
「しゃ、安芸さん。それだけならば良いんですが、数え方も説明したと思いますが、耶威磨には一~九までしかないことを覚えていますか?」
「ん? ……あぁ。そう言えば、そんな説明を受けたか。それが、問題……。あぁー。大問題だな」
「あっ!」
「田辺君も気が付いたか。十がないと言うことは、九の次は一と言うことだな。つまり、十進数ではなく九進数と言う事か……。“ゼロ”もないと言っていたな、いや、だが、それは関係しないか、となると……。例えば、“一二”と言われて、半分にすると“六”だが、実際には、“五.五“と言うことだな。これは、やっかいだな」
「まだ、頭がついていけない。ねぇ、田辺君。どう言う事?」
「そうですね。我々の言うところの十の位が一か二程度であれば、一〇と二〇が抜けるだけですからね。桁が増えて、百の位にでもなれば、“十の倍数”に該当する個数を考えて引いて、とこれ、千の位までやれます?」
「あ。それはやりたくない。いや、即座には出来ないわね。これが習慣というやつ?」
「その通りだな。参った、これは大変だぞ」
「す、す、すいません。そ、そこまで、し、深刻にならないで、で下さい。じ、実際は、ほ、翻訳機で、か、肩代わりし、しますから、み、皆さんが計算するこ、ことはないです」
「野本君。脅かすな。とは言え、知っていることは重要か」
「そ、そうなりますね。お、お、お気づきかとは思いますが、が、じゅ、重量や、距離、通貨、す、数字に関わる、こ、事柄は、す、全て該当します。い、一応、ほ、翻訳機で、あ、ある程度は変換します、の、ので、き、気にしすぎる、ひ、必要はありません、んが、こ、後学のために、あ、頭の隅にでもお、置いておいて下さい」
「分かった」
輦内では、やや、憂鬱な雰囲気が漂ってしまったのだが、知っていて話すのと知らないで話すのは、かなり気分的にも違う筈である。
しばらく、平安時代にあった牛車よろしく、ゆったりと、のんびりと罵の歩きに合わせた緩い揺れに身を委ねていたのである。
「あぁ。この、森林に囲まれた景色。僕は、和まされますよ」
「そうですね。こ、この辺りは、開墾がまだと、届いていないですから、自然が、そ、そのまま残っていますよ」
「そ、そうなんですね。今の日本は、む、昔より自然が少なくなったみたいで、だ、大自然が残っているのは、僕は好きです」
「そうですか。自分には、よく分かりませんが。そうですね。あくせくしなくて良いかもしれませんね。ですが、もうまもなく、この景色とはお別れです。開墾している部分から向こうは、大分印象が変わります」
「そうですか」
友実の自然愛に溢れるのが、その表情からも伝わってきた栄二である。しかし、知的生命体の宿命とも言える、開墾、開拓は、この惑星上でも行われているのである。木々が切り倒され、人工的な様相に変わるのを聞いた友実は、なんとも言えない表情に変わっていくのであった。
それから、地球時間で一~二時間ほど掛け、森林を抜け、開墾されて開けた土地に入った。栄二の言う通り、様相が打って変わるのを、城壁と言うよりは防壁と言った趣を醸し出す、木製の砦が物語るのであった。
罵と現地の者にひかれ、緩やかな揺れを感じながら進むと……。
「∠ПШ・耶威磨ナ巫元ヲИ∟ル圍・利茂てヾШヾルル-」
「……あれ……は……が、耶威磨……の南の方角か南側を……に有る村落、“リモ”……でござる」
――正式なのか分からないけれど、ここからが耶威磨と言う国になるのか。
神妙な面持ちで、前方を見据える勇に、「田辺君。初の異文明を見た感想はあるか?」と、見透かしているのか、唐突に声を掛ける智であった。
「……う~ん。そうですね。思ったより、文明の水準が高そうなのに驚きました」
「そうか。……まぁ、千差万別ではあるが、概ね、地球で言うところの中世辺りにのみ、接触しているようだからな」
智の説明に、幾分か思案でもする表情の勇であったが、「安芸さん!」と、歩実が、声を上げたのである。
「何か気になる物でもあったか?」
「いえ。今の説明にあった、中世辺り、というのは、何か根拠があるんですか?」
「あぁ。これは、うちのと言うか、空間倉庫も含めた見解になるが、中世以前であると、我々の言動が理解できない以前に、そもそも、依頼をしようと思わない。ある程度の知性がないと、会話以前に、攻撃されるだろうからな」
「そうなんですか」と、歩実が答えるが、「安芸さん。そうなるとですが。それなりに文明の水準が高いと、俺たちの技術を理解できてしまうのではないですか?」と、智の話に、食いついたようで、勇が議論の発端を作るのであった。
「確かにな。会話も出来ずに攻撃されるか、会話は出来そうだが、異文明にオーバーテクノロジーを与えてしまう可能性か……。まぁ、安全なのは後者だな。技術の流出もリスクではあるが、文明人通しの方が、こちらも得るものがあるだろう、と言う辺りで今のところ相手を選んでいるんだろうな」
勇と歩実が、納得するかのように頷いていると、「中世レベルであるなら、俺たちに得るものなどないでしょう。俺たちの方が上なのですから。このような乗り物と言えない何かで、移動しなければならない文明など、どうとでも出来るでしょうに」と、ここしばらく無言であった法雄が、難癖を付けるかのように割って入ったのだが、その表情は、これでもかと言わんばかりに見下していたのである。
「尾川君。その威勢がいつまで保つか見物ではあるな。……おっと。勘違いするな。異文明でまだ発展途上だからと言って、知性まで低いとは思わんことだ」と、法雄の虚言に、釘を刺すのを忘れない智であった。
輦に揺られ、利茂の集落内に入った一行は、開拓村であることを、建築中の建物や、まだ切り株が残っている状態を見るに、感じ取ったようである。
建物の用途は不明ながらも、切り倒した木を使っているようで、木造住宅に見えるのだが、「安芸さん。あの建物は、木造建築物なんでしょうか?」と、違和感でも覚えたのであろう勇が切り出すのであった。
「どうした?」
「あそこで建築中の建物です、木材を使っているように見えるんですが、白くないですか?」
「あー、あれか。……ふむ。確かに、木材の表面が白く見えるな。……野本君。分かるか?」
「は、はい。え~と。た、建物の、ぶ、部材についてですね。……仰る通り、地球で言うところの木材で間違いないです。しかし! この惑星上の木材と言いますか、木その物が、地球の植生と違っているようで、安芸さんは、最新の情報は持っていませんか?」
「私か? あぁ。分析結果の話か。いや、聞いていないな。その辺りは、どちらかと言えば、空間倉庫で完結する話だからなぁ」
「そうですか。現時点での自分が持っている最新で言うとですね。地球で言う植物に該当するんですが、石灰質の特徴がありまして、地球の樹木より軽いそうで、耐熱にも良いそうです。すいません、こんな所です」
「いやいや、ありがとう。しかし、石灰質の植物か。すごいな」
「何がすごいんですか?」
「あぁ。剣峰君。それはだな。この惑星の植物、特に樹木は、簡単に言うとだな、地球で言うところの石灰ボードと言った感じになるのか? それなりに軽く、耐熱もあるらしいからな。それが、天然に育っているとは、いや、すごい」
「む~。せ、せっかいぼーど? ってな、何ですか?」
「あぁ、すまない、森野君。建築に興味でもなければ、知らないか。簡単に言えば、外壁に使われる材料だな。軽くて丈夫で、耐火性能も高いらしい」
「安芸さん、く、詳しいんですね」
「まぁ、桃井君に、ちょっとな……」と、幾分誤魔化そうとしているのが覗え、目も泳ぎがちであった。余り、話したくないことなのかもしれないようである。
「はぁ。で、それがどうしたんですか?」
「うん。森野さん。あそこで建てている建築物の木材と思える物が、白かったから質問してたんだ。でも、そんな特性があるとは、土壌の関係で、そうなったんでしょうか? 興味がありますね」
「田辺君。今は、研究者魂は引っ込めておいてくれないか」
「あっ。そうですね。すいません、つい」
勇や智達が、耶威磨に触れて、興味を示した事柄に話が弾んでいる間も、ゆったりとしながらも、耶威磨の中枢へと、罵の歩は続いていくのであった。
開拓が進んでいる“利茂”の街を抜けると、再び、草原を進むこととなるのである。とは言え、街道筋と言ったところのようで、人や罵などが往来しているのであろう、土が剥き出しの部分を進んでいくのである。
――む? あれは、轍かな? と、何かに気が付いたような表情の智が、「野本君。耶威磨には車輪があるのか?」と、振り向きつつ、件の窪みを指さしながら質問するのであった。
「はい?」
「Λ∠/」
「ん?」
「ヽ/」
「あぁ、轍ですね」
「ヲヲЪ・Ж∠ΣヾШヾルル-」
「……いえ、あ、ありません」
「……零ヰナИ∟ル零ヰナ-」
「“ソゴ”にし、しろ、“ソゴ”からや、屋根を取り外して、に、荷台を長くした“ニ”も、もスケート靴の刃に似た物を付けて、滑らせますね」
「橇籠Ь荷ヲ・橇底ヲ作築Чて進ム-」
「……あっ」
「……ヲヲЪ-」
「もしかしたらそれを引き摺った跡かもしれません」
「……ΣПヲ・進ム生ム・∠ΓЬШヾルル-」
「ふむ」「Ъム-」「なるほど……」「ЕИЗ-」と、納得したようであるが、何か引っかかっているようでもある、その表情に、「安芸さん」「∠キ之-」「何か問題でもありましたか?」「何Ш事И∟ルДてヾЦИゝ」と、智の面持ちに気が付いた勇が、声を掛けるのであった。
「あぁ、すまん。いや、業務的には問題はない。……強いて言うなら、個人的な疑問、だな」
「なるほど。それなら、これ以上は聞かない方が良さそうですね」
智の言いように、個人的な疑問で、あえて、言葉にしていない以上、社長と言う肩書きも手伝ったのであろう、勇は追求しなかったのである。
勇と智達が、あれやこれやと話をしている中でも、輦は、ゆったりとではあるが移動を続けているのである。その内に、周囲に建物が少なくなり、仕舞いには、一軒もなくなったのである。このことから、利茂の集落を抜けたようである。
「どうやら、り……“リモ”の集落を、ぬ、抜けたようですね。あ、後、地球時間で七~八時間で、次のし、集落、“ワワノ”には、入ります。そ、その後は、進行方向み、右手、ひ、東方向に七~八時間ほどで、ちゅ、中心の集落、“ワイ”に、と、到着です。……こ、この分だと、夕方ぎ、ぎ、ギリギリ、ひ、日がある内に、つ、着きそうですね」
「分かった。……しかし、次の集落まで八時間程か……。今日の内には“ワイ”には到着しないだろう。野本君、予定はどうなっている」
「はい。あっ! す、す、すいません! ゆ……夕方に、は着くと、と、言いましたのは“ワワノ”への到着の事です。予定に、つ、ついては、確認します」そう言って、ШナЧを呼んで確認しているようである。
「あ、安芸さん、お、お待たせしました。“ワワノ”では、耶威磨で最初の宿泊地になることから、自分と、安芸さんのみで夕食会的な謁見をするだけだそうです。一泊して、翌朝“ワイ”へ向かうそうです」
「分かった、ありがとう。さて、そうなると随分に暇な移動な訳だが……。尾川君、何か余興はないか?」
「ありません! 首席卒業の自分に、そのような物は持っておりません」
「そうか。つまらない奴だな」
智の意地悪に、勇と歩実が、笑いを堪えるのに必死であった。二人が顔を背けているのだが、肩がひくついているため、バレている様子で、「お前達」と、食って掛かろうとするも、智の睨みで、法雄も顔を背けざる終えなかったのである。
この後、耶衣に到着するまで、女性陣はたわいのない会話を永遠と続けていき、肩を竦めついて行けないとばかりの勇と智は、周囲で目に付く物が何であるのか、答えの出ない考察をするのであった。
ひとしきり考察をし尽くしたのか、勇と智は無口になっているのであったが、∩弥бを立って、東方向に折れた街道を八時間程進み続けていると、遠くに、家屋が見え始めたのである。同じくして、一頭の罵が近付いてきたが、それは、案内をしているШナЧであった。
「闘磨任ナナБ-」
「強者か猛者な……の方々」
「同路・クД∟てヾШヾルル零ヰナЦИゝ」
「旅や旅路、お疲れ……で……はござらぬか?」
「耶衣ナ・直クヾ辿⊃ΖてヾШヾルル-」
「“ワイ”な……まで、すぐ辿り着く……でござる」と、ШナЧが声を掛けてきたのである。
「お気遣いありがとうございます」
「ЦДΓヾЮナ-」
「分かりました」
「∠ИΛЦルДてヾ-」
そう返す栄二が、「やっとですね」と、一同に向け、笑みを漏らして呟くのであった。
「んー。そうだな、何時間かかった?」
伸びをしながら、語るのは智であった。どうやら、疲れていると言うよりは、体が強張っているようでもある。
「こんな、時代遅れな物を使っているから、時間だけが無為に過ぎるのは当然です」
「尾川君は、まだ、そう言うことを言うか?」
「当たり前です。自分は主席の大卒ですから……。しかし、周囲の者達は、どうも日本人にも見えますが、違うようにも見えますね」
「それはそうだろう。ここは、異惑星上の文明であり、我々とは違う知的生命体だと伝えているのだがな」
「むむ。自分には信じがたいことではあります」
「なるほど。だとすると、私は、君に理解して貰う術がないな」
智が、最後は投げ出したかのように喋っているが、表情からは、投げ出している様子は覗えなかったのである。それを聞いていた面々は、嘆かわしいとさえ言わんばかりの表情で、勇などは、首を横に振っている始末で、呆れ返っているようである。
そんな状態であっても、罵の足取りは緩むこともなく、耶衣の集落へと入っていくのにそれほど時間はかからなかったのであった。街並みは、戦国時代辺りではおなじみの、外部からの道が直線で、城に繋がらないように作られていたのである。
「はぁ。現代の作りとは違いますね。これまで通った集落とも違いますかね」
「そ、そうですね。な、何で、こんない、入り組ませているんで、でしょう」
疑問を投げかけると言うよりは、感想を述べているようで、勇と友実の目が輝いている事から分かるのであった。




