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文章内で、数字が漢数字なのは、縦書きで執筆している関係ですのでご了承下さい。
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<登場人物 設定書抜粋>
田辺 勇/たなべ いさむ
西暦1996年04月04日 男
体格:見た目はやや太い。
頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。
顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。
性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。
森野 友実/もりの ともみ
西暦1998年06月06日 女
体格:下半身が筋肉質であり、上半身とはアンバランス。
頭髪:赤茶の入った黒で天然パーマ。耳が隠れるほどの長さ。
顔 :やや幼さのある造形。目は大きめで黒い瞳。鼻筋は見えない小鼻。
性格:性格はおおらかであるのだが、口数が少なく強くもの頃を言えない性格もある。また、優柔不断な一面もある。
山国育ちであり、自然が大好きで、野山を駆け回っていたためか、かなりの健脚である。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
若松 一郎/わかまつ いちろう
西暦1980年06月21日 男
体格:やや痩せ気味。
頭髪:手入れを気にしていない程に、適当になっている黒髪。
顔 :細い目。鼻筋が通っている小鼻。薄い唇だが横にやや広い。
性格:おおらかでのんびりしている。口調にもそれが表れており、マッドなイメージの化学ではないと思わせる。とは言え、学者肌であることに変わりはなく、時折危ないことを言い出す。
安芸 智/あき さとし
西暦1980年10月10日 男
体格:ほぼ、日本人と言える体格。同と足の比率は半々。
頭髪:黒が基本の焦げ茶の髪。分け目はないが、ざんばらではない。耳が半分ほど隠れる長さ。
顔 :釣り目気味。ややグレーが入った瞳。耳はとがっておらず、現代の日本人と同じ。鼻筋は通っており白人風。
性格:荒くれ者はなりを潜めているが、こと戦闘になると箍が外れることもある。お人好し寄りで、来るものは拒まない。だが、出て行こうとすると引き留めようとするもろさがある。
小埜瀬 隆彦/おのせ たかひこ
西暦1967年11月05日 男
体格:恰幅は良いが、力仕事が多いことから来る筋肉による。
頭髪:短髪に近い長さで、分けることはしていない黒髪。
顔 :逆三角より四角。
性格:人当たりが良く、真面目と言えるが、曲がったことがきらいとまでは言えない。何事も節度を持ってと言うことのようである。
大貫 志郎/おおぬき しろう
西暦1972年08月15日 男
体格:小太り気味ではあるが、スラリとして引き締まっているように見える。
頭髪:黒髪を短く切り揃えている。耳は出している。
顔 :馬面と言える長めの輪郭。細く見える目は黒目で、鼻筋は通っている小鼻。やや大きい耳。
性格:昭和生まれのためか、おおらかで人当たりは悪くない。せかせかした時代でも、マイペースを保っている。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
野本 栄二/のもと えいじ
西暦1989年05月10日 男
体格:身長の割に、細く痩せすぎ。
頭髪:短めの黒髪。現地にあわせ、後ろだけ長くしている。
顔 :やや茶の入った黒い瞳で細い目。丸顔でやや童顔。やや青白い。
性格:おとなしいにも程があるほどにおとなしく、何故営業部に配属になっているのか疑問なほど。更に、声も小さい方で縮こまっている場合は更に拍車がかかる。
<登場組織・国家 設定書抜粋>
株式会社 舞王/まおう
命名の由来:初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。
事 業:
アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。
西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。
他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。
特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。
株式会社 空間倉庫/くうかんそうこ
命名の由来:ワームホールが別の惑星上の空間と繋がっており、それが倉庫のようにたくさんある事をヒントに、倉庫業を主体とした事業を行う事から命名された。
事 業:倉庫貸し。主に企業向けに区画や隔壁で区切られた倉庫を貸している。
空間貸し。ここで言う空間とはワームホールの事で、別の空間(惑星)を繋いでいる事から“空間貸し業”と呼んでいるが、表だった宣伝活動は行っていない。
耶威磨/わいま
命名の由来:耶衣と威弥、磨野が講和か戦闘を経て、三つの集落を起源とする意味合いで銘々。
位置関係 :惑星の“名”すらないが、南半球(公転方向に対して、地球の北が南)の赤道から南側にある大陸である“ナキヾΞ⊃Б(なぎみつち)”、北側にそびえ立つ山脈が連なる南の裾野から更に南側、川のほとりから内陸にかけてにある。
種 族:容姿は、地球で言うところの“モンゴロイド”に近い。よって日本人とも見えるが、身長が地球換算で160センチに満たないため、現代日本人が入ると目立つ。
文 明:中世の日本である、飛鳥から平安時代に相当。しかし、物によっては江戸辺りの技術水準があり、発展度がまちまちである。
<登場道具 設定書抜粋>
空間特殊穴=ワームホール(虫食い穴)
概 略:位相幾何学の中であり得るのではと考えられている構造であるが、今のところ解明できていない。何を持って構成されているのか、何を以てそこにあるのか、今のところ解明できていない。
命名の由来:リンゴの虫喰い穴に由来する(ウィキペディアより抜粋)。
発生 原理:今を以てして、この現象の発生した理由、原理は不明であり、維持するための電源となる物は判明していない。
翌日。勇達新人は、本社裏にある派遣課の練習施設一階に集合していた。まだ、始業前であるため、「ついにこの日が来た」とか、「変なのいないよね」や、「ワクワクするぅ」などなど、班内なのであろう仲間と、わいわいと騒いでいるのであった。
「あの。田辺さん」
「ん? 森野さん、何かあった?」
「あっ、いえ。これから、別の惑星? に行くことになるんですよね」
「うん。恐怖が半分、期待が半分て所だね」
「えっ、え~と」と、なんとも歯切れの悪い友実であるが、「怯えていても良いわよ。あたしが守ってあげるから」と、横から会話に割り込んできたのは、「剣峰さん。いきなり、かっこいいこと言いますね。……でも、森野さんもいろいろ挑戦していたんだから、慌てずにやっていこうよ」と、勇が茶々を入れつつ、友実の緊張を和らげようとしているのであろう。
「はいはい。今日は西暦二〇一七年七月八日です。いつもの癖は今日は出しませんよ。……さて、今日からお待ちかねの異惑星の異文明と初のご対面の日ですね」と、始業時間になる頃、一郎が、唐突に何時もの会話を始めるのであるが、新人達の目の色もいつもと違っているようである。
「では、今日以降の予定を説明しますよ。騒がないで下さいね。……えー。まず、この説明の後直ぐ、他社になりますが、株式会社空間倉庫に移動しますよ。到着後、小一時間程は、株式会社空間倉庫にある施設の説明がされて、向こうの準備を待って一班から順に現地へと向かって貰う流れですね。それと……。期間は、大体こちらの時間で一ヶ月程ですね。えー、かなり大雑把ですが、今回は他社が入りますので、質問はなしですよ。それじゃぁ、後は、各引率者の指示に従って下さいね。僕の役目はここまでです。……三ヶ月程君達とやって来ましたが、本音をぶちまければ、これ以上は勘弁して欲しいですね。とは言え、悪くはなかったとは思いますよ。今後の君達の活躍を期待したいところですね。それでは、行ってらっしゃい」
いつも通りの一郎の喋り方ではあったが、やはり、最後に至ってはやや神妙な面持ちとなってしまうのであった。十人十色とはよく言ったもので、今年度の新人達は、特にいろいろあったのだ、感慨深くなってしまうのも致し方がないであろう。
二〇人程の大所帯での移動とは言え、基本は班毎に引率者がいるため、それほどの混乱はなかったのだが、「うへぇ。また山の中か」や、「あれ? ここはまだ東京か?」などなど、都会ばかり見てきた若者には、青梅市内への道中は、新鮮に映ったようである。一部は、山の中を目指すことに辟易しているようであるが……。
株式会社空間倉庫へ向かう最寄り駅には、既にお迎えのバスが止まっており、「株式会社舞王の新人さん。! ……これはこれは、安芸社長ですね。遠路はるばるようこそ」と、大仰な言い方をするバスの運転手と思しき男性である。
「あ、あぁ。御社までよろしくお願いする」
「はいはい、お任せ下さい。舞王さんは、当社の筆頭株主ですから……。それでは、乗車をお願いします」
社交辞令を交わすと、バスの運転手は乗車を促し、智がそれに追随する形で、全員に指示を出すのであった。
山道をバスで移動すること二〇分程。山間にそこそこの高層建築物が顔を出して来るのであった。
「あれですか?」
「そうだ。あれが異惑星に移動する手段を持つ、株式会社空間倉庫だ」
都会であれば低層から中層程であるが、山間部にあるビルは、見る者に異様な雰囲気を醸し出させているようである。
バスがビル正面の車寄せに到着し、全員が降車すると、「業務課の小埜瀬隆彦です」と、やや年配の男性が出迎えたのである。
「小埜瀬さん、お久しぶりです」
「安芸社長、こちらこそご無沙汰しております。まさか、とは思いますが、今年度の引率ですか?」
「はい。少々ありましてね」
「なるほど、社長自らとは、相当な人材がいると言うことですか。では、会議室を取ってありますので皆さんをご案内します」
智とは面識がある隆彦であるからなのか、言葉を選んではいるものの、社長自ら引率すると言うことの意味を理解して、微妙な言い回しをする。食えない御仁と言えそうである。
車寄せのあったビルは本社棟であり、その東側二階の会議室に通された面々、用意されている一方向を向いたパイプ椅子に着席すると、案内してきた隆彦が、そのまま正面に立つのであった。
「まずは、株式会社舞王の皆さん。株式会社空間倉庫へようこそ。お出迎えさせて頂きました私は、経営管理部、業務課、第八係係長の小埜瀬隆彦です。本日は、御社、新人研修の一環で派遣の実地訓練と伺っております。当社と御社の規約についてと、この後のご案内についてを説明させて頂きます」
新人相手とは言え他社である。その辺りも弁えているのであろう、ややざわついたとしても何食わぬ顔で説明を続けている。
「……以上が、弊社と御社で交わしている規約となります。念のために重要なことを再度申し上げます。これから参ります区画は、秘匿されなければならない施設となりますので、どのようなことがありましても口外されませんようにお願いします。……この後は、通称“ゼロク”へとご案内しますが、弊社内でも極限られた者にだけ知らされておりますので、間隔を開けての少人数での移動となります。また、移動は迅速に、よそ見をしないでお願いします。と言いますのも、皆さんには専用セキュリティが用意されておりませんので、係員の引率が必要となります。よって、遅れること、迷われることがないようにお願いします」
やや長めとは言え、自社で散々苦言を呈されていたこともあり、それほど騒ぎ立てる者もおらず、問題もなく説明を聞き終えたようである。
「田辺君」
「剣峰さん、どうしました?」
「ここって余所の会社って事よね」
「? 今更どうしたんですか」
「あっ、えーと。なんか、今の人の説明。口調が他人行儀だったから、改めて実感したのよ」
「あぁ、なるほど」
「なるほどって。田辺君はそうじゃないの?」
「えっ? いえ。そう聞かされていましたから、特に気にしてませんでした。けれど、そう感じるものなんでしょうか?」
「あぁ。……いえ、馬鹿にするつもりはないんだけれど。田辺君、若いのに結構しっかりしているのね」
「若いのにって、剣峰さんとそんなに変わりないじゃないですか」
「そう言われれば、そうね」
勇と歩実が、そんなたわいのない会話をしていると、「……分かりました。一班。受け入れ準備が出来たそうだから移動する」と、志郎が一班に号令を掛けたようである。一班の面々が、「はい!」と、元気よく返事をして会議室を出て行くのであった。
二班が二〇分後、その二〇分後に三班が移動して、一〇分程経った頃……。
「さて……。あと一〇分程で我々の番だが、小埜瀬さんが言っていたことを忘れていないだろうな? 尾川君」
「何故、俺に聞くんです社長。仮にもここは他社です。その辺りは弁えています」
「よろしい。とは言え、私のことは、“安芸さん”と呼べと言っているだろう」
「いえ、駄目です。引率であるとは言え、当社の社長です。名前で呼ぶなど以ての外です」
「堅いなぁ。……まぁ、ゆっくり慣れてくれとしか言えないか」
智が、いくら何でも緊張しているだろうと考えたようであるが、法雄が、いつも通りで拍子抜けしたようである。「森野君」と、声を掛けてみるが、「……」聞こえていないのか、反応が返ってこないと、「友実ちゃん」と、歩実が肩に手を掛けて声を掛けたところ、「は、は、はひ!」と、声を出すと言うよりは、呼気が漏れたような状態となるのであった。
「うん。まぁ、初めてだからな、緊張するなとは言わないが、移動中は剣峰君に付いていくことだけ考えろ」と、不安な表情で、言い聞かせるように語る智であった。
更に、一〇分程が経つと、「それでは四班の方、お待たせしましたが移動になります」と、隆彦が声を掛け、会議室を後にするのであった。
四班の面々が、空間倉庫の本棟を移動していくと、「壁、ですね」と、勇が呟き、「一面の壁ね。入り口は何処にあるの?」と、歩実が左右の壁をキョロキョロと見回しながら呟いたのである。
「で、でも、ま、まだ廊下は、つ、続いているみ、みたいです。こ、こ、ここに、かく、隠しと、扉でもあ、あ、あるんですか?」と、友実が呟きながら、鼻息が荒くなり、「僕。ちょっと、ワクワクしてきました」と、目を爛々と輝かせる始末である。
「森野君。緊張は解けたようだが、大きな声は出すなよ。さっきの説明を忘れていないな?」
「あっ、は、はい。だ、大丈夫です。お、押さえながらワ……ワクワクします」
智の注意に、高等テクニックとでも言えば良いのだろう、気分はかなり高揚しているのが見て分かる。のだが、それを表に出し切らないよう押さえているようである。
四班の面々が、たわいのない遣り取りをしていると、先頭を歩く隆彦が立ち止まり、やや離れた壁際で何やら操作をしている様子。すると、ガコン、と音が響いてもおかしくない程、四メートル四方の壁がくり抜かれるように引っ込んだのである。「おぉー」とやや控えめに声を上げたのは、友実である。
「見ました? もう、秘密基地感満載です。僕は、興奮が止まりません」
「あぁ、そうだな」
「これは……。言葉になりませんね」
「低い音はするんだけど、轟音にならないのは何故?」
引っ込んだ壁が、左右に引き込まれるのかと思いきや、半分程の位置でぱっくりと分かれ、それぞれが右回転左回転をゆっくりと始めたのである。
「皆さん。回転している間に通って下さい。止まると自動で戻ってしまい、入れなくなりますから」
隆彦の説明に、「さぁ、行くぞ」と、智の号令に無言で頷き、法雄、勇、歩実、友実の順で、回転する壁の向こう側へと向かうのであった。
通路を抜けると六畳程の部屋に出たところで、「ここは、待機室となっており、皆さんには、そちらのロッカールームで、配布されている専用の着衣に着替えて頂きます。着替え終わりましたら、ここに集合して下さい」と、隆彦が間髪を入れずに、説明を始めるのであった。よって、辺りを見回してワクワクする暇はないようである。
「ロッカーにこの名札を入れて、着替え終わったら施錠も忘れるなよ。携帯電話に腕時計、眼鏡はしている者はいないが、指定された物以外は、全て置いて行くように。一時解散!」と、智の最終確認を以て、着替えるためにロッカールームへと入っていくのであった。
一〇分程後、智も含めた五人が六畳程の部屋に戻ってきたのだが、「ちょっと、この戦闘服のようなデザインは、そっちの人だと嬉しいの? 真っ黒なのがちょっと駄目ね」と、歩実が呟くのだが、「う~ん。せ、戦闘服な、で、デザインは、ぼ、僕としては、あ、ありですが、真っ黒で、ではなく迷彩系が良かったで、です」と、それぞれの不満点を述べる女性陣である。
「はっ。服ごときでブツブツと、そんな物どうでも良いだろう」
「はぁ? あのねぇ。どんなときでも女の子はおしゃれしたいのよ。あんたには分からないんだろうけど」
「尾川さん。どうしてそう喧嘩腰の口調なんです。これから班行動をするんですから、もう少し穏やかに話しませんか?」
歩実と友実の愚痴に突っかかる法雄であったが、勇がすごんで言い含めようとすると、「……確かに、俺には関係ないことだったな」と、あっさりと矛を収めるのであった。
勇と法雄が口論する中……。
――なるほど、確かに安芸社長自ら引率する筈ですね。さて、向こうに行ってどうなりますか。
周りにも聞こえる程に、吐息を漏らした隆彦が、「四班の皆さんは、準備が整ったようですね。それでは、ゼロクの神髄を見ていただき、出発して頂きましょう」と、注目を集めることで、勇達の口論を打ち切らせ、先へ進ませようとするのであった。
「うむ。小埜瀬係長の許可も出たことだし、この先の部屋を潜っていくぞ」
「はい!」
智の号令で、約一名を除いて元気な声が返ってくるのであった。
「この先になりますが、まずは与圧室に入って頂きます。この待機室からこの先へ、雑菌などを含む空気を遮断するための部屋で、全員が入り終わるまで次の部屋はロックされています」
ドアロックを解除しながら、隆彦が説明を始める。その与圧室に入った面々であるが、圧が高いとは言え、ごく僅かなのであろう、特段耳鳴りなどの状態にはならなかったようである。
正面のランプが緑色に点灯し、低音のブザーが鳴ると、「それでは次に向かいます。次は滅菌室になりまして、数区画に区切られており、数種類のエアロゾルが吹き付けられます。一〇〇%とは言えませんがほぼ滅菌されます」と、説明を続ける隆彦である。
隆彦の誘導により、滅菌室内を順繰り移動しながら、「うわっぷ!」と、吹き付けられるエアロゾルにびっくりする場面もあったが、滞りなく滅菌室を抜けると、また与圧室に入ることになったのである。
「さぁ、この与圧室が最後の部屋です。ここを出ると、ワームホールがいくつもある部屋に出ますよ」
扉を開けて出た先の光景に、勇達は、“おぉー”と声を漏らすのであった。そして、縦横無尽と言っても良いであろう、空間に空いた穴=ワームホールの光景に圧倒されたのであろう、見慣れた二人を除いて、立ち尽くすのであった。
「新人の皆さん。これが、ワームホールです。この先には、幸か不幸か、必ず惑星上の陸地と繋がっております」
「……! と言う事は、未知の文明、いえ、知的生命体がいる、と言う事ですか?」
驚愕の表情で我を忘れていた勇が、隆彦の説明で我に返ったようである。
「言い質問ですね。はい、その通りです。知的生命体の話をする前に、ワームホールを遠巻きにご覧下さい。余り近づかないで下さい、周囲には何らかの力場がありまして、怪我をしますからね」
「えっ? どう言う事ですか?」
「気が付きませんか? 倉庫業をしている我が社であるにも関わらず、ワームホール間に区切りを設けていないことに」
「あっ、そう言えば、確かに、ここまで上下左右にあるなら区切った方がよさそうよね。何故ですか?」
「……当初は、簡易的とは言え、壁を設けて区切っていたようです。しかし、機械的な固定がされていないためか、元々そう言う性質があるのか、動くんですよ」
“怪我”というフレーズに反応したのは、歩実である。誰かが傷つく事に恐れが、いや、嫌いなのであろうことは、研修中に見せていたことである。その表情は、怒りの形相に近い迫力があったようで、隆彦の体がピクリとする程であった。
「動く?」
「そうです。動くんですよ、ゆっくりですけれど上下左右に。最終的には、壁をねじ切るように壊してしまったそうです。それ以降は、この区画の強度を保つのに必要な柱だけを残すことになりました。上の方は、動きに合わせて稼働する回廊を設け、渡り通路を渡し最低限必要な配線を通しています」
勇達は、各々、物珍しさを隠そうとはしないが、それでも先ほどの隆彦の言葉に従い、近づきすぎない位置でワームホールを眺めていた。すると、「それでは、皆さんが使用するワームホールに向かいましょう」と、隆彦が先に歩き出すのであった。
「小埜瀬係長。ワームホールに移っている景色、と言うんですか? それが、それぞれ、歪んでいたり、黒かったり、ここではない景色が見えているようですけれど、違うのは何故ですか?」
「そうですね。結果論と言いますか、推論と言いますか。詳しい事を私は理解していませんが、目的地との距離が関係しているのでは、と聞いております」
「距離?」
「そうですね。地球上で当て嵌めて理解しているのですが、例を挙げるなら、東京とロサンジェルス、東京と大阪で、近いのは大阪ですね。そう言った距離によって、見え方が変わるのではないか、と当社の研究員が資料として纏めています。まぁ、実際の距離を測れる筈もないですから、推論とも、見た限りの結果とも言えますが」
勇の素朴な疑問を、隆彦は、若干困ったような表情で知りうる情報を元に解説しているのだが、なんとも曖昧な答えを得たようである。
「距離って、何キロメートルとかって事ですよね」
「地球上で表すならそうですが、宇宙でその単位を使うと、何億キロメートルとかになるんじゃないでしょうか。……いや、申し訳ない。天文学は専門外ですので、これで勘弁して頂きたい」
「えっ? そっちになるんですか?」
質問しておいて、びっくりしているのは歩実である。まぁ、ここから全貌が見えていないとは言え、相手は地球上ではなく、この宇宙の別の惑星上である、天文学で使う単位となるのも致し方がないであろう。
「だとすると……。小埜瀬係長。何故、このワームホールが維持されているかも、まだ分かっていないのですか? それと、人為的ではないかも、ですか?」
「うーむ。先ほどから、素晴らしい程に、難しい質問をされますね。お名前を伺っても?」
「あっ、失礼しました。俺……。いえ、私は、田辺勇と申します」
「ありがとうございます。田辺さんのご質問は、非常に難しい質問です。いえ、答えられないという意味ではなく、ご覧の通り、ワームホール周囲に装置はありません、従ってこれらは自然発生した、と結論づけるしかありません。更に、維持方法も同様に、どれほどのエネルギーで維持しているのか、供給源は何か、何処にあるのか、その全てが解明されていない状態です。只、先ほども申し上げた通り、周囲には何らかの力場が発生していることのみが分かっているのです。今現在も、その力場に何かあるのではないかと研究しているのですが、結果は未だもって出ていません」
「誠に申し訳ありません。御社の内部的なところまで、教えて頂いてありがとうございます」
勇の質問は、かなり高度な物でもあったようであり、研究者ではない隆彦を疲弊させたようである。余りの申し訳なさに、腰を九〇度折って謝るのであった。
右の壁際にある階段を上り、最前列から三つ目の回廊に入った一行は、数えて四つ目のワームホール前で止まった。そこには、立て看板よろしく、行き先の文明なのであろう名称が書かれていたのである。
隆彦がくるりと向きを変え、「それでは、派遣の約束事を説明します」と、語り始めると、「な、何ですか? 今から契約?」と、“約束事”に反応したのは友実であった。「あぁ、いえ。契約ではなく、約束事です。これから行く先は、地球ではありませんよ、と言う事をより良く理解して貰うための説明ですから、安心して下さい」と、ゆっくりと理解しやすいように語る隆彦であった。
「よかったぁ」
「ふふふ。森野君、契約は会社間で行っているから、これから、小埜瀬係長が説明することを守っていれば、何も問題は無いからな」
「はい! 分かりました」
「では、続けましょう。これから向かう惑星上に住む知的生命の文明と文化に影響を与えてはならない。これから向かう惑星上で、我々の文明の痕跡を残してはならない。尚、持ち込んだ物は、緊急事態の場合は優先的に破壊すること。この先に存在するいかなる物も現実であり、空想上の産物、つまりはゲーム上で起きている事ではないことを肝に銘じること、以上。派遣業の遂行をお願いします」
勇達は、何を言っているのか、と言う表情であったり、言わんとすることが理解できていたり、まちまちではあるようだが、「下らん」と呟く御仁もいたりするのであった。
「まぁ、この辺りは決まり事とは言え、毎回聞くことになるからなぁ。今回も含め問題を起こすと、この訓示も長くなる上、書類作成も増えるから、いつも以上に言動には注意するように」
「はい」
元気な返事が返ってきたところで、智が、「それから、最初だから言って置くが、ワームホールを潜った先は、概ね薄暗いから怯えるなよ。……さて、今回は、引率である私が喋るが、正式配属された後は、リーダーが喋る内容になる。とは言え、君達は、まだ数年は先だろうがな」と、説明すると、「なるほど、よく覚えておかなければ、配属後に恥をかくか」と、呟いているのは法雄である。その言葉を聞かなかったかのように智が、返礼するのである。
「本日、二〇一七年七月八日、一二:〇〇。派遣の約束事を守り派遣業務を遂行してまいります。……さぁて、四班は、ワームホール内に入る。続け!」
“耶威磨”と書かれた立て看板のあるワームホールに、一人ずつ渡り通路を通って、消えていくのであった。
「えっ? ちょっ、み、み、見えない、で、ですよ」と、抜けた先が薄暗いでは済まされない程に暗かったため、いつも以上に慌てふためき、どもる友実であるが、「落ち着け。さっき暗いから怯えるなと言ったばかりだろう。深呼吸して落ち着け」と友実に語ると、すぅはぁ、と音を出す程に深呼吸する友実であった。
「あっ、すいません。申し訳ないです。こ、ここを、が、外部に見つからないように……するため、かなり暗くしてます、です。はぁ」
「ふむ。いきなり謝罪から入るとは……。君は、我が社の営業でいいか?」
「は、はい。申し訳ないです。自分は、株式会社舞王、営業部、現地課の野本栄二、です」
「何故謝る。何かしたと言える程ではないから、謝る必要はないが?」
「は、はい。すいません。こ、これは、性格的な物でして、なかなか……。治りません」
智の言葉は、いつも通りの口調であったことから、「それは……。大変ですね」と、つい勇が紡いでしまうと、「そ、そうなんです、よ」と栄二が分かってくれたかと返してしまい、「わ、分かります! こればっかり、は、ど……どうしようも、無いです」と、怯えていた友実も加わり、「も、も、もしかして、あ、貴方も?」と、友を得たかのような感激をする栄二がいたのである。
「まぁ、何だ。二人共、ゆっくり直していけ。……でだ。一応、到着の挨拶を交わさなければならないんだが?」
「そ、そうでした。す、すいません。……それでは、こ、こちら……。い、いえ。そのまま、進んで下さい」
内向的、と言って良いのか、栄二の性格によって少々まごついた到着ではあったものの、一同は、ワームホールのある場所を離れることになったようである。
ガコン、キィィと、栄二が操作して扉を開けると、「ま! まぶしい!」と叫ぶ程に、少々時間を要してしまったことから、暗がりに慣れた目に、まばゆい光が飛び込んだのである。光とは言え、この通路には、窓らしい物がなく、差し込んでいるのは人工的な明かりである。
「ふむ。ここも、からくり屋敷的になっているのか」
「そ、そうですね。……あ、あれ? んー。えーと、貴方は、社長ではないですか?」
「ん? そうだが、書類は回っていないか? 今日の派遣は、新人研修の一環だぞ」
「い、いえ。き、来てます、来てます。問題ないです。大丈夫です。で、で、話は戻りますが、た、多分ですが。空間倉庫さんが作る拠点は、似たような。い、いえ。同じ作りにしているのでは、な、ないでしょうか」
「あぁ。なるほど」
「どう言う事ですか? ここって、社の営業店ではないんですか?」
「あぁ。説明していなかったな。だが、ここで打ち合わせをするのも何だろう。野本君。会議室は取ってあるんだろうな」
栄二の言動に、一抹の不安を覚える智であり、表情に出さないように努めているのが、ひくつく表情から見て取れるのである。
「だ、大丈夫です。こ、この後、す、すぐに使えるように会議室の、手配はしてあります。本当ですよ、社長~」
怯えているように感じられるのは、栄二の性格であり、どもっているからなのであろう。
智を始めとした五人は、栄二に案内され、予約してある会議室へと移動したのである。こぢんまりとしているのは、拠点の広さもあるのかもしれないが、一〇人も入れば窮屈になりそうな程である。
「相変わらず、狭いな。桃井君にでも、改善要望を出しておくか」
「そ、そうですね。こ、ここにいると、小さくしなければ、目立ちすぎるというのもありますから、ど、どうでしょうか」
「あぁ、なるほど。まぁ、文明の進み具合によっては、大きな建物を建てる技術が無い、か」
「は、はい」
「分かった。それでは、まずは、自己紹介からするか。野本君は先ほどのでよしとして、こちらだが……。新人から始めるか」
智が先へ進めようと、自己紹介を提案するも、勇達は誰からするかで、一瞬顔を見合わせてしまったようである。そんな中で、「全く。俺は、尾川法雄だ。四班のリーダーで主席の大卒だ」と、法雄が相変わらずの宣言をかますと、栄二が固まったようである。
「野本君。尾川君のことは気にするな。次」
「じゃぁ俺が。田辺勇です。戦略や戦術を考えるように、引率の安芸さんから言われています。よろしくお願いします」
「ほら先に、やっちゃいなさい」と、友実をつつく歩実である。「は、始めま、まして。森野友実です」と、尻つぼみになってしまう友実であった。押した歩実は、“あちゃー”と言わんばかりに天を仰ぐのであった。
「んん。あたしは、剣峰歩実です。田辺君と戦略や戦術を考えています。よろしくお願いします」
「ま、まぁ。良いだろう。さて、私は安芸智だ。しかしこの依頼中は、“社長”ではなく、“安芸”と呼んで欲しい。肩書きだと、いろいろとやっかいなこともあるからな。……それで? この後はどうするんだ?」
「は、はい。少々説明に時間がいるかと思いますので、み、皆さん。う、う、後ろから椅子をだ、出して座って下さい」
栄二は、立ったままであったことを思い出したかのように、椅子を勧めるのであった。
ガタガタと全員分の椅子を出したが、「あ、すいません。このボードを向いて座って、く、下さい」と、椅子の向きを変え始める一同であった。
「そ、それでは。こ、今後の。よ、予定を、お話しします。……さ、最初にですが、予定は紙でお渡ししません」と、言ったところで、「おい。それはどう言う事だ? 社会人では、資料だったか、で紙を渡すのが普通だと聞いているが」と、法雄が意気揚々と、当然の要求だと、寄越せと言わんばかりに話すのであった。そこに口を挟んだのは、栄二ではなく、「うむ。通常業務ではそうなるんだがな。我が社での異惑星への派遣では、“紙”という文明すら紛失することも、問題と考えている。よって、確認が必要なら、現地課の営業に聞くことにしている。と言う説明はまだしていなかったな。……おっと、田辺君の質問もあったな。野本君。予定の説明を始めたところで悪いが、ここの説明などをさせてくれないか」
「わ、分かりました。えーと、あ。それは、あ、明日に説明する予定です」
「そうか。田辺君、予定に組まれているようだ、それで構わないか?」
「分かりました。予定に組まれているのであれば、構いません」
「それと、尾川君。今の説明で納得してくれるか」
智の説明を聞いていた法雄であるが、やや複雑な表情をしており、「いえ、“紙”ごときも文明、ですか。納得しがたい所がない訳ではないですが、社長がそう仰るなら、そうなのでしょう。野本だったか、質問するがいいな」
「ちょっと待て」
「何でしょう」
「今、“野本”と言ったか?」
「はい。言いました」
「何故だ?」
「は? 何故、ですか。そうですね。……営業とは下っ端のすることです。と言う事は、首席大卒の俺の方が上、なのは明白だからです」
「……おいおい。そこまでなのか、尾川君。一つ良いことを教えよう。会社では、後から入社した者は、社の業務を知らないという意味において、後輩だ。どんな学歴であっても、先輩より年齢が上だったとしてもだ。野本君。済まないが年を聞いても良いか」
「は……はい。二八です」
「ありがとう。と言う事で、野本君より尾川君の方が年齢もあきらかに下だ。主席大卒だ? それは目安の一つでしかない、と言う事を覚えなければならない。良いか。まずは、先輩である野本君に謝ってもらおうか」
「……」
「どうした? 主席大卒は、謝ることも出来ないのか? その程度か?」
「……野本、さん。すいま(せん)……」
智の怒りと説得に、傍からも、いやいやであるのは見て取れる程で、更には、発しているのかどうかと言う程に尻つぼみになる程であった。
「い、いえ。か、構いま、せ、せんよ。分かってく、く、くれれば」
「すまない、助かる。野本君、続けてくれ」
「……は、はい! ……えー、では。大きくは、今日と明日以降に予定が分かれます。今日は、今回の依頼主である知的生命体が、使用している衣服の採寸、武器の選別、だけです」
「衣服?」と、訝しんだ歩実の表情に、「あ、えーと。い、今着ている装備のままで、依頼に行くのでは、なく。なく、溶け込みやすくすることと、“貴方たちとはそんなに違いませんよ”と言うメッセージも兼ね、てます。衣服は、そのまま上に重ね着し、して貰うことに、な、なります」と、恐怖を覚えたのか、本日一番どもってしまう栄二であった。
「あぁ、野本君。そこまで怯えることはない、剣峰君はいつも通りだからな。それから、衣服の件は、木野下君が説明していた筈だが、忘れたか?」
「えっ? あっ、そう言えば、ありましたね。すいませ、ん? あーっ! あの、安芸さん。いつも通りって……。それって、普段の表情が怖いって言ってませんか?」
「いや、そう言う訳ではない。……剣峰君、勘弁してくれ、な。……すまん。野本君、続けてくれ」
「は、はい! え、えーと。衣服は、い、以上で。耶威磨で、つ、使われている武器は、“トン”と言うもので、こちらが、さ、三本でよろしい、ですか?」
「とん?」
「豚?」
「とん、と言えば豚よね」
「あ、え、いえ。……すいません。と、“トン”いうのは、こ……地球の剣、と言うよりは、か、刀に近い物です。や、“刃”に、に似た漢字がつ、使われていますね」
「へぇ」
「なるほど。豚じゃないんだ」
「そ、それでは。い、衣装担当と、刃を、持ってきます、のでお待ち下さい」
そう言った栄二は、やや慌てながら会議室を出て行こうとすると、待ちかねていたのか、「そろそろ良いですか?」と、ドアの外で待機していた男女数名がいたのである。
「えっ?」
「御社の社長が来ているんですよね。お待たせするのもまずいかと、待ってました」
「そ、そうですか。えー。それでは、採寸の方をお願いします。……す、すいません。……きょ、拠点常駐の、衣装担当の方が、み、見えてましたので、採寸から、は、入ります。後はお願いします」
「了解です」
そう言った男女数人は、会議室内に入っていくと、テキパキと、五人の採寸を行うのであるが、「服は持ってきていないのか? 使えないな」と、法雄が小声で呟くと、聞こえていたのであろう、衣装担当の年長と思しき男性が、「今日、明日は着ることがないからな。嵩張る物はいらんだろう?」と、ねめ上げるような、睨むような目つきで、法雄の採寸を行うこととなり、法雄は口を閉ざすのであった。
「お、お、お待たせしました。長短、あ、合わせて六本程、も、持ってきましたので、す、好きな物を、選んで下さい。こちらは、つ、鍔などの組み立て、をしてた、帯刀して頂いて結構です。で、で、ですが、くれぐれも、あ、扱いには気を付けて下さい」
「うむ。私は問題ないが、新人達は扱いに慣れていないか……。とは言え、慣れて貰わねばならないからなぁ。たな、いや、剣峰君」
「はい」
「真剣は、流石に持ったことは無いだろうな。どうだ?」
「ありません。ですので、取り扱いをどうすれば良いかは、悩むところです。あっ、ですが、鞘のような物があるのであれば、腰に下げる分には問題ないかと思います」
「ふむ……」と、智が思案していると、「安芸さん」と、勇が声を掛けるのであった。
「ん? 田辺君か、どうした?」
「先ほど、俺を呼ぼうとして止めましたが、何かありましたか?」
「あぁ、田辺君は聞くまでもなく安全に扱ってくれるだろうと思ったからだが、勘違いさせたか。すまん」
「いえ、それならば、問題ないです」
「つ……剣峰さん。さ、鞘は、こ、こちらにありますよ」と、栄二が、聞きようによっては媚びを売っているようにも取れる内容で、鞘を手渡していたところ、「うむ。すまんな。で、剣峰君の方だが、まぁ、大丈夫そうか」と、勇の返答に相づちを打ちながら、歩実に視線を向けており、栄二から鞘を受け取り安心したようである。
「鞘もあるようですし、後は……」と、歩実との遣り取りで、幾分か安心したのであろう智が、勇と歩実を交えて、刃を選んでいくのであった。
衣服の採寸、智、勇と歩実が刃を帯剣し終えた頃、「それでは、大分日も傾いていますので、本日から二日程泊まる、宿泊施設に案内します」と、栄二が会議室を出るように促すのであった。
「! す、すいません、野本さん。ぼ、僕達、このままの服装で表に出て大丈夫なんですか? ここって、余所の国? と言う事なんですよね?」
「あぁ、はい。えーと、も、森野さんで、でしたか。て、店舗があるこの、の周辺は、何処の国に、にも属していない場所ですから、大丈夫ですよ。それと、店舗の裏から出ます。そこから裏側の建物群は、店舗と同様に、空間倉庫の持ち物ですし、表から見えないよ、ようにしてあります。まぁ、ち、地球で言うバックヤード的、な物ですから、問題はありません」
「はぁ。そ、そうなんですね、ありがとうございます」
友実の質問に、歩きながら説明する栄二は、相手が同類と言うことも手伝ってか、どもりも少ないようであった。一方、丁寧な説明に対して、立ち止まってお辞儀をする友実に、「ふ~ん。友実ちゃん、いつになく饒舌ねぇ」と、いかにも含みがありそうに呟く歩実であった。
きょとんとする友実に、少々がっかりする歩実であったが、「こ、ここから、う、裏手に、で、出ます」と、栄二がドアを開け、順次表に出るのであった。
そこには、近隣の文明と同じ造りなのであろう建物が、東京の下町よろしくひしめき合っているのであった。
「わぁ。実家に帰ってきたみたいな、雰囲気です」
「あら、友実ちゃんの実家って、こんな感じなの? 何処?」
「山梨県の上原市です。建物がと言うより、この密集した感じですかね」
いつにない饒舌な友実に、思わず笑みがこぼれる歩実であるが、「フン! 田舎者が」と、呟いた法雄なのだが、「あらぁ? 外に出た時、驚いていたのは誰だったかしらね」と、歩実が、やや力のこもった視線を向けると「ぐっ」と、詰まらせる法雄であった。
「こらこら、はしゃぐな。その気持ちも分からんではないが……。野本君、先導を頼む」
智が釘を刺す一方で、「はい」と、栄二が遅くなった歩みを早めるのであった。
「ここです」と、店舗からほど近いやや古びた建物の前で立ち止まると、「木造建築? む。土壁、ですかね。随分古い……。いや違う。古びたような塗装ですか」と、勇がしげしげと眺めながら呟くのであった。
「そ、その通りです。ま、万が一、こちらに、交流……のある住民が、紛れ込んでも、わ、分かりにくくしてあります。その筋の人が見れば、ば、ばれそうですが」
「と言う事は……。外見は古そうで、この辺りの住居に似せているだけ。と言う事ですか?」
「そ、そうなります。部屋の内装と家具などは、地球準拠にしてあります」
宿泊施設の入り口前で、質問と検証会が始まってしまったようであるが、「……そろそろ、宿に入らないか?」と、智が促すと、「す、すいません」と、平謝りする勇と栄二であった。
「いやいや。もう、日が完全に落ちてるし、時差的な調整をする必要があるしな。宿の予約は問題ないな?」
「はい、予約済みです。社長は、ご、ご存じだと思いますが……」
宿泊施設に入りながら栄二が説明していると、「いらっしゃいませ。本日の予約はありますでしょうか?」と、受付にいる人物が声を掛けてきたのである。
「は、はい」
「おや? 野本さんではないですか、お疲れ様です。……と言う事は、後ろにいらっしゃるのが、今晩から二日の予約をされている方々ですね」
「は、はい」
「説明されていたようですが、ここからは、私が引き継ぎましょう。……宿泊施設は、派遣単位に付き、最大一〇名まで、まとまった区画で部屋割りし、出入り口に隣接するのがミーティングや寛ぐスペース。所謂、居間になります。そして、奥に個別の寝室で構成しております。ミーティング場所があるのは、部外者に聴かせられない話が出来るようにとの配慮です。……大雑把にはこのようになっております」
女性陣には、若干不満があるようではあるが、「まぁ、一般的な出張とは若干違うからな。多少は我慢して貰う他ない、とは言え、最低限のプライバシーは守れるだろう」と、智が、助け船を出すように語るのであった。
「そうですか。……そうですね」
納得がいったような、そうでないような、複雑な表情をする歩実であった。
「ま、とりあえず。晩ご飯を食べて、早々に……。そうだ! 野本君、明日はいつ頃店舗に入れば良い?」
「あっ! そう、うでした。お、お時間を、お伝えし、ていませんでした」と言いながら、持っていた袋から目覚まし時計を一つ取り出し、「こ、この惑星で、のし、始業に合わせて、アラームが設定、されている時計です。と、と言いまして、ても。地球時間で、ひ、表示さ、されません、ので……。日本の感覚ですと、起床時刻まで、大凡、五~六時間程……」と、言いかけたところで、「そ、そんな時間、な、な、なんですか、は、早くね、寝ないと!」と、慌て始める友実であった。
「落ち着け! 感覚的にと言う話だろう? この惑星上の時間ではどれくらいあるんだ?」
「す、す、すいません! え、え、えーと。あっ」
「野本君も落ち着きなさい」
「は、はい」と、か細い声を出した後、深呼吸をして、「も、申し訳ありません。先ほどの時間は、あくまでも感覚であって、実際の時間では、あ、あ、ありませんので。ここでの時間は、い……今の時期ですと、ま……まだ、朝まではじ、一〇時間程あります」
「だそうだ。もう少しは、大丈夫か?」
「は、はい。すいません、あ、慌てました」と、尻すぼみになってしまう友実であった。
「とは言え、こうやって話しているうちにほぼ夜だ。……なるほど、時間の進む感覚が早く感じる。さて、今度こそ晩ご飯を食べて、食休み後に寝るとするか。あぁ、各自、野本君から目覚まし時計を受け取るのを忘れるな」
業務である以上、仕方がないと半ば諦めに似た表情の歩実も含めて、「はい!」と返事をするのであった。




