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文章内で、数字が漢数字なのは、縦書きで執筆している関係ですのでご了承下さい。
架空の言語が出てきますが、掲載先の使用フォントの都合上、不揃い、または、半角に見えない場合があることをご理解下さい。
<登場人物 設定書抜粋>
田辺 勇/たなべ いさむ
西暦1996年04月04日 男
体格:見た目はやや太い。
頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。
顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。
性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
安芸 智/あき さとし
西暦1980年10月10日 男
体格:ほぼ、日本人と言える体格。同と足の比率は半々。
頭髪:黒が基本の焦げ茶の髪。分け目はないが、ざんばらではない。耳が半分ほど隠れる長さ。
顔 :釣り目気味。ややグレーが入った瞳。耳はとがっておらず、現代の日本人と同じ。鼻筋は通っており白人風。
性格:荒くれ者はなりを潜めているが、こと戦闘になると箍が外れることもある。お人好し寄りで、来るものは拒まない。だが、出て行こうとすると引き留めようとするもろさがある。
森野 友実/もりの ともみ
西暦1998年06月06日 女
体格:下半身が筋肉質であり、上半身とはアンバランス。
頭髪:赤茶の入った黒で天然パーマ。耳が隠れるほどの長さ。
顔 :やや幼さのある造形。目は大きめで黒い瞳。鼻筋は見えない小鼻。
性格:性格はおおらかであるのだが、口数が少なく強くもの頃を言えない性格もある。また、優柔不断な一面もある。
山国育ちであり、自然が大好きで、野山を駆け回っていたためか、かなりの健脚である。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
<登場組織・国家 設定書抜粋>
株式会社 舞王/まおう
命名の由来:初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。
事 業:
アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。
西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。
他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。
特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。
<登場道具 設定書抜粋>
アゼニウム/ア素
概 略:第二次大戦後の日本で発見された新元素。但し、公に出来ない元素である(西暦2017年時点では前者を使用)。また、空気中にガスとして存在するが、アルミニウムと同量の元素量を持つ。
命名の由来:あくまでも、(株)舞王、(株)空間倉庫に関係する組織での呼称である。当初は、“ア素”と仮の名を新たな元素という意味と、発見された経緯などから命名される。後に、化学の周期表上で、アルミニウムの原子量を持っていることから“ニウム”が付与され、(株)舞王と(株)空間倉庫では“アゼニウム”と命名。
発生 原理:空気中にガスとして存在するが、何故戦後になって発見できるようになったのか、専門外であるため不明のままとなっている。
無物質特異化現象/むぶっしつとくいかげんしょう
概 略:新たな現象、あるいは事象のことを指す名称である。ゲームの魔法と似ているところがあるため、“魔法”と呼ぶ者もいる。
命名の由来:物質が無いところで、特殊/特異な現象が起こることから。
発生 原理:“アゼニウム”が現象の発生原因と仮定。後の研究で、“儚 (ぼう)素”と命名した同位体が触媒となって事象を起こす。
空間特殊穴=ワームホール(虫食い穴)
概 略:位相幾何学の中であり得るのではと考えられている構造であるが、今のところ解明できていない。何を持って構成されているのか、何を以てそこにあるのか、今のところ解明できていない。
命名の由来:リンゴの虫喰い穴に由来する(ウィキペディアより抜粋)。
発生 原理:今を以てして、この現象の発生した理由、原理は不明であり、維持するための電源となる物は判明していない。
戦略・戦術習得模型
概 略:架空のシミュレーション・システム。模型とある通り、当初は盤上であったが、技術が向上するにつれ、コンピューターを使った物へと変化している。コンピューター時代とは言え、未だ盤状の物も改良され続けている。
命名の由来:後年、通称が“ボダイジュ”となった。一つだけだった盤が、複数組み合わせに発展したことから、複数に枝分かれする木が広がりを感じたこと、霊験あらたかなイメージが強い“菩提樹”にあやかったようである。
発生 原理:模型とある通り、当初は盤状。現代では、コンピューターのシミュレーションで、自社ゲーム開発における演算システムを応用している。
「えっ? この渓谷に誘い込めれば、良いのよね」
「そうなんですが……。よし。剣峰さん。こっちは準備完了です」
「待ってよ、田辺君。社長の軍は、何でか、誘いに乗ってくれない」
「既にばれてるんじゃないですか?」
智からの説教を受けた翌日。勇と歩実は、どうやら智と、数台の箱状の装置、モニターを配置して、対戦ゲームのようなものを行っているようである。
何処でやっているのかと言えば、派遣課の練習場にある地下で、地下四階を一望できる三階部分の部屋にいるのであった。
――ほうほう。これはあれか? 山岳地帯のセオリーとも言うべき、渓谷に誘い込んで上から攻撃か。ふむ。まぁ、悪くはないが。読めてしまっては、難しくもないか。
「ふむ。ではこうしよう。右翼の後衛である弓兵を……。そうだな、右側の尾根から登らせて……」
二人がかりの作戦は、山岳地帯の頂上側から、と言う事であれば、割合とオーソドックスな戦略と言える。まだまだ、ひねりを加える事が出来る程に至っていないのは、戦争などとは無縁の世代と言うことなのであろう。
「嘘、だめ? ちょっと、田辺君。今出てこられると……。あ~」
「口程にもない。やはり、俺が指揮全般を取らないとだめだな。何故、大規模な無物質特異化現象を打ち込まない。そうすれば簡単に終わる」
「はっ。尾川君。この二人以前の君に、どんな指揮が出来るというのか。いい加減、上に立とうとする考えは捨てるべきだな。それと、だ。何故そう大規模に拘るのか……。そもそも、山岳地帯などでは、地形を変えるくらいでなければ不可能なんだがな。まぁ、今の状態で、そんな大規模な無物質特異化現象は生み出せないからな。更に不可能と言っておく」
「なっ! 社長と言えど、今のは酷すぎます。撤回して下さい!」
「撤回などしてやる必要も無い。……まぁ、二人の方は、初めての作戦立案にしては、善戦した方じゃないか?」
相も変わらない法雄に、冷たい視線を向けつつ語る智がいるのであった。
「褒めて頂いたようですけれど、立案の時間に対して、シミュレーション時間が三〇分とは、情けなさ過ぎます」
「まぁ、初めてだから、しょうがないんじゃないですか?」
「田辺君は、悔しくないの?」
「いや、悔しいですよ。でも、最初っから上手くいく筈ないでしょう」
「でもぉ」
「まぁ待て。剣峰君の悔しさも、田辺君のそんな物だろう、と言う事も理解出来る。次の立案が出来たら教えてくれ、コンピューターを使えるのは今日だけだからな。時間を無駄にするなよ。……さて、その間に、二人の訓練をしようか」
そう言った智は、法雄と友実を伴って、四階へと降りていったのである。
「次はどうしよう」
「それは、これから考えましょう。……でも、このシステムはすごいですね。流石ゲームを開発している会社だけある」
「ん? あぁ、これね。対戦形式の戦略シミュレーション、“ボダイジュ”って言うんだっけ? 対戦者側は一人称固定で、別のモニターは鳥瞰視点で見れるんだよね」
「そうですよ。それに、兵装も時代設定でいろいろあるらしいんですが、デフォルトが中世なのは、何故なのか疑問ですけれど」
「それは、あれじゃない。ワームホールの先にある文明が中世に寄っているからじゃない?」
「あぁ、そうかも知れないですね。まぁ、それはそれで疑問はありますけど」
「あの。社長?」
「ん? 森野君、質問か? 珍しいが、どうした?」
「う~。僕は、いろいろ言えないところは、あ、ありますけれど、酷いです」
「す、すまん。で、何が聞きたい?」
「えーとですね。さっきのシミュレーション? ですけど。社長は、二人の作戦を知っていたんですか?」
「あー。……当然のことだが、事前に知ることはお互いにしていない。それをしてしまっては、訓練の意味が無いからな。では、どうしてか。押してきていたのが、引き始めたところ。最初は、押し勝っているかとも考えたのだが、彼らの兵を薙ぎ払っての押しではなかったんだ」
「どう言う事ですか?」
「こちらの兵が、向こうの兵を切り払って押しているのであれば、向こうの兵士数が減るから勝ちに行けるのだが。向こうの兵が引くことによって、ぶつかっている場所が移動しているとすると、どうだ?」
「えーと。? あ、あの……」
四階に移動する間にでも、聞こうと考えたのであろうが。話の途中で、既に四階に到着したことに気が付いた友実であるが……。
「はっ。それくらい直ぐ分かるだろうに。これだから大卒でない奴は使えん」
「ほう。では尾川君、答えて貰おう」
「えっ? それは……。あれですよ……」
「何だ? 知ったような口をきいていて、大卒は直ぐに答えられるんだろう? さぁ、どうした」
「……」
「ふむ。地下四階に移動し終えているから、答えを言っておくか。すなわち、兵の損耗を少なくしつつ、有利な場所に移動する。つまり、こちらを上から攻撃する可能性がある、あるいは、罠の類いを用意していると言ったところだな」
「すごいです、社長!」
「まぁ、実際の人でやろうとすると、かなりの実力が必要だが、地形を利用する戦略は理にかなっている。多分、剣峰君が主戦略を考え、田辺君が補完したんだろうが、只組み込んだだけだったからな、与しやすかったぞ。まぁ、このまま二人で試行錯誤していく内に、良い具合の戦略ができてくるんじゃないかと思う」
三階の窓を見上げるようにして語る智は、将来が楽しみであるかのような笑みを浮かべるのであった。
「もう一つ良いですか?」
「手短にな」
「もし。もしも、僕の壁作りが、もっと大きく。味方の陣地を守れるくらいまでになったら、その、剣峰さんと田辺さんの役に立てますか?」
「ふむ。……悪くない考えだな。……! あれか! うーん。なんと言ったか。前に読んだ、戦争物の作品に出ていたな。えーと。……! そうだ! トーチカだ!」
「とーちか? 僕は、戦争とかきらいなんで、そ、その手の物は、よく分からないんですが。何かあるんですね。僕、それが作れるようになりたいです!」
「はぁ。おん……。森野が、何を言っている。お前ごときが、誰かの役に立てる筈ないだろう」
「おぉ。会話に入ってこないから、興味が無いかと思っていたが。ここで、否定するか。流石に、精神的苦痛を与えるタイミングはバッチリだな」
「それは、褒めているんですか?」
「おいおい。相手の心をくじくことがか? そんな筈はないだろう」
「では、どういうつもりで言ったんですか」
「どうもこうもないだろう。まぁ、君にとっては自分がすごいと言いたいのだろうがな。……さて、森野君。尾川君の言ったことなど忘れなさい。君の発想の方が、数万倍良いことなのだから」
智の言い分に、やるせなさ、憤りを感じずにはいられない法雄であった。一方の友実は、智に元気づけられ、満面の笑みを浮かべるのであった。
*
「あの。安芸さん」
「剣峰君、どうした。何か問題でもあったか?」
「非常に言いにくいんですが。これは、遊びではないんですよね?」
申し訳なさそうに呟く歩実であるが、聞いている智は、満面の笑みを浮かべており、随分と楽しんでいる様子である。方や、勇はと言えば、ブツブツと独り言を呟いているのであった。
「田辺君? 黙々と駒を設置しているようだけど、これは酷いわよね?」
「えっ? 何ですか? 考えてましたから聞いてませんでした」
「あぁ。まぁ、安芸さんの方も、楽しそうだから良いんですけれど。昨日とは雲泥の差ですよ? これ」
「……ん? あぁ、これか。これも、コンピューターで実現できるまでは主力だった物で、“ボダイジュ”と言い始めた物だな。……ジオラマみたいで良いだろう」
「はぁ。と言うか、何故四階でこんな物広げてるんですか」
熱く語りたそうにする智に対して、全く興味が無いと言わんばかりに、感情すら垣間見えない返答をする歩実であった。
「三階に、コンピューターシステムとこれを両方並べるスペースがない。移動がまぁ楽(それなりに重量はある)で、電源もいらないこっちが、ここに来るのは仕方ないだろう。それにな。これはこれでいいんだ。だが、少々問題があってな」
「まぁ、確かに。盤を幾つか運んでくっつけるだけですから。それで、問題って何ですか?」
「うむ。コンピューターと違って、戦闘のシミュレーションまでは出来ない。まぁ、熟練の戦士とか、弓を扱えば負けなし。などと言った、固有の力量と言えばいいのか。それが表現できない上に、“実はこんな特技が”なんて、後出し設定を出せるからな」
「あぁ。それはだめですね」
「そうなんだよ。だから、使い道としては、主に戦略を見ると言ったところが限界だな」
「……あっ、これなんてどうですか? 剣峰さ、ん?」
「……あっ。ごめんね。今、安芸さんとボードゲームの話をしてたから」
「ボードゲーム?」
「こらこら、違うだろう。この“ボダイジュ”について語っていただけだろう。ボードゲームと言うな、間違えるだろう」
「えっ? あぁ、そうでした。申し訳ありません」
「ん? 安芸さん。これも“ボダイジュ”って言うんですか。コンピューターのシミュレーションと同じですね」
「あ、あぁ。コンピューター以前の物だからな。まぁ、そろそろお互いの戦略を見てみるか?」
「えっ? 安芸さんもう終わってるんですか? いつの間に」
「何を言っている。並列で処理できないでどうする」
そう言いながらも、駒を並べている智であった。歩実は、全く手を動かしていなかったため、慌てて勇の手を確認しつつ、ざっと駒を並べるのであった。ちなみに、盤の中央には仕切りが設けてあり、立って覗き込まない限りは見えないよう工夫されている。
「それでは、見てみようか」
智が中央の仕切り盤を下げると、双方の陣と陣形が丸見えとなった。智が「ほほう」と、歩実と勇の陣形を見るなり、感心したようである。
勇と歩実が陣取っているのは、山岳地帯の裾野である。歩実が設えた陣形は、V字型で両サイドが突出した形である。進軍を基本としてはおらず、迎え撃つことを基本としている布陣である。方や勇が設えたのは、高度を生かした邀撃ともとれる布陣である。
「ふむ。田辺君と剣峰君の陣形だが、剣峰君のV字型が、田辺君の邀撃を妨げてしまっているな」
「えっ? それは、二段構えの布陣と言うことには成りませんか?」
「ふむ。どうだろうな。剣峰君は両サイドの陣が崩れた後、田辺君の高角度の邀撃を想定してたのか?」
「えーと。そうではなく、両サイドに流れてきた相手を、地上と上からの両面で減らす事が出来ると」
「えっ? そう言うことを考えていたんですか? 俺はてっきり、両サイドは中央に押し出すための布陣で、高台の布陣は、確実に中央に押し出す威嚇が目的だと」
「おいおい。話し合っていないのか?」
「全くしませんでした」
勇の返答に、天を仰ぐ智であった。その仕草に、二人共俯いてしまうのであった。
「良いか。どんな戦略であっても、複数人で思案するなら、腹を割って話をしないと意味のある陣形は出来ないな。と言う訳で、次の戦略を練ってくれ」
「はい。それと、安芸さんの方を見てないですが?」
「基本が出来ていないのに……。いや、そうか。俺の陣形を見て分かるかな?」
智の陣形は、中央に足の速い騎馬、左右が足の遅い歩兵である。後ろには、弓兵が陣取っていた。
「まず。開戦直後、騎馬隊が突進する、と同時に、弓兵が一斉謝する。すると、相手は出鼻をくじかれつつ騎馬隊に襲いかかってくることになる訳だ。で、遅れて歩兵が左右から挟撃することになる」
「あっ。なるほど、騎馬隊に集中していたところに、歩兵で、騎馬隊に攻撃していた兵の左右を崩しにかかる、と」
「まぁ、大雑把にはそうなる筈だな」
「で、こちらの陣形とぶつかると……。あっ! V字の両翼が、良い具合に騎馬に向かったりすると、歩兵にやられますね。逆に向かわないと中央が持たないかも知れないですね」
「えっ? う~ん。……あぁ、なるほど。これだとだめだわ」
「まぁ、まだ作戦立案も始めたばかりだ。今でも及第点に届きそうなくらいだからな。さて、あの二人をしごいてくるか」
そう言った智は、勇と歩実を残して法雄と友実の指導に向かうのであった。
「さてさて。二人はどうかな? おい、尾川君。君は何をしている」
「何、と言われるなら。……そうですね。如何にして、俺のすごさが分かるかを考察していました」
「君は……。後衛として何をするか、ではなく。君自身のことについて考えているとは。……いい加減にしなさい!」
いきなりの剣幕に、法雄は一瞬ビクッと体を震わせ硬直するも、「自分を見せなければ、上に上がれないではないですか」と、自己を誇示することに拘り続けているようである。
「あぁ。まだそんなことを言うか。……とりあえず、何か考えついたのか聞いてみようか」
「はい! 全員に攻撃させている間に……」
智に聞かれたことで、満面の笑みで自分が如何にすごい人物であるのかを、見せるためだけの方策を語るのであった。
「はぁ。全く話にならんな」
「えっ? 何処がです」
「全部だ」
「そ、そんな筈は……。大学首席卒業の俺が考えた物が、話にならないなんて。何処をどう直したら、良いと言うんですか!」
「最初から……。違うな、前提から考え直す……。これも違うな。尾川君の考え方から改める必要がある」
「俺の考え方?」
「まぁ、今の君には見つけられないだろうが、考えてみると言い」
智に、なぞなぞでも与えられたかのように、ブツブツと考え始める法雄であった。社長と言う肩書きがある智に言われなければならない時点で、かなり問題児と言って差し支えないであろう。
「さて……。尾川君は放っておくとして。森野君」
「は、はい!」
「うむ。元気な返事が出来るようになったことは進歩だな」
「あ、ありがとうございます!」
「さて、水系や火系統は、上手く扱えるようになったか?」
「そ、それが、で、ですね」と、一変して、どもるだけではなく、やや俯いてしまう友実であるが、「そう怯える必要はないぞ。最初から上手くいく奴など希だ。それを怒る者がいるなら、そちらの方がどうかしている」と、智に諭された友実は、「あ、ありがとうございます。火系統はやっと種火からは卒業できたと思います。水系統の方は、まだ、水道程度の水量しか出ません」と、自身で語りながらも、がっくりと肩を落としてしまう友実であった。
「なるほど。で、土壁の方はどうなった?」
「はい! そっちはバッチリです。立ったままでも隠れられる程に高く、それでいて強度も大分上がりましたから、銃撃程度では崩れないと思います」
「ほう。相当の自信があるようだな」
「はい!」
「それで、トーチカのような物は出来そうか?」
「それなんですが、“とーちか”ってどう言う形をしているんですか? 僕は、戦争関係の物は全く分かりません」
「ん? 昨日はネットとかで調べたりは、していないのか」
「えっ? あぁ、そうですね。僕は、パソコンを持っていませんので、調べられないです」
「んん? スマホで調べれば……。スマホも持っていないのか?」
「はい。電話が出来れば良いので、ガラケーのままです」
「なるほどな。上に行くか。尾川君、私と森野君は少しこの場を離れるが、先ほどの考察を続けておくようにな」
「は、はい! 分かりました」
法雄に、余計なことをさせないためなのであろう、釘を刺していくことを忘れなかったのである。そして、――剣峰君と田辺君の方は、まぁ、あの二人であるなら問題ないか。尾川君に意識を向けさせない方が良いだろう。――と、思案したことから、二人には声を掛けずに地下三階へと向かうのであった。
「さて、森野君ちょっと待っていてくれ」
地下三階に辿り着くや、友実の返事を待たずにロッカールームに入っていくのであった。
「待たせたな。トーチカとは……。これだな」
そう言って見せたのは、自前のスマホで検索した画像である。
トーチカとは、要塞や城塞と言った物とは別で、簡単に言えば、地上付近を盛り上げさせ、中から銃撃などが行える穴を開け、それ以外を壁で覆った物である。
「えーと。この丸いのや四角いのがそうなんですか。あっ、この穴って何ですか?」
「まぁそうだな。その穴は、機関銃などで銃撃することや、相手を観測するための物だな」
「ふ~ん。そうなんですか。で、これを作るんですよね。と言う事は、その中に隠れるんですか?」
「まぁ、そうなるかな。とは言え、ある意味、移動中の拠点のような物にもなるだろうから、薄べったい物である必要はないんだが。……出来そうか?」
「やってみます」
「よし。その意気だ」
「はい。では、早速」
そう言った友実は、目標が出来たことだ嬉しいのか、意気揚々と智を置いて地下四階に向かっていくのであった。
友実に遅れてやって来た智が、「早速やっているな」と、声を掛けると、「はい」と、法雄からは離れた場所で、早速トーチカのような物を作り始めていたのである。がしかし……。
「しかし、これは……。箱、になるのかな?」
「はい。そのつもりなんですが。どうしても屋根の部分が、ふにゃっと成っちゃうんですよ。強度不足なんですかね?」
「そうなるのかな? まぁ、もう少しやってみるといい」
「分かりました。いろいろ試してみます」
そう言った友実は、上手くいかなくても大丈夫であることに、安心感を覚えたようである。
――さて、問題児はどうしたかな。
友実の方が一段落したことから、法雄の元へと向かうのであった。
「尾川君」
「……。は、はい」
「それで? どう考えた?」
「はぁ。社長が言う考え方を変えるというのが、良く理解できないですね」
「なるほど。では、班員のために、何が出来るかというのを考えてみてはどうだ」
「班員のため? ……それはおかしいですね。班員は俺のために何をするのかを考えるのが妥当だと思います」
「それだ」
「はっ?」
「だから、その班員が君のために何をするのかを考えろ、と言うところだ」
「えっ? それは、俺が大卒なんですから、当たり前のことでは?」
「いや違う。それでは、誰かと何かを成すことは出来ない」
「はぁ。……それは、つまり。俺だけではなく、あいつらと共同で行う、と言う事ですか?」
「そうだ」
「ふむ。それなら、今でもやってますね。俺が成すことがあいつらの成すことですから」
「違う! そうではない。友人関係であれば、話し合ったりして目標を決め、それに向かって出来ることを協力することだ。会社で言えば、業務を滞りなく進めるために、協力して進めることだ」
「なるほど。そうすると、俺の役目は、あいつらを導くことですね。分かりました」
「……全く違っている。導くことが君のやるべき事ではない。君がやるべきことは、剣峰君、田辺君、森野君と、同じ立場で互いに苦手な部分を補って、事に当たることだ」
「それには意義があります。首席卒業であることから、既に同じ立場ではありませんから」
「あぁ」
分かりやすく伝えたつもりである智であったが、ここまで伝わらない物かと、天を仰ぐのであった。
「……分かった。では、私の指示には従えるか?」
「当たり前です。社長なのですから」
「よし。……では、指示を出そう。尾川君は、まず、規模の小さい……。そうだな、野球のボール程度の火球を連射できるようになって貰う」
「分かりました。一つだけ、よろしいですか」
「何だ」
「それだと、俺の威厳を示せませんが」
「……。君の威厳は、私の指示より上だと?」
「あっ、いえ。失礼しました。指示に従って、野球のボール程度の火球。火炎弾でよろしいかと思いますが、これを連射が出来る様にします」
軍隊ででもあるかのような、遣り取りをする智と法雄であるが、智の方は、いささか嫌気がさしているようにも見える表情であった。
――社長の命令だ。なんとしてもこなさねば、俺が上に立つ者であることを証明する。
法雄は意気込んだものの、法雄にとってはかなり難しいことだったようで、「くっ! 何で、これしきのことが!」と、小さい火球を作り出すことに、かなり苦戦しているようである。元々、小さいことで何かを成すより、大きな事を派手に行うことで自身の優位性を見せてきた弊害、とでも言えばいいのだろうか。自ら、苦手なものを作ってきたと言えるようである。
――この程度のことが、何故出来ない。待てよ……。
法雄は、突然大きな火球を作り出したのである。「ははははは。やはり、俺にはこちらの方が性に合っているようだ」と、呟くも、――しかし、社長からの命令は絶対である筈。だとすると、その命令に従わない限り、上に立てないのではないのか? そうならば、やらないといけないか。
自問自答しながら、法雄は、智の指示を守るべく、小さい火球の連射が出来るように、ようやく努力を始めるのであった。
法雄に指示を出した智は、ふらりと歩実と勇の元へとやってくるのであった。そして、開口一番。「あぁ、誰だ! 尾川君に合格を与えた奴は!」と、いきなり怒りをぶちまける智に、向かい合って戦略を練っていた歩実と勇が、顔を見合わせて目をぱちくりさせるのであった。
「安芸さん? 何かありましたか?」
「田辺君。私はな、いろんな若者を見てきたが、尾川君はひと味違うな」
「はぁ。まぁ。安芸さんにそこまで言わせるのは、ある意味、凄いですね」
「安芸さんにも、あの馬鹿のすごさが理解出来たことは、私としては嬉しいですね」
「剣峰君。怒りを抑えてもらえないか。確かに、あれは一筋縄ではいかんな。田辺君が言った、“責任を取らせる”と言うのもありかもしれん。まぁ、それはさておき。作戦立案の方は、進んでいるかな?」
「あっ。え~と……」
「……だめですね」
「おやおや。……すると、剣峰君の正攻法が、正当すぎて田辺君の工夫が生かせきれないか」
「!」
「流石です」
「なるほど。剣峰君の方も、考え方を変える必要があるのかな?」
法雄との会話に比べ、和気藹々となった勇達との会話に、心を穏やかにしている智であった。一方、トーチカ作りに奮闘している友実はと言えば……。
――う~。天井の強度を上げると、重すぎて落ちる。僕も落ち込みそう……。
「じゃない! やっと役に立てそうなことが見つかったんだし、箱形はだめ? 写真の中に、円形もあったし、そっちも試した方が良いかな?」
そう呟く友実は、箱形を遺棄して円形型の挑戦を始める。しかし、曲げの部分でなかなかに強度不足が相次ぎ、倒壊する羽目となるのであった。
「ふむ。只盛り上げるのではなく。ブロックにして積み上げてみる?」
――あぁ、でも。積み上げるには浮かせないといけない、よね。そうすると、何を使って浮かせる?
「むむむ」
眉間に皺を寄せる程に唸りを上げる友実であったが。「! そうだ、風!」と、大声を出してしまい、離れた歩実と勇、智の視線を集めることとなるのであった。そして、赤面して蹲るのであった。
――何やってるかなぁ、僕は。恥ずかしい。
しばらく蹲っていたものの、勇気を出して立ち上がると、――風って、どう起こせば良いんだろう? 一応、今使っているメモリの中に、何かあるかな。――と、徐に、杖に内蔵されている、小さい液晶パネルに一覧を表示させて、使えそうな無物質特異化現象を探すのであった。
「文字が小さい。う~」
唸りながらも目をこらし、探し続ける友実であったが……。「あった!」と、とっさに声が出て口を押さえるものの、既に出てしまっており、恥ずかしさに俯いてしまうが、「大丈夫。頑張れ、僕」と、言い聞かせることで、萎縮しそうになるのを押さえるのであった。
「温度差を生み出すってことは、天気予報でいっていた、上昇気流? が発生する筈? となると、最終的に風が生み出せる?」
――でも、それって、広範囲でって事になる、のかな? 今欲しいのは小さい範囲だから、上手くいくかな?
「うん。やってみよう」




