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灰騎士物語  作者: トキバカナリ
追の章
137/155

【学園祭編】 エピローグ

「学園祭お疲れ様。すまないね、片付けの最中に呼び出して。生徒会長だと周りに指示をしないといけないからさらに忙しかったかな?」

「いえ、問題ありません。精霊科一年は優秀な副会長がいるので安心して任せられます。それに指揮に関しては彼の方が長けているので忙しさは変わらなかったかと」

「はは、それはよかった」


 呼び出されることが恒例になりつつある学園長室。

 部屋の長であるアルフォスと訪問者であるセルティアが簡単な挨拶を交わす。

 森羅学祭が何事もなく無事に終わり、今は授業を返上して学園関係者一同が前日の祭りの後片付けをしている真っ最中だった。外からは学園祭の熱気冷めやらぬ喧騒が聞こえ、平和な日常を彷彿とさせる。


 それと同時に、逆にそこから摘み出された自分たちには何が待ち受けているのだろうか、とセルティアの隣にいたルダージュは邪推もしてしまう。アルフォスの「ささ、座って座って」というにこやかな笑みにはどのような裏があるのかと警戒心が高まる。


「ルダージュもお疲れ様。君が考案した精霊喫茶は大反響だったそうじゃないか。あれは異世界では有名なのかい?」

「詳しくは知りませんけど世界的に有名だったと思います。少なくとも俺の国では認知されてましたね。もちろん精霊はいないので別の生物が主役でしたけど」

「おっと、卑屈にさせてしまったかな?」


 慌てたようにアルフォスが取り繕う。ルダージュの“精霊はいない”という台詞を自虐だと捉えたのだろう。だがその段階はもうすでに過ぎ去っている。


「心配いりませんよ。事実を述べただけですから。俺がいた世界には様々な動物がいてコンセプトカフェが流行ってたんです」


 そう言ってルダージュは魔装で犬や猫、梟の形を作りだす。


「ドーブツ? 魔物みたいなものかな? 異世界の生物というのは興味深いね」


 異世界には動物がいないため魔法では翻訳されない。ルダージュは過去の経験から知っていたので口にしないようにしていたのだが、ここには彼の事情を知る者しか集まっていなかったのであえて口にした。


「メイド喫茶や執事喫茶も世界規模なのかい?」

「あれは……たぶん俺がいた国だけかと」

「楽しそうな国だね」


 一言で片づけられてしまい、ルダージュには何とも答えに窮する反応だった。偏った知識だけでは誤解を生みそうなのでもっと色々と話したいと思ってしまう。だが、放置したところで元の世界に帰れるわけではないので特に問題もないように思えた。


「楽しいと言えば、ルダージュは僕からのサプライズは楽しんでもらえたのかな?」

「ごほっ」

「サプライズ?」


 ルダージュが咽せ、セルティアが首を傾げた。

 サプライズとは当然アルフォスの姉であるオリヴィエとシルヴィエのメイド姿のことである。突然の追求にルダージュは思わず赤面し、隣に座っているセルティアに顔を見られないようにあらぬ方向を向いて誤魔化した。

 セルティアはそんな彼を不思議そうな顔で見つめている。

 

「その顔から察するに喜んでもらえたようだね。僕として安心したよ。これは将来も期待できるし安泰かな」


 にこにこと悪戯が成功した子供のような、それでいて家族の幸せを願う弟の笑みをアルフォスが浮かべる。ルダージュとしてはそんな彼の言葉を否定することはできず、かと言って彼女たちの家族に素直に頷く勇気も持ち合わせてはいなかった。


「……ゆっくり話し合う機会を貰えたことは感謝してます」


 だから辛うじて口にできる本音の1つを告げることにした。


「そういうことにしておこうか」


 アルフォスが頷く。

 全てわかっていると言いたげな笑顔だった。

 そして隣にいたセルティアも2人の様子と会話から理解が及んだのか同じように「そういうことですか」と納得し、ルダージュの腕に抱きついた。


「セルティア? どうした?」

「教えてくれなくてもいいですし、後で教えてくれてもいいですけど。今はとりあえず抱きしめられてください」

「それは……いや、でも学園長の前――」

「むー」


 わざとらしい膨れっ面を作りこれ以上の譲歩はしないと訴えるセルティア。強引に詮索しないところはとても彼女らしいしそういうところが好きだと感じてしまうルダージュだったが、いかんせん姉妹の弟(アルフォス)の前というのが気まずい。

 どうしたものかと頭を悩ませるが「気にしなくていいよ」と当の本人から援護されてしまう。


「見慣れた光景だしね。姉さまへのアドバイスも捗る」

「アドバイスって……また何をするつもりですか?」

「それはその時になってのお楽しみってことで」


 これ以上は藪蛇になってしまいそうだったのでルダージュは気持ちを切り替えることにした。


「それでセルティアと俺が呼び出された理由を伺ってもいいですか? 至急学園長室に来てくれと秘書のお姉さんから頼まれてここに来たんですけど……もしかしてサプライズの話をしたかったから、じゃないですよね?」

「それは勿論したかったに決まっているじゃないか。でも本題は別件だよ」


 アルフォスはそう言って立ち上がり、仕事机に置いてあった2種類の手紙を持って見せた。一枚目は普通の紙と蝋で封をされた封筒。そして二枚目は、


「もしかして湖(みずうみ)の園(その)からの手紙ですか?」

「よく知ってるね。さすが生徒会長だ」


 深い青色の水面に油膜のような虹色が浮かんでいる――と連想させるような不思議な封筒だった。ルダージュには馴染みのない紙であり、湖の園というのも初めて聞く名称だ。


「どこかの施設の名前?」

「いいえ、湖の園――名をアクアリゼル。ここから南西にある広大な湖を領土の代わりとした水中都市です。またの名を“人魚の楽園”と言います」

「人魚!? この世界には人魚もいるのか? こう上半身が人で下半身が魚の」


 興奮しつつも慌てて魔装で人魚を作る。

 それを見たセルティアは――普段なら喜ぶところなのだが今回に限っては複雑そうな顔で、


「ちょっとエッチですね」


 と冷静な評価を下した。

 ルダージュは「そ、そうかな」と平静を装いつつ、慌てて人形を霧散させた。まさかセルティアからそんな返しが来るとは思っても見なかったので気恥ずかしくなってしまった。


(人魚のお姫様をイメージして作ったのは失敗だったか? 胸に貝殻はやりすぎたか……でも先入観が強すぎて水着に変える選択肢がなかった)


 ぐるぐると言い訳を考えるが最初から男の人魚を作ればいいという発想は出てこなかった。だが、後にわかることだが例えルダージュが元の世界の知識を元に男性版人魚を魔装で作ってもセルティアはその造形をエッチだと評価しただろう。なぜならルダージュとセルティアの知っている人魚という種族には決定的な違いがあるからだ。


「……ルダージュはああいった露出の激しい服も好みなんですか?」

「好みというか俺がいた世界だと人魚は大体あんなイメージ……ってか“も”ってなんだ“も”って」

「ルダージュの世界では人魚はあんなに薄着なんですね」

「断っておくけど俺の世界では人魚は架空の生き物ね。魔法と一緒で存在してない。さっきの人形は……童話とか絵を参考に作っただけ」

「でも好きですよね」

「えっとそれは……」

「好きなんですね」

「……」

「ね?」

「はい、好きです。すいません」


 有無を言わせぬ気迫に押されつい肯定してしまう。

 残念ながら嘘は言っていないし本当のことなので謝罪の言葉すら出てしまっていた。


「わかりました」

「なにが!? ……え? もしかして着ようとしてる?」

「……」


 今度はセルティアが赤面しあらぬ方向を向いてルダージュの視線から逃れようとしている。


「本気で着るつもりか!? いや、待て、貝殻はやめてくれ! あれは本当にただのイメージだから! セルティアが水着を着るつもりなら自分に似合っているものを選んでくれた方がずっと嬉しいから!」

「……わかりました」


 どうやら本気でルダージュがイメージした人魚の服を着るつもりだったらしい。

 台詞は同じでもどこか安堵したように首肯するセルティア。そんな彼女に戦々恐々としながらも、ルダージュは心の中で「セエエエエエフ!」と雄叫びを上げる。

 そしてふと視線を感じ顔を上げると、いつの間にか元の位置に戻っていたアルフォスと目が合った。


「参考になったよ。伝えておくね」

「なにを!?」


 抜け目のないアルフォスに頭を抱えるルダージュだったが、彼は「まぁまぁ」と手で制止、空気を入れ替えるようにがらりと雰囲気を変える。


「ま、それはそれとして話を戻すけど、こっちの手紙はアリアデュラン王国のマクゼクト王からの親書だ。内容は後で直接読んでもらうが、要約すると一緒に送った湖の園の依頼を受けてほしいというものだ」

「依頼……ですか?」


 生徒会長モードになったセルティアが親書である白い封筒から青の封筒へと視線を移す。ルダージュの腕に抱きついたままなのはご愛嬌だ。もはや誰も突っ込まない。


「読んでみてくれ」

「拝見します」


 やっと腕から離れ、テーブルに置かれた青の封筒に手を伸ばす。

 封筒を覗くと、そこには同じ材質の紙が一枚だけ入っていた。セルティアが封筒から手紙を抜き取り広げてみると、


「……白紙?」


 何も書かれていなかった。

 だがルダージュの疑問を他所に、セルティは片方の人差し指をくるりと回し無詠唱の魔法で水球を空中に作り出した。


「湖の園は特殊な紙を生産しています。水に濡れても傷まない紙、そして水に濡らすと可視化される塗料です」


 つまり、


「こうすることで本来の姿を表します」


 セルティアが手紙を水球に浸すと、紫色の文字が浮かび上がってきた。

 ルダージュは異世界文字を読解することはできないが、勉強を怠ってはいないので少しだけ内容は理解できた。

 依頼とは討伐依頼。しかも見たことがある書式だったのでギルドからの依頼だということもわかった。そして討伐対象なのか簡易的な絵も描かれている。魚のようなよくわからない見た目の化け物(・・・)だ。


「……っ、これは」

「セルティア? もしかしてそれって……」

「――はい、ルダージュの想像通りだと思います。これはギルドからの正式な派遣依頼書。指名されているのは『灰騎士』のルダージュとその召喚士。場所はリューゼル湖、水中都市アクアリゼルが治めている湖。そして討伐対象は――水棲型の幻魔(・・)です」



 ±



「驚いたよ。君ならまだしもルダージュに快諾してもらえるなんて思っていなかったから。それに彼はもう少し君を過保護に扱っていると思ってたんだけど……見当違いだったかな?」

「そんなことはありませんよ。十分過保護で心配性な精霊さんです」

「そうかな? でもまさか幻魔との戦いよりも君の学業が遅れてしまうことへの心配が上とはね。想像もつかなかったよ」

「ルダージュを召喚してから王都へ行ったりなんだりと目まぐるしい日々だったので勉強が疎かになっていたのは事実です。その分、夜の勉強量を増やしていたのですが……どうやらずっと隣で見ていたルダージュには無理をしているように映ったようです」

「ははん、自分のせいで君のことを振り回していると懸念したわけだ」

「はい!」

「嬉しそうな顔だ。召喚士と召喚獣の仲が良いのは学園長として僕も嬉しいよ。後はさっきもルダージュに言ったけど君の成績のことは心配しなくていい。元々成績が下がっているわけではないし遠征中は実技も免除する。そもそも君は対外的に見ても幻魔を討伐できる召喚士なのだからこのまま首席で卒業してもらうのはほぼ確定だ」


 アクアリゼルからの幻魔討伐依頼。

 セルティアが二つ返事で了承したのはつい先程のこと。そしてルダージュはというと1つの条件をアルフォスに提示した。それは自分の召喚士であるセルティアの学業面でのサポートと保障だ。また遠出して授業に出られないとあらば彼女の負担が増える。それを回避するために学園長に直談判した、という流れだ。

 

「さて、そんな召喚士想いのルダージュに席を外させて報酬の話をしたいだなんて、なんというか珍しいね。君はそういった欲は出さないタイプの生徒だと思っていたんだが」

「……そんなことはありませんよ。私も人間ですから、欲望に従って動きたくなることだってあります」


 アルフォスの言葉通りルダージュはすでに席を外している。セルティアが「報酬の話をしたいので先に戻っていてもらえますか?」とお願いしたからだ。ルダージュも最初は疑問を感じたが、だからといって断る理由もなかったので素直に応じることにしたのだ。アルフォスからはセルティアの助けとなると言質も取っていたので留まる理由もなかった。


「ふ~ん? ま、いいさ。それで? 欲望に塗れた生徒会長さんはどんな報酬がお望みなのかな? 幻魔を討伐するという功績に見合う報酬となるとなかなか――」

「水中都市アクアリゼルに保管されている全て(・・)の蔵書の閲覧許可が欲しいです」


 まるで用意してきたかのような要望に「遠征中も勉強がしたいので」と優等生の模範回答が付け加えられる。


「……うん、なるほど。学園に対する依頼でもあるから、学園長である僕なら融通を利かせることができる。この依頼を受注するための条件としてその報酬を追加することは可能だ。先方には親書を用意しておくからアリアリゼルの長にでも手渡してくれ」

「ありがとうございます」


 もう用は済んだとばかりにセルティアは部屋を出て行こうとする。

 そんな彼女の背中を「でも、その内容ならルダージュに席を外してもらう必要はなかったんじゃないかな?」とアルフォスは呼び止めた。

 セルティアは振り返り、苦笑いを返す。


「もう、お忘れですか学園長先生。ルダージュの前で勉強がしたいなんて言ったらまた心配されてしまうじゃないですか。このことは内密にお願いしますね」

「……うん。そうだったね、ごめんごめん」


 アルフォスは納得したとばかりにわざとらしく首を縦に振った。

 そして今度こそ部屋を出ようとドアノブに手をかけるセルティアだったが、またしても「あぁ、言い忘れていた」というアルフォスの声に呼び止められる。

 セルティアは振り返らない。


「ルダージュにはこちらの世界の人魚について事前に教えておくんだよ? どうやら彼の想像する人魚と現実の人魚には致命的な乖離がありそうだからね」


 その違いとは――


「人魚は“元々人間で、魔法で(・・・)魚の下半身を手に入れた部族の末裔だ”ってね」

「もちろん、伝えておきますよ。それではこれで失礼します」


 足早に去っていくセルティアの顔を窺うことはできなかった。

 閉じられた扉を眺めながら、アルフォスはソファーに体を預けるように深く座り、ゆっくりと長いため息をついた。

 遠い目をしながら外を眺めると空は湖のように澄み渡りどこまでも広がっていた。


「人魚の楽園で研究をしたい、か……まったく、誰かさんにそっくりだ。そうは思わないかい?」


 アルフォスの問いに答える召喚士は彼の近くにはもういなかった。

【学園祭編】 ―完―


 ギャグ回が中心でしたが不穏な感じで終わってしまいました。

 ここから先は不定期更新に戻ります。灰騎士物語の外伝追の章は【人魚の国編】に続きますが、正統な後編である白黒騎士物語を先に書いていきます。先の展開が気になる方は同一作者の『白黒騎士物語』に続きが載っています。


※補足:『白黒騎士物語』は『灰騎士物語』の後編であり、約7年の月日がたっています。五章を読んだ段階で読むことができますし、外伝・追の章と読み比べることもできます。


それでは、

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

少しでも面白いと思った方はブックマークと広告下の☆で評価していただけると嬉しいです!

ポイントによる応援があると作者のモチベーションが上がり励みにもなるので、なにとぞ応援のほどよろしくお願いいたします!!



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