プロローグ ひと ときのバカンス
「ルダージュ! ボールを上げますよ!」
「こい!」
セルティアの掛け声が砂浜の上で響き渡り、ルダージュが呼応するように助走をつける。
ボールが揺れ、セルティアから美しいトスが上がった。
ジャンプしたルダージュと灰色のボールの軌道は完全に噛み合い、吸い付くようにルダージュの右手に収まり――打ち込まれた。
完璧なスパイクだった。
「――!?」
口元を仮面で覆ったエルフ――シルヴィエがレシーブで対応するが勢いを殺しきれずボールはあらぬ方向へと打ち上がった。
「……まかせて」
その横をすり抜けるように小さな影が疾走した。
兎耳をなびかせ自慢の脚力で追従するバニー獣人のティーユ。
ティーユは空高く舞い上がったボールを追いかけるように地面から飛び跳ね、オーバーヘッドキックの要領で相手のコートであるセルティア・ルダージュペアの陣地へとボールを蹴り入れた。
「それはうますぎる――っ!?」
完全にアウトコースだと高を括っていたルダージュは予想外の角度からのシュートになす術もなく、ボールは魔装で描かれたコートラインのギリギリを踏んでバウンドし、そのままコロコロと砂浜を転がっていった。
「いえーい」
「――!」
ティーユとシルヴィエが両手でハイタッチをしている。
「ごめん油断した」
「どんまいです、ルダージュ! 次はこちらのサーブなのでまた点を取り返してあげましょう」
健闘を讃え合うペアの横で励まし合うルダージュとセルティア。
4人は今、世界最大の湖と謳われているリューゼル湖の最南端に位置する港町、南ペリオル町と呼ばれる観光町のビーチにいた。
観光地なだけあって周囲にはルダージュたちの他にも観光客がちらほらと散見し、湖で“幻魔が出現した”という報告があったとは思えないほど平和な様相を呈していた。
「それにしても本当に遊んでいるだけになってきたな……」
「仕方ありませんよ。手違いで水中都市行きの便が遅れ、案内役の人魚の方とも連絡が取れない状況。事態が進展するまで私たちにはこうやって時間を潰すことしかできません――よっ」
セルティアが掛け声と共にサーブを打ち、ボールが放物線を描きながら飛んでいく。
幻魔討伐の為に派遣されたルダージュとセルティアは思わぬ足止めを受けていた。水中都市の住人である人魚の案内人が約束の時間に現れなかったため出航が遅れているのだ。それを聞いたルダージュは船で出迎えればいいじゃないかと提案したのだが、そもそも乗る予定だった船そのものも何かの手違いか漁に出ており足がない状態。
さらにリューゼル湖は世界最大の面積を誇る内陸湖であり、その大きさはアリアデュラン王国の領地に匹敵するほど広大だと言われている。
水中都市アクアリゼルはそんな湖の人魚の隠れ里。
秘境とも呼べるその場所へは人魚の案内無しでは絶対に辿り着くことができないと世間に喧伝されていたのだった。
観光客の姿があるのもその広大さゆえ、幻魔が出没したところで数百キロ先の話では対岸の火事であり、火事の煙すら見えないのであれば警戒心すら抱くことも難しいということだ。
そして結果的に手持ち無沙汰となってしまったルダージュたちは、せっかくの観光ビーチということでビーチバレーとセパタクローを複合したボール遊びで暇を潰すことにしたのだった。
「楽しいからもーまんたい……」
飛んできたボールを手慣れたように足でレシーブするティーユ。
どうしてビーチバレーもどきで遊んでいるのか。それはティーユが「異世界の遊び……教えて」とルダージュにお願いしたからだ。
ルダージュは少ない知識と経験、あやふやな記憶からビーチバレーを提案しルールを説明。途中脚力自慢から「足は使っていいの?」という質問を受けたときは答えに窮してしまったが、セルティアから「できれば元の世界のルールとは別物にしたいので色々採用してみましょう」と謎の援護もあり、異世界流のトンデモルールも付け加えられた。
今もまたシルヴィエが風の魔法で飛翔し、超高打点からスパイクを打とうとしているのもその影響だ。
「――!」
「決めさせません!」
「おー……さすがかいちょー」
シルヴィエの爆速スパイクをセルティアが弾き、ティーユが呑気に賞賛を送る。
「セルティア! これで2人に勝つぞ!」
「はい!」
ルダージュからのトスを受け、今度はセルティアがスパイクを放った。
幻魔討伐の派遣依頼を受けたのはセルティアとルダージュの召喚獣士コンビであり、本来なら4人でスポーツを楽しむことなどできなかった。
ではなぜティーユとシルヴィエが同行することになったのか。
それは派遣任務の出発日当日まで遡る。
±
「着いていきたい? 俺たちの依頼にか?」
「ん、連れてって」
「そう言われてもなぁ……」
魔導都市学園校門前。
またも学園を留守にするということでセルティアとルダージュはいつものメンバーによるお見送りの真っ最中だった。
メンツは8人。
お留守番人型精霊のアリアンジュ。
生徒会代表として副会長のロイ。
理事長の代理で巫女姉妹のオリヴィエとシルヴィエ。
友人枠として天災のミリアと貴族令嬢のアリージェにその従者であるオルガ。
そして最後にバニー系獣人のティーユだ。
「旅の準備は万端」
「それは見ればわかるけどさ」
ティーユは足元に降ろしていた身の丈と同等の大きさのバッグをポンポンと叩き、万全であることを主張する。
早朝の見送りになぜか旅の支度を用意し登場したティーユ。
そんな彼女にセルティアが『ティーユもどこかに出かけるのですか?』と質問を投げかけたのが切っ掛けだった。
『わたしもお兄ちゃんの任務に同行する』
バニー娘はいつもの眠そうな顔をしながらもどこか決意に満ちた声で言い切ったのだ。
「ティーユ? 貴女のお気持ちもわかりますがただの討伐任務ではありませんのよ? 敵は幻魔でしかも水棲型という珍しいタイプ。わたくしたち学園生ではお二人の力になれるどころか足手まといになってしまいますわ」
「そうですよ、やめた方がいいです。カグラさんの精霊は火のエレメント系で相性もよくありませんし……」
アリージェとミリアがそれぞれの観点から説得を試みるが、
「それでも連れて行ってほしい」
ティーユの決意が変わることはなかった。
困惑する同級生一同。
今回、セルティアとルダージュが討伐する幻魔は一介の学園生が対処できる相手ではない。それどころか水棲型となると王国の現宮廷魔法使ですら手に余る難敵だ。
それがわからないほどティーユも馬鹿ではない。
そして、だからこそ“連れて行ってほしい”と懇願しているのだ。ルダージュたちに拒絶されるなら諦めると暗に示しているのだろう。
「……理由を聞いてもいいですか?」
沈黙を続けていたセルティアが始めて言葉を発した。頭ごなしに拒絶しないのはティーユのその考えをある程度察しているからだ。
真剣な眼差しを向けられ、ティーユは精霊の錫杖を強く握りしめた。
「いつかお兄ちゃんの役に立つために……」
少しだけ言い淀み、
「幻魔に慣れておきたい」
とティーユは言い切った。
「慣れるというのは戦いに慣れるという意味ですか?」
「それはまだ無理。今のわたしじゃ足手まといにしかならないってわかってる。水中にいる幻魔なんてどうやって戦えばいいのかすらわからない。身の程はわきまえてるつもり」
「驕っているわけではないということですね。……どうでしょうかルダージュ? 精霊好きの私としてはルダージュのためと言われてしまうと弱いのですが」
「チョロすぎるだろ……」
己の人型精霊を引き合いに出され呆気なく懐柔されてしまった召喚士とそんな彼女を前にわざとらしくため息を漏らす召喚獣。
彼もまた、どことなく嬉しそうな表情を隠せていないので人のことは言えなかった。
「――くっ、やだ、これ妬いちゃう! 目の前でイチャイチャイチャイチャしちゃってさ! どうして私は行っちゃダメなの!?」
睦まじい光景を見せつけられたせいかアリアンジュが発狂したようにぼやき始めた。それを一番の年長者であるオリヴィエが諭す。
「仕方なかろう? 先方の指名は灰騎士のみ。時期的にアリアンジュが帰還したことを知らぬまま依頼書を寄こしてきたのだろう」
「うぐぐ」
「マクゼクト王からも緊急時に備え灰騎士と紅騎士が同時に国を離れることはまかり成らぬと釘を刺されているだろう?」
「わかってるけどさ! わかってるけど……」
声が段々と尻すぼみになっていくアリアンジュ。
彼女とルダージュは王の勅命により緊急時――つまりは幻魔が王国に出現したときの対処を命じられている。そのため今回のリューゼル湖への派遣任務に紅騎士であるアリアンジュの同行は認められていない。
「ちなみにアリアンジュはどちらに嫉妬しているのだ?」
「どっちも! 私もセルティアちゃんの召喚獣として旅行したいし、先輩とだって――」
「アリアンジュ! そんな風に思っていてくれてたんですね! 私もあなたとひと時も離れたくありません!!」
「わぷ」
感極まったセルティアに抱き着かれアリアンジュの顔がその胸に埋もれた。
「……もしかして、おこがましい?」
抱き合うセルティアとアリアンジュを見つめながら、ティーユがそんな疑問を口にする。セルティアの召喚獣ですら同行できないのに、ただの友人である自分が付いていこうとするのは身の程知らずなのではないかと不安になったのだ。
だがそれは当人によって否定される。
「や、違うよティーユちゃん。むしろ逆! 私が行けない代わりに二人のことサポートしてほしい」
セルティアの胸元から顔を上げながらアリアンジュが後押しする。
「幻魔との戦闘なら先輩がいれば絶対に負けないし、誰かが傷つくことなんてありえない。でも魔物との戦闘や異世界の環境はわからないことばかり。もともと二人旅は心配だったし……だからセルティアちゃんと先輩のことを支えてくれる人に付いていってほしい」
彼女にとってルダージュは同郷の人間。魔装の力を手に入れ召喚獣になったとしても、根っこの部分は自分と同じ年相応の青年でしかないことはわかっていた。
不慣れな環境での旅。事情を知っている親しい人間が付き添ってくれるのならアリアンジュも安心できるということだ。
特に異世界の常識は元の世界とは大きく異なることも多い。
ルダージュとアリアンジュは召喚されて数週間ほどしか差はない。アリアンジュが感じる困惑は先輩にとっても似た動揺をもたらすだろう。
(先輩のことを助けてほしい。……もしかしたら召喚士ちゃんには言いづらい悩みに直面することもあるかもしれないし)
懸念は言葉にはせず、心の中にだけ留めた。
「では、こうしよう」
成り行きを見守っていたオリヴィエが声を上げた。
「ティーユの護衛に妹のシルヴィエも連れて行くといい」
「――!?」
オリヴィエの提案にシルヴィエが目を見開く。
このタイミングで自分に白羽の矢が立つとは思いもしなかったか、驚きのあまり携帯型黒板を取り落としそうになっていた。
慌てて『姉さんは?』と筆を走らせるが、当のオリヴィエは飄々と「私はほら、泳げないしアリアンジュの剣の稽古を任されているからここに残る」とアリアンジュの肩を抱き寄せながらセルティアから引き離していた。
「え、そんな話聞いてない!」
「言ってなかったか? マクゼクト王からの手紙にあったのだ。国を代表する騎士たるもの剣の一つや二つ扱えなければ格好がつかないので巫女直々に鍛えてほしい、とな。早速明日の朝からルダージュがやっている特訓メニューをこなしてもらうぞ」
「嘘!? それって先輩が毎日やってる戦闘訓練ですよね!? 朝っぱらからひたすら剣で戦い続けるあの死の剣舞!! しかも2人がかり!」
まだ太陽が顔を出さない早朝から2時間。ルダージュは巫女姉妹を相手に剣術の稽古をずっと続けていた。聖刀剣の巫女と変わるがわる、もしくは同時に相手をしなければならない過酷な特訓。いつしかそれは周囲から死の剣舞と畏怖されるほど学園の名物になっていた。
「安心しろ。シルヴィエが任務に同行するということは相手は私だけだ」
「それなら安心――じゃない! 時間は!?」
「ルダージュと同じで毎朝みっちり」
「ひえっ」
「いや、授業に出なくていいなら日中にも別の訓練をつけたそう。国を象徴する騎士となるなら礼儀作法を今のうちに身につけておくのもいいかもしれないな」
「冗談でしょ……」
「あとは放課後も空いているな? 異世界に不慣れな人型精霊のためにこの世界の常識と教養を学ぶ場も用意しておこう」
「や、やっぱりー私もセルティアちゃんの任務に付いてこーかなーって」
オリヴィエの腕から逃れようとアリアンジュがもがいているが、
「諦めろ」
歴戦の巫女エルフの拘束はあまりに強固で本気を出さなければ抜け出せそうにはなかった。
「セルティー……」
己の召喚士を愛称で呼び、哀愁を漂わせる。
庇護欲を掻き立て精霊好きの同情を買う作戦に変更したようだ。
しかし、
「アンジュの成長を楽しみにしてますね!」
「そっちかー……」
助け舟ではなく、声援で見送られてしまった。
だったら、とセルティアの隣に目を向ける。
「――先輩!」
「がんばれ」
「薄情者!!」
ルダージュにも即答され敢え無く撃沈。アリアンジュは諦めたように項垂れた。
「さて、話を戻そう。シルヴィエがいればルダージュは魔装だけではなく聖刀の力も使うことができる。聖刀は風を操る刀だ。水中であれ水上であれどのような状況でも役に立つだろう」
「それは……確かに助かるな」
「妹は器量も良く、最近では異国の料理の勉強に力を入れている」
「頼もしい」
まるで通販番組のように実妹をオススメしてくるオリヴィエと律儀に頷くルダージュ。
そんな姉の隣ではシルヴィエが気恥ずかしそうに顔を伏せていた。
「それにこう見えて妹は包容力もある。悩みがあれば相談してみるといい。きっと甘やかしてくれるだろう」
「……!」
「本人めっちゃ驚いてるけど? てか、これは俺の許可で2人の同行が決まるのか?」
ルダージュがセルティアに問うと、彼女はさも当たり前のように「私はすでにティーユに絆されているので、後はルダージュの意思次第ですね」と肯定した。
「さいですか……」
どうしたものかと腕を組む。
魔界にいたときは水棲型の幻魔と戦ったこともある。油断するわけではないが一日の長程度の戦闘の心得はあるつもりだ。
悠乃――アリアンジュから魔装を返還されたことで力を取り戻したルダージュ。
全盛期以上の能力がある今、危険だから付いてくるなとは言えなくなっていた。
(拒絶する理由が見当たらない……)
これは驕りではなく事実による弊害のようなものだ。
「ダメ? お兄ちゃん」
ルダージュの返答を待つティーユの瞳は不安に揺れていた。
幻魔に慣れるためと彼女は言った。それは召喚士として将来的に幻魔に対抗するための経験を積もうと考えているのかもしれない。
お誂え向きのこの機会をティーユは逃したくないのだろう。
そう解釈し、ルダージュは人差し指を立てる。
「1つ条件がある」
「ん、なんでも言って」
即答だ。
表情にほとんど変化はなかったがルダージュを見上げるその視線も揺らぐことはない。
「俺から魔装の譲渡を受けること。合宿中にセルティアに渡した魔装とだいたい同じぐらいの量だな」
「わかった。受け取る」
「……いいのか?」
「? どういう意味?」
得体のしれない幻魔の力をそんな簡単に受け入れるのか。
「……」
と今更聞くのはさすがに野暮だと思い直し、ルダージュは言葉に詰まる。
「私を護るために貸してくれるんでしょ? ありがと、お兄ちゃん」
そんなルダージュの葛藤を知ってか知らずか、ティーユは素直にお礼の言葉を口にして頬を緩めた。
「あー……っと、シルヴィエも付いてきてくれるんだよな?」
「! っ!」
突然話を振られ、こくこくと激しく頭を振るシルヴィエ。
「頼りにしてる。もしかしたら聖刀を使わせてもらうかもしれないから、その時はよろしく」
『まかせて』
携帯型黒板を胸の前に掲げ目を細めるシルヴィエ。
そんな彼女に姉のオリヴィエがすすすと近寄った。そして妹にしか聞こえない声で耳打ちをする。
「あの時のミスを取り返すチャンスだぞ、妹よ」
「……?」
あの時のミスとは何の話だろうと首を傾げる妹に、姉は意地の悪い笑みを浮かべ自分の頬をつんつんと指でつついた。ついでにリップ音もわざとらしく鳴らす。
「~~~~~~!」
ジェスチャーの意味に気が付いたシルヴィエがかぁーっと顔を赤くし、ぽこぽこと姉を殴り始めた。
聖剣の巫女の珍しく慌てた様子に周囲は目を丸くする。学園祭の失敗を思い出して悶絶しているなど誰も思いはしないのだろう。1人を除いては。
「……とりあえず、旅支度ができるまで待ってるよ」
話は一段落となり、ルダージュは気まずそうに頬を掻くのだった。
±
(あの後、シルヴィエが急いで部屋に戻ったけど、すぐに荷物を持って帰ってきた。あれは事前に準備してたんだろうな、オリヴィエが)
姉と自室に戻ったシルヴィエが身支度に費やした時間は10分もなかった。
それはルダージュの想像通り姉オリヴィエの暗躍によるものだ。彼女は最初から幻魔討伐の派遣任務に妹のシルヴィエを同行させるつもりだったのだ。
理由は複数あるが、主な目的はすでに話し合いの中に上がっていた。
ルダージュに実戦で聖刀剣を握らせ、戦闘訓練を施すこと。
そして可愛い妹が失敗してしまったアレのやり直しの場を設けることだ。
聖刀剣――巫女姉妹に選ばれた勇者として、ルダージュは聖剣と聖刀の使い方を本人たちからレクチャーされていた。
人目を忍ぶために特訓は週に数回のみ。夜な夜な学園の訓練場を貸し切ってはオリヴィエとシルヴィエを相手に実戦形式で戦い方を学んでいた。
だが、幻魔が出現しなければ聖刀剣に出番はない。それどころかルダージュだけでも戦えてしまうので契約して以降はこれといった活躍の場がなかった。
姉妹にとって今回の派遣依頼はまさに渡りに船だったのだ。
そして聖剣ではなく聖刀だけがついてきた理由は――
(……アレか)
自然とルダージュの視線はシルヴィエの顔――口元を覆う白い仮面に惹きつけられる。
(再チャレンジってことか。俺としてはどんと来いって気持ちが大きいけど……いつまでも受け身でいるわけには――)
頬に押し当てられた硬い感触を思い出し、物思いに耽る。ルダージュ自身も自分が誰に惹かれているかわからないほど鈍感ではない。でもだからこそ慎重に、そして決意を持って次に進みたいと考えていた。
(元の世界の常識なんてとっくに捨てた。俺が一歩踏み出すには……まず彼女に決心を伝えたい。それに学園長に確認したいことも――)
「ルダージュ! 危ない!」
「――え? ぶはっ!?」
ビーチバレーの真っ最中だということを忘れてはならない。
考え込んでいる間に戦況が変化し、シルヴィエの強烈なスパイクから放たれたボールはルダージュの額に吸い込まれ、そのまま顔面レシーブで受け止める形となった。
「……!!」
「大丈夫ですか!?」
シルヴィエとセルティアが慌てて駆け寄り試合は中断。
回復魔法で治療をするために揃ってルダージュの顔に手をかざした。
「ありがとう。ちょっとよそ見してた」
「よそ見……ですか? ずっとシルヴィエ先生を見ていたような気がするのですが……」
「……」
セルティアもよく見ていらっしゃる。
誤魔化しきれないと感じたルダージュは「眩しくて……つい」と曖昧な言葉で濁した。
「なるほど、シルヴィエ先生の水着姿に見惚れていたんですね」
「……!?」
「え? あ、いや……確かに綺麗だと思うし眩しいけど……」
「!」
セルティアとルダージュのやり取りにシルヴィエは終始戸惑い気味だ。
携帯型黒板をどこからともなく取り出し、悩んだ末に出したのは――
『もっと見つめていいよ?』
大胆な答えだった。
今回の派遣任務は湖ということもありルダージュ含め全員が水着に着替えていた。異世界の水着と言ってもルダージュが日本で見慣れていたものとあまり変わらない。セルティアとシルヴィエはビキニタイプの防水性に優れた布で身を飾り、それぞれが黒と白を基調とした色を選んでいた。
(種類はよくわからないけど身体に巻き付くようにクロスしてたりレースがあったりとお洒落だ)
改めて見てもいいものだと、ルダージュは頷いた。
最初のお披露目の時に素直な感想として「可愛い」「綺麗」などのありきたりな言葉は伝えていたが、太陽の下でバカンス気分でいるとさらに趣があると感じてしまう。
嘘をついているという憂いもなく後ろめたいこともない。今までとは違う心の持ちようがルダージュを正直にさせていた。
「鼻の下伸ばしてたの?」
そんなルダージュを一言で表したバニー娘がボールを持ち上げ頭に乗せながら帰ってきた。
ティーユの水着はフリル付きのワンピースタイプ。「実は、な」と言い繕わないルダージュに対し、彼女はシルヴィエの文字を覗き込んだ後、ルダージュに見せつけるようにくるりと回りお尻の尻尾を突き出した。
「かわいい?」
「はしたないですよ、ティーユ」
窘めるセルティアとそれならと試行錯誤してポーズをとるティーユとシルヴィエ。
やんちゃな彼女たちを見つめながらルダージュは苦笑し、目的も忘れ平和で和やかな空気を楽しむのだった。
新章を開始しました。
灰騎士物語本編の続きで白黒騎士物語に繋がる章です。
ここから先の話を読むと白黒騎士物語本編で語られていない部分が段々とわかるようになる予定です。




