【学園祭編】 プロローグ
「お帰りなさいませ、ご主人様! お嬢様!」
どうしてこうなった。
「本日は二名様のご来店ですね。お席に案内します」
どこで間違った。
「こちらがスペシャルメニューの萌え萌えキュンキュンラブリーオームライスになります。今からソースで魔方陣をお絵描きしますねー……あ、間違っても魔力は流さないでくださいね? 燃え燃えになっちゃいます~」
誰が悪かった。
「あ、そこの獣人のご主人さま~? メイドには接触厳禁ですよ? おいたをしちゃう悪い人は精霊で消し飛ばしちゃうので気を付けてくださーい」
和やかな空気と穏やかな声に紛れる物騒な言葉。
魔導都市学園の一室は多種多様で幅広い年齢層の人種で溢れていた。その部屋――店内は喫茶店のような内装にデザインされており、テーブルと椅子も飲食店が使うような移動しやすい軽量の物が並んでいる。
店内は満員だった。
そして複数のメイドたち――正確にはメイド服で着飾った精霊科一年の生徒たちが忙しそうに働き回っている。
「いや~今年の森羅学祭は物珍しいものが沢山あって面白いですな~。精霊科に足を向けたのなんて私は初めてですよ」
「そりゃあもともと精霊科は我々のような平民には無関係の研究ばっかり展示してましたから。日常生活に便利な魔導具のお披露目といったら魔法科でしょう」
紅茶を嗜みながら談笑する紳士が二人。恰幅のいい身体とそれに合わせたオーダーメイドのスーツを着こなしている。
自分たちのことを平民だと称しているが、正確には平民の商人だ。彼らは毎年開催される魔導都市学園の学園祭に足を運び、商売になりそうな学生の研究を視察に来ていた。それが今年は「精霊科がおかしなことをしている」と噂を聞きつけ、休憩がてら精霊科の催しを覗きに来ていたのだった。
「それにしても生徒が使用人の服を着て接客を行うとは……なんともヘンタ――奇抜な発想ですな」
「はっはっは、ぜひ提案した学園生徒とお話をしてみたいものですよ」
ぴくり、と教室の様子を廊下で窺っていた影が商人たちの言葉に身を震わし、心の中で頭を抱える。
影は学園の制服に身を包んだ男だった。その姿はこの世界では珍しい黒髪黒目の青年であり、左頬には契約の紋様が浮かんでいる。
「あれ? そんなところで何をしているんですか? ルダージュ」
目敏いメイドの一人が不審者のような男――もといルダージュを発見し、一瞬で彼の隣へと移動した。後方では先ほどまで接客を受けていた客が消えたメイドの姿をキョロキョロと捜し始めている。
「お疲れ様、セルティア。少しみんなの様子を確認したくて」
そのメイドはルダージュの召喚士のセルティア・アンヴリューだった。彼女もまたいつもの精霊科の学生服ではなく、クラシカルなロングスカートのメイド服を着ている。
「そうだったんですか。でも安心してください。この通り大盛況ですよ! さすがルダージュの提案で――」
「ちょっ声が大きい」
ルダージュは慌ててセルティアの口を手で塞いだが、近くの客に聞こえてしまったのか二人を盗み見るようにひそひそとし始めた。
「……はぁ」
そう、すべて自分が悪いんだとルダージュはため息をつく。
異世界の学園祭にメイド喫茶が出店される。そんなバカげたことが現実となる切っ掛けとなったあの日。
あの日の失言がなければこんな状況にはならなかったのに、とルダージュは遠い目で天を仰いだ。




